第62話「風を読む修行」
翌朝。
蒼真は一人、山道を登っていた。
「ここが修行場所か……」
山頂付近には、木々の間を強い風が吹き抜けている。
蒼真が風影刀に手を伸ばす。
その瞬間。
「抜くな」
背後から影宗の声がした。
「師匠?」
「今日の修行では、その刀を使わない」
蒼真が驚く。
「風影刀を?」
「ああ」
影宗は山頂を指差した。
「まず、お前自身が風を扱えるようになれ」
「どうすれば?」
「目を閉じろ」
蒼真は言われた通り目を閉じる。
「周囲の風を感じろ」
「……」
木々が揺れる音。
鳥の羽ばたき。
葉が擦れる音。
だが、蒼真には風そのものが掴めない。
「分からない……」
「風を掴もうとするな」
「え?」
「読むんだ」
蒼真はもう一度集中する。
頬を撫でる風。
右から左へ流れる風。
その中に、僅かな違和感を感じた。
「……右」
影宗が黙って見つめる。
「右から風が来てる」
「次は?」
蒼真が集中する。
「……上から落ちてくる風がある」
「よくなった」
蒼真が目を開ける。
「これが風を読むってこと?」
「ああ」
影宗は木の枝を一本拾った。
「では、これを避けろ」
枝を投げる。
ヒュッ!
蒼真は反射的に横へ飛ぶ。
枝が肩をかすめた。
「今のは避けられたな」
「風で分かった」
「そうだ」
影宗が次々と枝を投げる。
一本。
二本。
三本。
蒼真は風の流れを感じながら避けていく。
だが――
「ぐっ!」
最後の一本が肩に当たった。
「まだまだだな」
「……悔しい」
「それでいい」
影宗は背を向ける。
「悔しさは、成長するための力になる」
蒼真は山頂から吹く風を見つめた。
「もっと読めるようになってみせる」
その頃、黒影衆の里では――。
「こっちは何をすればいい?」
蓮司が影宗の別の弟子に尋ねていた。
凛は水遁の修行。
レイは二本の短刀を使った近接修行。
四人はそれぞれ、自分の弱点と向き合い始めていた。
そして山の向こう。
黒い忍装束の男が、蒼真たちのいる山を見上げていた。
「風継ぎ……」
その手には、夜叉衆の紋章。
「修行を始めたか」
男は静かに笑った。
「ならば、完成する前に潰す」
山頂では、蒼真が再び目を閉じていた。
風が吹く。
今度は――
さっきよりも、はっきりと流れが見えた。
「……感じる」
蒼真の修行は、始まったばかりだった。
第62話・完




