第5話「撤退」
「走れ!」
隊長の声と同時に、蒼真たちは砦から離れた。
背後から敵兵の声が聞こえる。
「逃がすな!」
「追え!」
蒼真は木々の間を駆けながら、何度も後ろを確認した。
「思ったより追ってくるな」
蓮司が隣を走る。
「砦で騒ぎになったからな」
「それより、さっきの忍びは?」
「分からない。いつの間にか消えてた」
蒼真は黙った。
あの忍びの言葉が頭から離れない。
『風が、お前の動きに合わせている』
自分でも気づいていなかったことだった。
その時、隊長が手を上げた。
「止まれ!」
五人が一斉に足を止める。
「敵はここまでは来ていない」
隊長は周囲を確認する。
「少し休むぞ」
蒼真は木にもたれかかる。
蓮司が隣に座った。
「初任務、どうだった?」
「最悪だな」
「ははっ。まあ、無事に帰れそうだし十分だろ」
「……そうだな」
蒼真は空を見上げる。
「でも、あの忍びが気になる」
「俺もだ」
蓮司は真剣な顔になる。
「俺たちのことを知りすぎてる」
隊長が二人の会話を聞いていた。
「その話は里に戻ってからだ」
「はい」
隊長は立ち上がる。
「今日の任務で得た情報を整理して、黒影衆へ報告する。今は無事に帰ることだけを考えろ」
「了解」
五人は再び歩き始めた。
蒼真は最後に一度だけ、砦の方向を振り返った。
そこには誰もいない。
だが、蒼真は確かに感じていた。
風の中に、あの忍びの気配が残っている。
「……また会う気がする」
蒼真は小さく呟いた。
そして五人は、黒影衆の里へ向かって山道を進んでいった。
第5話・完




