第3話「北の砦」
黒影衆の里を出発して、数時間。
蒼真たちは山道を進んでいた。
先頭を歩く隊長が、手を上げる。
「止まれ」
五人が足を止めた。
「この先に敵の砦がある」
蒼真は木々の隙間から前を見る。
遠くに、大きな砦が見えた。
「思ったより近いな」
蓮司が小声で言う。
「気を抜くなよ」
「分かってるって」
隊長が振り返る。
「ここからは音を立てるな。目的は偵察だ」
「はい」
蒼真たちは森の中を進んだ。
しばらくすると、砦の外壁が見えてきた。
見張りの兵士が二人。
蒼真は木の陰に身を隠し、兵士の動きを観察する。
「……今なら行けます」
隊長が頷く。
「行くぞ」
五人は一斉に動いた。
蒼真は壁を駆け上がり、屋根へ移る。
「これが……初めての実戦任務」
胸が高鳴る。
だが、浮かれている場合ではない。
蒼真はすぐに気持ちを切り替え、砦の中を確認する。
兵士の数。
武器の保管場所。
見張りの配置。
覚えた情報を頭に刻んでいく。
その時だった。
「……ん?」
蒼真が足を止める。
風が、妙だった。
砦の中から外へ流れていた風が、一瞬だけ逆方向へ変わった。
「誰かいる……?」
蒼真は目を細める。
蓮司が近づいてきた。
「どうした?」
「今、風の流れが変わった」
「風?」
「誰かが動いた気がする」
蓮司は周囲を見る。
「俺には何も感じないぞ」
「……俺も確信はない」
その瞬間。
砦の奥から――
ドンッ!
大きな音が響いた。
「何だ!?」
敵兵たちが一斉に走り出す。
「侵入者だ!」
「敵襲!」
蒼真たちは顔を見合わせる。
隊長が叫ぶ。
「撤退するぞ!」
しかし蒼真は砦の奥を見つめていた。
「隊長……」
「どうした!」
「俺たち以外にも、誰かが侵入しています」
隊長の表情が変わる。
「何?」
蒼真は風を感じ取る。
砦の奥から、明らかに異質な気配が近づいてくる。
そして――
屋根の向こうに、一人の黒装束の忍びが姿を現した。
その忍びは蒼真たちを見ると、静かに口を開いた。
「黒影衆か……」
蒼真は刀に手をかける。
初任務は、ただの偵察では終わらなかった。
第3話・完




