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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第6章「戦国武将編」
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第177話「炎槍の反撃」

東国北部、白瀬峠の北方。

朝霧に包まれた山道で、神楽トウマと霧谷ハヤセは黒頭巾の忍びと対峙していた。

背後には、保護した二人の男。

その二人を狙う敵は、短刀を構えたまま印を結んでいる。

「ハヤセ、足元に注意しろ」

トウマが告げた。

「了解しました」

黒頭巾の男は地面へ片手をついた。

「土遁・岩縛り」

土が盛り上がり、二人の足元へ伸びる。

ハヤセは後方へ跳んだ。

しかし、トウマは動かなかった。

「同じ術が通用すると思うな」

槍の石突きを地面へ突き立てる。

「火遁・炎槍!」

穂先に炎が宿った。

トウマは槍を大きく振り下ろし、迫る土の塊を砕いた。

崩れた土の向こうから、黒頭巾の男が飛び込んでくる。

「……!」

短刀がトウマの首元を狙った。

トウマは槍の柄で刃を受け止める。

「近づけば勝てると思っているのか?」

「長槍は懐に入れば不利になる」

「それは使い手が未熟な場合だ」

トウマは槍を短く握り直した。

そのまま柄を押し込み、男の胸元を突く。

黒頭巾の男は後方へ下がった。

「……なるほど」

男は短刀を構え直した。

「ただの火遁使いではないらしい」

トウマは答えた。

「お前も、ただの追跡者ではなさそうだな」


岩陰では、望月サキが若い男の足を確認していた。

「少し腫れが強くなっているわね」

「……歩けるかな」

「短い距離なら支えられるけど、走るのは無理よ」

若い男は唇を噛んだ。

「俺のせいで、みんな逃げられないんだろ」

サキは首を振った。

「今は自分を責めるより、指示を聞いて」

「……分かった」

早乙女ユウトは苦無を握り、山道の奥を警戒していた。

「サキさん、敵はまだ一人ですよね?」

「見えているのは一人だけ」

「……ほかにもいるかもしれない」

「そうね。だから周囲から目を離さないで」

その時、背の高い男が口を開いた。

「……あいつのことなら、少し知っている」

サキが振り返った。

「何を?」

「仕事を終えた後、俺たちを迎えに来た男だ」

「以前にも会っていたのね」

「ああ。ただ、名前は知らない」

男は戦いの方角を見つめた。

「だが、あいつは俺たちに金を渡した人物とは別人だ」

サキの表情が変わった。

「依頼主と、追跡者は別?」

「少なくとも、俺が会ったのは別の男だ」

「……重要な話ね」

サキは頷いた。

「詳しいことは安全な場所で聞かせて」


山道の中央。

黒頭巾の男は短刀を逆手に持ち替えた。

トウマはその動きを見逃さなかった。

「ハヤセ、右側へ回れ」

「はい」

ハヤセは素早く移動した。

男は二人を交互に見た。

「……挟み撃ちか」

「そう簡単に逃がすつもりはない」

トウマが答えた。

男は突然、ハヤセへ向かって踏み込んだ。

短刀が横へ振られる。

ハヤセは苦無で受け流した。

「……速い!」

続けて男の膝が腹部へ迫る。

ハヤセは腕で受け止め、後方へ下がった。

その隙にトウマが槍を突き出した。

黒頭巾の男は身体を捻ったが、穂先が左肩の傷をかすめた。

「……っ!」

男の表情が歪む。

トウマは槍を引き戻した。

「昨日の傷も残っているようだな」

「……余計な心配だ」

黒頭巾の男は後退した。

しかし、ハヤセが進路を塞ぐ。

「……逃げ道はありません」

男は低く笑った。

「本当にそう思うか?」

黒頭巾の男は左手で印を結んだ。

「土遁・地裂陣」

地面に細い亀裂が走った。

トウマは即座に後方へ跳ぶ。

「ハヤセ、離れろ!」

「はい!」

次の瞬間、二人の間の地面が盛り上がった。

土の壁が形成され、互いの姿が見えなくなる。

「……分断か!」

ハヤセは苦無を構えた。

壁の向こうから足音が聞こえる。

しかし、その足音はすぐに消えた。

「……どこへ?」

ハヤセは周囲を確認した。

その時、背後の地面が僅かに動いた。

「……!」

ハヤセは振り返った。

土の中から、黒頭巾の男が姿を現した。

短刀が迫る。

ハヤセは身を捻ったが、右腕の袖が切り裂かれた。

「……くっ!」

男はさらに踏み込んだ。

しかし、ハヤセは地面を蹴り、距離を取った。

「……土の中を移動したのか」

黒頭巾の男は答えなかった。

再び短刀を構える。

土壁の反対側。

トウマは槍を握り直していた。

「……地裂陣か」

敵の術は、単純な攻撃ではない。

地形を変え、相手の視界と動きを制限する。

「……厄介な術だな」

トウマは壁へ手を伸ばした。

土はまだ柔らかく、完全には固まっていない。

「ならば、崩せばいい」

トウマは槍を構えた。

「火遁・炎槍!」

穂先に炎が集中する。

そして、槍を土壁へ突き出した。

熱を帯びた穂先が壁を貫き、亀裂が広がる。

トウマは槍を引き抜き、横へ払った。

土壁の一部が崩れ落ちた。

「……ハヤセ!」

視界が開ける。

その先では、ハヤセが黒頭巾の男と戦っていた。

「隊長!」

トウマは地面を蹴った。

黒頭巾の男は、トウマの接近に気づいた。

「……もう抜けてきたか」

男はハヤセから距離を取った。

しかし、トウマは追撃の手を緩めなかった。

「火遁・炎槍!」

炎を纏った槍が男へ迫る。

黒頭巾の男は短刀で受け止めようとした。

だが、槍の勢いに押され、後方へ下がる。

トウマはさらに踏み込んだ。

「……そこだ!」

槍の柄が男の右脇腹を捉えた。

「……っ!」

黒頭巾の男は身体を折り、膝をついた。

トウマは穂先を男の喉元へ向けた。

「……終わりだ」

男は荒い息を吐いた。

「……まだだ」

「これ以上戦えば、傷が深くなる」

「……俺には、退けない理由がある」

トウマは目を細めた。

「……誰かに命じられているのか?」

黒頭巾の男は答えなかった。

少し離れた場所。

ハヤセは右腕の傷を確認していた。

布が裂けただけで、深い傷ではない。

「……何とか動けるな」

その時、背後からユウトの声が聞こえた。

「ハヤセさん!」

ハヤセが振り返る。

「どうした?」

「サキさんが、二人を連れて少し下がっています!」

「分かった」

ユウトは戦いの方角を見た。

「……隊長が押していますね」

「ああ」

ハヤセは頷いた。

「だが、まだ終わっていない」

その言葉が終わる前に、黒頭巾の男が動いた。

トウマの槍先が喉元へ向けられたまま、黒頭巾の男は左手を地面へついた。

「……土遁・泥牢」

足元の土が突然、泥へ変わった。

トウマの足が沈み込む。

「……!」

男はその隙に身体を捻り、槍の穂先から逃れた。

「……甘いな」

黒頭巾の男は立ち上がった。

トウマは泥に沈んだ足を引き抜こうとした。

しかし、泥は粘りつき、動きを妨げる。

「……なるほど」

トウマは槍を握り直した。

「最後まで逃げるつもりか」

男は答えなかった。

代わりに、懐から小さな巻物を取り出した。

「……?」

トウマの表情が変わる。

黒頭巾の男は巻物を地面へ広げた。

そこには、複雑な術式が描かれていた。

「……封印術か」

ハヤセが叫んだ。

「隊長! 何か仕掛けています!」

トウマは槍を構えた。

「……分かっている!」

黒頭巾の男は印を結んだ。

「……ここまで追い詰められるとは思わなかった」

その声には、先ほどまでの余裕がなかった。

「だが、これで終わりだ」

巻物の術式が淡く光り始めた。

トウマは泥に沈んだ足を見下ろした。

そして、静かに息を吸った。

「……そう簡単に終わらせるものか」

槍の炎が、再び強く燃え上がった。

第177話 完

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