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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第6章「戦国武将編」
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第176話「口封じの刃」

東国北部、白瀬峠の北方。

朝霧の残る山道で、二人の忍びが向かい合っていた。

黒影衆の上忍、神楽トウマ。

そして、所属不明の黒頭巾の男。

トウマの手には長槍。

対する男は、右手に短刀を握っている。

「……最後に聞く」

トウマは槍の穂先を相手へ向けた。

「その二人を、なぜ北へ連れていこうとした?」

黒頭巾の男は答えなかった。

「二人は何を知っている?」

「……お前には関係ない」

「白瀬村で人が死んでいる。それでも関係ないと言うのか」

男の目が細くなった。

「俺は命令に従っているだけだ」

「誰の命令だ?」

「答えると思うか?」

トウマは静かに息を吐いた。

「……ならば、力ずくで止める」

黒頭巾の男が地面を蹴った。

短刀の切っ先がトウマの胸元へ迫る。

トウマは槍の柄で刃を受け流し、反対側から穂先を突き出した。

男は身体を捻って避ける。

続けて足元へ短刀を振るった。

「……!」

トウマは後方へ跳び、間合いを取り直した。

「槍の内側へ入るつもりか」

「長い武器は、近づけば邪魔になる」

「それは相手次第だ」

トウマは槍を短く持ち替えた。

黒頭巾の男は再び踏み込んだ。

少し離れた岩陰。

霧谷ハヤセは、保護した背の高い男の状態を確認していた。

「腹を蹴られたんですね」

「……ああ」

「息苦しさは?」

「少しあるが、動けないほどじゃない」

「無理はしないでください」

背の高い男は戦いの方角を見た。

「……あいつは強いのか?」

「忍びとしての訓練を受けています」

ハヤセは答えた。

「ただ、こちらの隊長も簡単には負けません」

「……そうか」

男は俯いた。

「俺たちが、余計なことをしたせいで……」

「それは後で聞きます」

ハヤセは男の言葉を遮った。

「今は生きて戻ることを考えてください」

その隣では、望月サキが若い男の足首に布を巻いていた。

「少し固定するわ。痛かったら言って」

「……分かった」

若い男は歯を食いしばった。

サキが慎重に布を締める。

「……これで多少は動かしやすくなると思う。でも、走るのは無理よ」

「ありがとう」

早乙女ユウトは周囲を警戒していた。

「……サキさん」

「何?」

「敵は本当に一人なんでしょうか?」

サキは手を止めた。

「分からないわ」

「昨日も突然現れました」

「だから、今は目の前の戦いだけ見ていては駄目」

ユウトは頷いた。

「……了解です」


山道の中央。

黒頭巾の男は短刀を低く構えた。

トウマは槍を横に払う。

男は身を屈めて避け、そのまま懐へ飛び込もうとした。

しかし、トウマは槍の石突きを地面へ突き立て、身体を支点にして回転した。

蹴りが男の脇腹を捉える。

「……っ!」

黒頭巾の男は数歩後退した。

トウマは追撃せず、距離を保った。

「……その程度で槍の間合いを潰せると思うな」

男は脇腹を押さえながら笑った。

「……なるほど。黒影衆の上忍か」

「名乗る気になったか?」

「いや」

男は短刀を逆手に持ち替えた。

「ただ、少し本気を出す必要がありそうだ」

トウマの表情が引き締まった。

男は左手で印を結んだ。

「……土遁・岩縛り」

地面の土が盛り上がり、トウマの足首へ絡みつく。

「……土遁か!」

トウマは槍を地面へ突き立てた。

「火遁・炎槍!」

穂先に炎が宿る。

トウマは槍を振り下ろし、足元の土を崩した。

しかし、その僅かな隙に黒頭巾の男が接近していた。

短刀がトウマの左腕をかすめる。

「……!」

袖が裂け、細い血の筋が浮かんだ。

トウマは槍の柄を押し出し、男を遠ざけた。

「……土遁も使うか」

黒頭巾の男は答えなかった。

「隊長が負傷した!」

ユウトが声を上げた。

ハヤセは戦いを確認した。

「浅い傷だ。今は動くな」

「でも……!」

「我々が持ち場を離れれば、二人が狙われる」

ユウトは唇を噛んだ。

その時、背の高い男が口を開いた。

「……あいつは、俺たちを北へ連れていくつもりだった」

ハヤセが振り返った。

「何か聞いたんですか?」

「いや。ただ、あいつは最初から北へ行けと繰り返していた」

「……なるほど」

若い男も顔を上げた。

「でも、俺たちは戻るって決めたんだ」

サキが尋ねた。

「どうして戻ろうと思ったの?」

若い男は少し黙った。

「……村が襲われたから」

「白瀬村?」

「そうだ」

若い男は拳を握った。

「俺たちが調べた道が、襲撃に使われたかもしれない」

ハヤセの表情が変わった。

「……道を調べた?」

背の高い男が若い男を制した。

「待て。ここで全部話すのは危険だ」

「……」

「まずは、この場を離れたい」

ハヤセは頷いた。

「分かりました」

そして、トウマへ視線を戻した。

「……隊長」

トウマは左腕の傷を確認した。

出血は少ない。

槍を握ることにも支障はなかった。

「……まだ戦えるな」

黒頭巾の男は短刀を構え直した。

「しぶといな」

「その言葉は、そのまま返そう」

トウマは槍を握り直した。

「……火遁・炎槍!」

炎が穂先を包む。

トウマは地面を蹴り、男へ迫った。

黒頭巾の男は短刀で受けようとしたが、炎の熱に顔を背けた。

その隙に、トウマの槍が男の肩口を捉える。

「……っ!」

黒い装束が裂け、血が滲んだ。

男は後方へ跳んだ。

トウマは槍を構えたまま言った。

「……終わりにしろ」

しかし、黒頭巾の男は首を振った。

「……まだだ」

男は懐から細い筒を取り出した。

トウマは警戒した。

「……何をする気だ?」

黒頭巾の男は筒を口元へ運んだ。

次の瞬間、細い針が放たれた。

トウマは槍を回転させ、針を弾いた。

だが、男の狙いはトウマではなかった。

針の一本が、岩陰へ向かって飛んでいた。

「……危ない!」

ユウトが叫んだ。

針は、若い男の胸元を狙っていた。

サキは即座に若い男を押し倒した。

針は背後の木に突き刺さった。

「……っ!」

若い男は目を見開いた。

「い、今のは……」

サキは木に刺さった針を見た。

「……狙いを変えた」

ハヤセが立ち上がった。

「隊長! 敵は証人を狙っています!」

トウマの表情が変わった。

「……何?」

黒頭巾の男は短刀を構えたまま、低く笑った。

「……余計なことを話されては困るのでな」

トウマは槍の穂先を向けた。

「……やはり口封じか」

「さあな」

男は答えた。

「命令は変わるものだ」

トウマは目を細めた。

「……ならば、なおさら逃がすわけにはいかん」

黒頭巾の男は地面を蹴った。

狙いは、再び岩陰にいる二人組だった。

「……行かせるか!」

トウマは槍を横へ払った。

男は身を屈めて避け、地面へ手をついた。

「土遁・土煙!」

乾いた土が巻き上がり、周囲の視界を遮る。

「……視界を奪う気か!」

トウマは槍を構えた。

土煙の向こうから、黒頭巾の男が姿を現した。

しかし、その進路にはハヤセが立っていた。

「……ここから先は通しません」

黒頭巾の男は足を止めた。

「……邪魔だ」

「それはこちらの台詞です」

ハヤセは苦無を構えた。

背後では、サキが二人組を守りながら後退している。

ユウトも苦無を握り、周囲を警戒していた。

トウマがハヤセの隣へ並んだ。

「……無理に倒そうとするな」

「了解しました」

「まずは二人を守る」

ハヤセは頷いた。

黒頭巾の男は二人を見つめた。

「……面倒な連中だ」

トウマは静かに答えた。

「人の命を狙う者に、道を譲るつもりはない」

黒頭巾の男は短刀を握り直した。

そして、再び印を結び始めた。

トウマも槍を構えた。

「……来るぞ」

山道を覆う霧の中で、戦いはさらに激しさを増そうとしていた。

第176話 完

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