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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第6章「戦国武将編」
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第163話「忍びの調査隊」

東国、白瀬川北部。

襲撃事件から二日が経過していた。

焼け落ちた家屋の周囲には、まだ焦げた木材が散乱している。

村人たちは仮設の小屋で生活を始めていたが、以前の暮らしを取り戻すには長い時間が必要だった。

そんな村の入口に、四人の忍びが姿を現した。

「……ここが白瀬村か」

先頭に立つのは、黒影衆の上忍・神楽トウマ。

その後ろには、中忍の霧谷ハヤセ、望月サキ、そして下忍の早乙女ユウトが続いていた。

「想像以上に酷いですね」

サキが焼けた家々を見渡した。

「家屋の半数近くが被害を受けているようです」

ハヤセは手元の地図を確認する。

「襲撃者は二十人以上。しかし、馬の足跡は数頭分しか確認されていない……」

トウマは頷いた。

「報告書にはそうある」

ユウトが尋ねた。

「やっぱり忍びが関わっているんでしょうか?」

「可能性はある。だが、決めつけるな」

トウマは村の奥へ目を向けた。

「まずは現場を調べる。俺たちの仕事は、誰かを犯人にすることじゃない」

三人が頷いた。

「事実を持ち帰ることだ」

村の中央。

東雲家の武将・雨宮景綱が、黒影衆の一行を出迎えた。

「神楽殿。お待ちしておりました」

「雨宮殿。被害状況は?」

「死者は三名。負傷者は十七名です。重傷者のうち二名は、まだ意識が戻っておりません」

サキの表情が曇った。

「……そんなに」

景綱は静かに頷いた。

「家を失った者も多く、現在は城下への移送を進めています」

トウマは周囲を見渡した。

「襲撃の際、敵の姿を見た者は?」

「数名おります。ただ、夜間だったため、顔までは確認できていません」

「武器は?」

「刀と槍が中心だったようです」

トウマは少し考えた。

「……忍術を使ったという証言は?」

「今のところありません」

「分かった。まずは村人から話を聞こう」

景綱は頷いた。

「案内いたします」

村の南側。

焼け残った小屋の中で、年配の男性が横になっていた。

右脚には包帯が巻かれている。

「この方が、襲撃者を最初に目撃した村人です」

景綱が紹介した。

男性は身体を起こそうとしたが、トウマが手で制した。

「そのままで構わない」

「……忍びの方ですか」

「ああ。少し話を聞かせてほしい」

男性は頷いた。

「襲撃が始まった時、何をしていた?」

「家畜小屋を見回っておりました」

「何か聞こえたか?」

「……人の声です」

トウマは続きを待った。

「村の北側から、何人かが歩いてくるのが見えました。最初は旅人かと思ったんですが……」

男性の声が震えた。

「突然、家に火をつけ始めたんです」

「その者たちは、何か話していたか?」

「……一人が、急げと言っていました」

「ほかには?」

男性はしばらく考えた。

「……そういえば」

トウマが顔を上げる。

「何だ?」

「一人だけ、ほとんど喋らない男がいました」

「……」

「ほかの連中は、その男の様子を何度も窺っていたんです」

ハヤセが筆を動かした。

「指揮官だった可能性がありますね」

男性は首を振った。

「分かりません。ただ……その男だけ、刀を抜いていませんでした」

トウマの目が細くなった。

「……なるほど」

昼過ぎ。

村の北側にある林。

ハヤセとサキは、地面に残された痕跡を調べていた。

「……ここを見てください」

サキが木の根元を指差した。

土の表面に、細い溝が残っている。

「何かを引きずった跡?」

ハヤセはしゃがみ込んだ。

「いや、これは……」

指先で土を払う。

「縄の跡に近いな」

「縄?」

「ああ。木と木の間に張られていた可能性がある」

サキは周囲を見渡した。

「何のために?」

「分からない」

ハヤセは木の幹を調べた。

そこには、樹皮が僅かに削れた部分があった。

「……何かを固定していたようだ」

サキは隣の木へ歩いた。

「こちらにも同じ跡があります」

二人は顔を見合わせた。

「……偶然ではなさそうですね」

ハヤセは頷いた。

「だが、襲撃に使われたものかどうかは、まだ分からない」

その時、少し離れた場所から声がした。

「ハヤセさん!」

ユウトだった。

「どうした?」

「こっちに足跡があります!」

林の奥。

ユウトが見つけたのは、柔らかい土に残された複数の足跡だった。

ハヤセは慎重に近づいた。

「……よく見つけたな」

ユウトは少し嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます!」

「ただし、踏み荒らさないように気をつけろ」

「はい!」

サキが足跡を確認した。

「少なくとも五人分はありそうですね」

「そうだな」

ハヤセは一つの足跡に注目した。

ほかよりも浅く、歩幅が不自然に広い。

「……妙だ」

「何がですか?」

「この足跡だけ、着地の仕方が違う」

サキが覗き込む。

「……確かに」

「普通に歩いたというより、高い場所から降りたような形だ」

ユウトが木の上を見上げた。

「じゃあ、木の上を移動していたんでしょうか?」

「その可能性はある」

ハヤセは周囲を見渡した。

「だが、これだけでは忍びと断定できない」

サキが頷いた。

「まずは記録しましょう」

三人は足跡の位置と形を丁寧に書き留めた。

夕方。

村の入口に設けられた仮設の詰所。

トウマは三人の報告を聞いていた。

「……林に縄の痕跡と、複数の足跡か」

「はい」

ハヤセが答えた。

「襲撃者が使った可能性はありますが、確証はありません」

トウマは頷いた。

「十分だ。現時点で断定する必要はない」

サキが口を開いた。

「それと、村人の証言についてですが……」

「何だ?」

「黒田家の旗を見たという人は複数います。でも、旗を持っていた人物の顔を見た人はいませんでした」

トウマは腕を組んだ。

「……そうか」

ユウトが尋ねた。

「じゃあ、やっぱり黒田家の人じゃなかったんでしょうか?」

「それも分からん」

トウマは静かに答えた。

「本物の兵だった可能性もあるし、誰かが旗を利用した可能性もある」

ユウトは少し考えた。

「……調べるって、難しいですね」

トウマは僅かに笑った。

「そうだな」

そして、真剣な表情に戻った。

「だが、分からないことを分かったつもりになる方が危険だ」

その夜。

東雲城。

景綱は、マサツグへ調査の途中経過を報告していた。

「黒影衆の調査隊が、村の北側で不審な痕跡を発見しました」

「……忍びが関わっていたのか?」

「まだ断定できないとのことです」

マサツグは頷いた。

「慎重な判断だな」

「はい」

景綱は続けた。

「また、黒田家の武将・柿崎忠勝との遭遇についても、改めて報告しました」

「……忠勝か」

マサツグは少し考えた。

「黒田家にも、話の通じる者がいるようだ」

「少なくとも、あの場で戦を始める意思はなかったように思います」

「そうか」

マサツグは窓の外を見つめた。

「……ならば、まだ交渉の余地はある」

景綱が頷いた。

「はい」

「だが、村を襲った者を放置するわけにはいかん」

マサツグは立ち上がった。

「黒影衆には、引き続き調査を頼む」

「承知しました」

同じ頃。

白瀬川北部の林。

トウマは一人、昼間に見つかった痕跡を確認していた。

木の幹に残る細い傷。

地面に刻まれた不自然な足跡。

そして、村人が証言した無口な男。

「……組織的な襲撃だった可能性は高いな」

トウマは呟いた。

しかし、誰が命じたのかは分からない。

黒田家か。

それとも、別の勢力か。

トウマは腰の槍に手を添えた。

「……戦を始めるための襲撃なら、これで終わるはずがない」

夜の林を、冷たい風が通り抜けた。

トウマは村へ戻るため、静かに歩き始めた。

東国の火種は、まだ消えていなかった。

第163話 完

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