↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影狼ノ忍  作者: 次男坊
第5章「黒影衆内部抗争編」
PR
160/184

第160話「戦乱への序章」

黒影衆本部。

秋の風が、里の木々を静かに揺らしていた。

東側の訓練場では、蒼真が木刀を手に立っていた。

向かいには風間コウガがいる。

「……脇腹の痛みはどうだ?」

「普段はほとんど気にならなくなりました。でも、身体を捻るとまだ少し痛みます」

「なら、今日は構えを確認するだけだ」

「はい」

蒼真は木刀を正面に構えた。

以前なら、すぐに風遁を使っていたかもしれない。

だが、今は違う。

足の位置。

腕の角度。

そして、呼吸。

一つずつ確かめながら、ゆっくりと姿勢を整える。

「……悪くない」

コウガが頷いた。

「ただし、無理に腰を落とすな」

「分かりました」

蒼真は少しだけ姿勢を戻した。

その時、訓練場の入口から声がした。

「おーい、蒼真!」

振り返ると、蓮司が手を振っていた。

その後ろには凛とレイもいる。

「みんな!」

蒼真は木刀を下ろした。

蓮司が笑いながら近づく。

「もう修行してるのかよ。俺も早く戻りたいぜ」

「まだ軽い訓練だけだよ」

「それでも羨ましいな」

凛が呆れたように言った。

「あなたは、まず診察で許可をもらうことね」

「分かってるって!」

レイは少し離れた場所で立ち止まった。

左腕は、まだ固定されている。

蒼真はその姿を見て尋ねた。

「レイ、調子はどうだ?」

「……少しずつだ」

「そっか」

「まだ刀は握れない」

レイは静かに続けた。

「だが、焦っても仕方がない」

蒼真は頷いた。

「うん。俺もそう思う」

コウガは四人を見渡した。

「……全員揃ったなら、少し話をしておくか」

四人は訓練場の端にある長椅子へ移動した。

コウガは腕を組み、静かに口を開いた。

「最近、東国の情勢が不安定になっている」

蓮司が顔を上げた。

「東国?」

「ああ。各地の大名が兵を動かし始めている」

凛が眉を寄せた。

「……戦が始まるんですか?」

「まだ大規模な戦にはなっていない。だが、国境付近では小さな衝突が続いている」

蒼真は黙って聞いていた。

これまで彼らが戦ってきた相手は、主に忍の組織だった。

夜叉衆。

冥刃衆。

そして、正体の分からない敵。

しかし、今度は違う。

大名同士の争いが始まれば、多くの兵や民が巻き込まれる。

「……黒影衆も戦に参加するんですか?」

蒼真が尋ねた。

コウガは首を振った。

「まだ決まっていない」

「……」

「だが、護衛や偵察、民の避難支援を求められる可能性はある」

蓮司が拳を握った。

「だったら、早く傷を治さないとな」

「その意気込みはいい」

コウガは頷いた。

「ただし、今の状態で戦場へ出れば、守れるものも守れなくなる」

蓮司は苦笑した。

「……はい」

同じ頃。

黒影衆本部、情報部門。

如月セツナは、犬飼シンと佐伯イツキから新たな報告を受けていた。

二人は医療班の手当てを受け、現在は任務を制限されている。

「榊原ユウマの所在は?」

セツナが尋ねた。

「まだ確認できていません」

シンが答える。

「ただし、旧街道で回収した仮面と札の破片は、ミコトに渡しました」

「そう」

セツナは報告書を確認した。

「ユウマが黒札を使っていたことは、二人が直接確認しているのね」

「はい」

イツキが頷いた。

「それと、三枝ナオトの名前を出した時、明らかに反応しました」

「……重要な証言ね」

セツナは筆を置いた。

「でも、まだユウマがすべての事件を起こしたとは限らない」

シンが答えた。

「分かっています」

「彼が誰と連絡を取っていたのか、どの命令書に関わっていたのか。そこを調べる必要があるわ」

セツナは別の書類を取り出した。

「それと、三枝ナオトの弟については、引き続き保護を続ける」

イツキが尋ねた。

「ナオト本人は?」

「情報提供への協力を続けているわ。ただし、処分については調査が終わってから判断する」

セツナは窓の外を見た。

「……まだ終わっていない」

黒影衆内部に潜む不正。

失われた古文書。

そして、逃亡した榊原ユウマ。

すべての真相が明らかになったわけではなかった。

それでも、調査は確実に前へ進んでいた。

夕方。

黒影衆本部の医療棟。

白石ユズハは、四人の診察記録を確認していた。

「蒼真は軽い訓練まで。蓮司はまだ走り込み禁止。凛はチャクラを大量に使う術を控えること」

三人が頷いた。

「はい」

「分かりました」

「……了解です」

ユズハは最後にレイを見た。

「レイは引き続き、左肩の固定と安静。右手だけの刀の訓練も禁止よ」

「……承知しています」

「本当に?」

「……はい」

蓮司が小さく笑った。

「レイが一番真面目に聞いてるな」

レイは蓮司を見た。

「……お前も少しは見習え」

「なんで俺だけ!」

凛が笑った。

「普段の行いじゃない?」

蒼真も笑いを堪えられなかった。

ユズハは呆れたように息を吐いた。

「……まったく。元気なのはいいけれど、怪我人だということを忘れないでね」

四人は改めて頷いた。

その夜。

黒影衆本部、頭領執務室。

黒崎玄十郎は、一通の書簡を読んでいた。

差出人は、東国の大名家。

東雲家だった。

書簡には、国境付近での兵の移動と、周辺領地で起きた衝突について記されている。

さらに、隣接する黒田家との関係が悪化しているという。

「……東雲マサツグと黒田シゲノリか」

玄十郎は低く呟いた。

その時、扉が開いた。

神楽トウマが入ってくる。

「頭領、お呼びでしょうか」

「ああ。これを見てくれ」

トウマは書簡を受け取った。

読み進めるにつれ、その表情が険しくなる。

「……東雲家が動き始めたのですか」

「まだ全面的な戦ではない。だが、黒田家も兵を集めているらしい」

「……衝突は避けられないかもしれませんね」

玄十郎は頷いた。

「黒影衆としても、情勢を把握する必要がある」

「偵察隊を?」

「ああ。ただし、今は深入りするな」

玄十郎は窓の外を見た。

「内部の問題も、まだ解決していない」

トウマが静かに答えた。

「……承知しています」

「だが、戦は我々の都合を待ってくれん」

玄十郎は立ち上がった。

「まずは東国の情報を集める。どの家が、何のために兵を動かしているのかを確かめるのだ」

「はっ」

トウマは頭を下げた。

翌朝。

黒影衆本部の高台。

蒼真は一人、遠くの山々を眺めていた。

腰には風影刀がある。

だが、刀を抜くことはなかった。

「……蒼真」

振り返ると、影宗が立っていた。

「師匠」

影宗は隣に立った。

「東国の話を聞いたそうだな」

「はい」

「……どう思った?」

蒼真は少し考えた。

「正直、まだ実感がありません」

「そうか」

「でも、戦が始まれば、きっとたくさんの人が傷つきますよね」

影宗は頷いた。

「ああ」

蒼真は遠くを見つめた。

「……俺は、もっと強くなりたいです」

影宗は黙って聞いていた。

「でも、前みたいに無茶をして強くなるんじゃなくて……」

蒼真は腰の刀に触れた。

「仲間を守れる強さを身につけたい」

影宗は静かに微笑んだ。

「……それでいい」

「師匠」

「何だ?」

「いつか、風影刀のことも全部分かる日が来ますか?」

影宗は一瞬、言葉を失った。

失われた第三巻。

そこに何が記されているのか、まだ分からない。

「……ああ」

影宗は静かに答えた。

「必ず、真実を探そう」

蒼真は頷いた。

「はい」

二人の間を、穏やかな風が通り抜けた。

その日の昼。

黒影衆本部の門前には、東国へ向かう偵察隊が集まっていた。

蒼真たちは少し離れた場所から、その出発を見送っていた。

「……いよいよ、戦が近づいてるんだな」

蓮司が呟いた。

凛が頷いた。

「そうね」

レイは静かに隊列を見つめていた。

「……俺たちが動けるようになる頃には、状況が変わっているかもしれない」

蒼真は答えた。

「それでも、今できることをやろう」

蓮司が笑った。

「まずは全員、ちゃんと治すことだな!」

「そうね。特にあなた」

「また俺かよ!」

凛の言葉に、蒼真が笑った。

レイも僅かに口元を緩めた。

やがて、偵察隊が出発する。

その背中を見送りながら、蒼真は遠くの空を見つめた。

黒影衆内部の争いは、完全には終わっていない。

風影刀の謎も、まだ残されている。

それでも、時代は動き始めていた。

忍びの戦いから、国と国との争いへ。

そして、蒼真たちの運命もまた、新たな戦乱へと向かっていく。

第160話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。