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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第5章「黒影衆内部抗争編」
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第156話「隠された術」

北側旧街道の奥深く。

犬飼シンと佐伯イツキは、黒い仮面をつけた忍の足跡を追っていた。

月明かりは木々に遮られ、足元さえ見えにくい。

「……シン、まだ続いているか?」

「ああ。ただ、妙だ」

シンは地面に膝をついた。

湿った土には、確かに足跡が残されている。

しかし、その間隔が不自然だった。

「……歩幅が一定すぎる」

イツキが覗き込む。

「どういうことだ?」

「さっきまで逃げていた人間の足跡とは思えない。まるで、同じ動きを繰り返しているようだ」

「……偽物か?」

「その可能性がある」

シンは顔を上げた。

「一度、止まろう」

二人は木の陰に身を寄せた。

その時だった。

「……随分と慎重になったな」

頭上から声がした。

見上げると、太い枝の上に黒装束の忍が立っていた。

黒い仮面が、月明かりを鈍く反射している。

「……やはり、誘い込んでいたか」

シンが短刀を構えた。

仮面の忍は静かに答えた。

「追ってきたのは、お前たちだろう」

「北側第二補給所で何をしていた?」

イツキが尋ねる。

「その答えを聞いて、どうする?」

「身元を確認する」

「……できると思うか?」

仮面の忍は懐から一枚の札を取り出した。

シンの表情が引き締まる。

「イツキ、警戒しろ!」

札が木の幹へ貼りついた。

すると、周囲の木々に細い文字が浮かび上がった。

「……また封印術か!」

イツキは後方へ跳んだ。

だが、着地した瞬間、身体が重くなる。

「……っ!」

足元には何もない。

それなのに、腕を持ち上げようとすると強い抵抗を感じた。

シンも異変に気づいた。

(……地面に触れていなくても作用するのか)

先ほどの術とは違う。

シンは周囲を見渡した。

木の幹に浮かぶ文字。

枝に貼られた札。

そして、仮面の忍の指先。

(……術の起点が複数ある?)

「イツキ、木から離れろ!」

「分かった!」

二人は開けた場所へ移動しようとした。

しかし、仮面の忍が指を動かすと、木々の位置が歪んで見えた。

「……!」

進もうとした先に、突然大きな木が現れる。

イツキは慌てて足を止めた。

「こんな場所に木があったか!?」

シンは目を細めた。

「……幻術だ。見えているものを信じるな!」

仮面の忍が笑った。

「気づいたところで、どうする?」

シンは短刀を握り直した。

「イツキ、さっきと同じだ。互いの位置を確認するぞ」

「ああ!」

イツキは足元の小石を拾った。

そして、シンの声が聞こえる方向へ投げた。

石は地面を転がり、何かに当たって止まった。

「……そこか!」

イツキは慎重に進んだ。

だが、次の瞬間。

「動くな!」

シンの声が響いた。

イツキは足を止めた。

目の前には、確かにシンが立っている。

しかし、本物の声は別の方向から聞こえていた。

「……偽物か!」

目の前のシンが、ゆっくりと笑った。

その顔が黒い仮面へ変わっていく。

「判断が遅いな」

仮面の忍が短刀を振り下ろした。

イツキは咄嗟に身を捻った。

刃が肩を掠め、衣服が裂ける。

「……っ!」

浅い傷だったが、痛みは確かにあった。

(……幻影じゃない!)

イツキは後方へ跳んだ。

しかし、身体が再び重くなる。

「……くそっ!」

仮面の忍は距離を取った。

「見えているものが偽物とは限らない。見えないものが本物とも限らない」

その声が、林のあちこちから聞こえた。

「イツキ!」

シンが駆け寄った。

「大丈夫か?」

「ああ、肩を少し切られただけだ」

イツキは傷口を押さえた。

シンは周囲の木々を見た。

「……この術、単なる幻術じゃない」

「どういうことだ?」

「幻術で位置を誤認させながら、封印術で動きを鈍らせている」

イツキが眉を寄せた。

「……二つの術を同時に?」

「恐らくな」

シンは木の幹に浮かぶ文字を指差した。

「あの文字が、封印術の起点になっている可能性がある」

「なら、札を剥がせば……」

「試す価値はある。ただし、近づくのは危険だ」

イツキは頷いた。

「俺が注意を引く。お前は札を調べてくれ」

シンは首を振った。

「無理をするな。肩を負傷している」

「浅い傷だ。まだ動ける」

「……分かった。だが、危険だと思ったらすぐ退け」

二人は短く頷き合った。

イツキが前へ出た。

「おい、仮面野郎!」

林の奥から声が返る。

「……何だ?」

「随分と術に頼るんだな!」

「挑発のつもりか?」

「顔を隠して逃げ回るだけなら、誰にでもできる!」

その瞬間、右側の木陰から黒装束の忍が現れた。

イツキは短刀を構える。

「……来たか!」

仮面の忍が斬りかかった。

イツキは刃を受け止めた。

だが、腕が重い。

(……まだ術が効いている!)

一方、シンは木の幹へ近づいていた。

札には細かな文字が記されている。

その一部が、淡く光っていた。

(……この文字、黒札の模様と似ている?)

シンは慎重に観察した。

札の端には、三本の細い線が刻まれている。

以前、天野ミコトが調べた黒札の破片にも、似た特徴があったと聞いている。

(……同じ仕組みなのか?)

シンは短刀の先で札の端を持ち上げた。

すると、文字の光が僅かに弱まった。

「……!」

その瞬間、イツキの身体が軽くなった。

「シン! 今、少し動きやすくなった!」

「やはり、札が関係している!」

シンは札を完全に剥がそうとした。

しかし、その時。

仮面の忍が振り返った。

「……余計なことをするな!」

男はイツキを押し返し、シンへ向かって跳んだ。

シンは咄嗟に身を屈めた。

短刀が頭上を通り過ぎる。

「……っ!」

シンは木の幹を蹴り、距離を取った。

その手には、剥がしかけた札の一部が握られていた。

仮面の忍は、木の前に立った。

「……なるほど」

その声には、僅かな苛立ちが混じっていた。

「ただの追跡役ではないようだな」

シンは札の破片を懐へしまった。

「お前の術には、何か仕組みがある」

「……」

「それを調べれば、突破できるかもしれない」

仮面の忍は静かに笑った。

「なら、試してみろ」

男は両手を合わせた。

周囲の木々に浮かんでいた文字が、一斉に光を強める。

イツキが顔を上げた。

「……シン!」

「ああ、分かっている!」

二人は背中を合わせた。

足元の土が僅かに震える。

木々の間には、無数の黒い文字が浮かび上がっていた。

「……これが本来の術か」

シンが呟いた。

仮面の忍はゆっくりと手を下ろした。

「お前たちが知りたがっていたものだ」

男の声が、林全体に響いた。

「幻と封印を重ねる術……」

一瞬、周囲の景色が暗くなる。

「幻封陣・黒迷ノ檻」

次の瞬間、シンとイツキの周囲に黒い文字の壁が現れた。

二人は退路を塞がれた。

「……閉じ込められたか」

イツキが短刀を握り直す。

シンは壁を見つめた。

「いや……まだ終わりじゃない」

仮面の忍は、黒い文字の向こうで二人を見下ろしていた。

「この檻から出られるものなら、出てみろ」

夜の森に、静かな緊張が広がった。

情報部門の二人は、未知の術の中に閉じ込められていた。

第156話 完

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