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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第5章「黒影衆内部抗争編」
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第153話「仕組まれた罠」

黒影衆本部、情報部門。

朝早くから、如月セツナは机に広げた地図を見つめていた。

地図には、北側第二補給所へ続く道と、その周辺にある複数の脇道が記されている。

「……ここなら、使えるかもしれないわね」

セツナは一か所に印をつけた。

その時、扉が開いた。

「セツナ様、お呼びでしょうか」

佐伯イツキと犬飼シンが入ってきた。

「二人とも、座って」

セツナは地図を二人の前に広げた。

「今日は、少し危険な作戦について話したいの」

イツキが身を乗り出した。

「黒札の件ですか?」

「ええ。これまでの調査で、相手が私たちの動きを警戒している可能性が出てきた」

シンが頷いた。

「古い井戸の件ですね」

「そう。ただ、誰が情報を伝えているのかは、まだ分からない」

セツナは地図を指差した。

「だから、こちらから情報を流してみようと思うの」

「……情報を流す?」

イツキが首を傾げた。

セツナは頷いた。

「偽の補給予定よ」

「三日後、北側第二補給所へ特別な荷物を運ぶ」

セツナは用意していた書類を机に置いた。

「そういう予定を、一部の担当者だけに知らせるの」

シンが書類を確認した。

「……荷物の内容は?」

「古文書庫から回収された資料、ということにするわ」

イツキの表情が変わった。

「それなら、相手が興味を示す可能性がありますね」

「ええ。ただし、実際に運ぶのは普通の補給品だけ」

セツナは続けた。

「それに、本物の古文書を囮に使うつもりもない」

シンが尋ねた。

「相手が現れたら捕らえるのですか?」

「状況次第ね」

「……」

「相手の人数も、術も分からない。無理に捕縛すれば、こちらに被害が出るかもしれない」

セツナは二人を見た。

「今回の第一目的は、情報がどこから漏れるかを確かめることよ」

イツキが頷いた。

「では、複数の経路に違う情報を流すんですね」

「その通り」

セツナは三枚の紙を取り出した。

それぞれに、異なる補給予定が記されていた。

一枚目は、北側第二補給所への搬入。

二枚目は、西側倉庫への移送。

三枚目は、東側の小さな保管所への運搬。

「この三つを、別々の担当者に伝える」

シンが尋ねた。

「もし特定の場所に不審な動きがあれば……」

「その情報を知っていた範囲を絞れるわ」

セツナは頷いた。

「ただし、それだけで内通者を決めつけないこと。偶然や、別の経路で情報が伝わった可能性もあるから」

「承知しました」


昼過ぎ。

黒影衆本部、西側倉庫。

佐伯イツキは、補給担当の中忍と向かい合っていた。

「三日後、西側倉庫に特別な荷物が届く予定です」

「特別な荷物?」

「はい。詳しい内容は、情報部門で管理しています」

担当者は少し驚いた。

「……そんな話は聞いていませんが」

「急に決まったことです。まだ正式な搬入命令ではありません」

イツキは書類を差し出した。

「今は、保管場所の確保だけお願いします」

「分かりました」

担当者は書類を受け取った。

「それと、この件は当面、担当者以外には話さないようお願いします」

「承知しました」

イツキは頭を下げ、倉庫を後にした。

廊下へ出ると、手帳に時刻を記録する。

誰に。

いつ。

どの情報を伝えたのか。

一つずつ、正確に残していった。


同じ日の午後。

北側第二補給所。

犬飼シンは、補給所の責任者と話していた。

「三日後、古文書庫に関係する資料が運ばれる可能性があります」

責任者は眉を寄せた。

「また古文書か。最近は妙な荷物が多いな」

「今回は情報部門の管理下で行います」

「……分かった」

シンは続けた。

「ただし、予定は変更になる可能性があります。現時点では準備だけお願いします」

「了解した」

責任者は頷いた。

シンは補給所を出ると、周囲の道を確認した。

以前、正体不明の忍が姿を消した北側の旧道。

その近くには、現在の地図に記されていない古い脇道もある。

「……また、ここへ来るのか」

シンは静かに呟いた。

しかし、今は追跡を始める時ではない。

相手が動くかどうかを、まず見極める必要があった。


夕方。

情報部門の執務室。

セツナは二人から報告を受けていた。

「西側倉庫への伝達は完了しました」

イツキが言った。

「北側第二補給所も同様です」

シンが続ける。

セツナは頷いた。

「東側保管所への情報も、私から伝えておいたわ」

机の上には、三つの伝達経路が整理されていた。

「これで準備は整ったわね」

イツキが尋ねた。

「監視はいつから始めますか?」

「今夜から。ただし、目立つ配置は避けて」

「承知しました」

セツナは地図を見つめた。

「相手が本当に情報を集めているなら、すぐに動くとは限らない」

シンが頷く。

「こちらの罠を警戒する可能性もありますね」

「ええ」

セツナは静かに答えた。

「だから、焦らず待ちましょう」


その夜。

黒影衆本部、西棟。

一人の中忍が、人気のない廊下を歩いていた。

榊原ユウマだった。

勤務を終えたばかりの彼は、手にした書類を見つめていた。

そこには、三日後の補給予定が記されている。

「……特別な荷物、か」

ユウマは足を止めた。

最近、情報部門が補給関係の記録を調べていることは知っている。

その直後に、新たな特別搬入の話が出てきた。

「……妙だな」

ユウマは書類を畳んだ。

しばらく考えた後、廊下の奥へ歩き始める。

だが、その足取りには迷いがあった。


翌朝。

黒影衆本部の中庭。

セツナは犬飼シンから、最初の監視報告を受けていた。

「昨夜、西側倉庫に不審な出入りはありませんでした」

「北側は?」

「今のところ、異常は確認されていません」

「そう」

セツナは頷いた。

「東側保管所も同じよ」

シンは少し残念そうな表情を浮かべた。

「……まだ、動きませんね」

「始めたばかりだもの」

セツナは穏やかに答えた。

「相手が慎重なら、なおさら時間がかかるわ」

その時、イツキが駆け寄ってきた。

「セツナ様!」

「どうしたの?」

「北側第二補給所から報告です」

セツナの表情が引き締まった。

「何があったの?」

「昨夜、補給所の外側で不審な足跡が見つかったそうです」

シンが顔を上げた。

「足跡?」

「はい。ただ、誰のものかは分かっていません」

セツナは少し考えた。

「……補給所の中には?」

「侵入された形跡はありません」

「分かったわ」

セツナは地図を取り出した。

「シン、現場を確認してきて。足跡がいつ付いたものか、できるだけ慎重に調べて」

「承知しました」

シンはすぐに出発した。

イツキが尋ねた。

「……罠にかかったのでしょうか?」

セツナは首を振った。

「まだ分からないわ」

「……」

「でも、北側に何かが起きたのは確かね」

セツナは地図の北側第二補給所を見つめた。

三つの異なる情報。

そのうち、古文書に関係する予定を伝えた場所で、不審な足跡が見つかった。

偶然なのか。

それとも、誰かが情報を得て動いたのか。

答えは、まだ出ていない。

「……ようやく、動きが見え始めたかもしれないわね」

セツナは静かに呟いた。

しかし、相手もまた、こちらの動きを警戒している。

仕組まれた罠が、誰を捕らえることになるのか。

それは、まだ誰にも分からなかった。

第153話 完

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