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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第5章「黒影衆内部抗争編」
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第134話「上忍たちの思惑」

黒影衆の里。

朝の光が本部の屋根を照らし、修行場からは若い忍たちの声が聞こえていた。

蒼真たちが帰還してから、数日が経過している。

表向き、里に大きな変化はなかった。

しかし、本部では連日のように上忍たちが集まり、ある問題について議論を重ねていた。

風影刀。

その扱いを巡る意見は、少しずつ分かれ始めていた。

黒影衆本部・評定の間。

「私は、これ以上判断を先延ばしにするべきではないと考えます」

鬼塚ジンが机の前に立っていた。

向かいには黒影衆の頭領・黒崎玄十郎。

そして、影宗、神楽トウマ、風間コウガの姿があった。

ジンは一枚の書状を広げた。

「今回の任務で、風影刀が古い地下通路を開いたことは確認されています」

玄十郎が頷く。

「報告は受けている」

「さらに、夜叉衆はその刀を狙っていた」

「……ああ」

「つまり、蒼真が風影刀を持つ限り、里が標的となる可能性もある」

トウマが腕を組んだ。

「だから、刀を管理するべきだと?」

「そうです」

ジンは即答した。

「少なくとも、任務への持ち出しには上忍の許可が必要でしょう」

コウガが口を開く。

「それでは、蒼真の戦い方に制限がかかる」

「制限は必要です」

「必要以上の制限は、成長を妨げる」

ジンがコウガへ顔を向けた。

「成長を待っている間に、里が襲われたらどうする」

コウガは黙った。

ジンは続ける。

「俺は蒼真の才能を否定しているわけではない」

「……」

「だが、才能と責任は別だ」

影宗が静かに言った。

「それなら、蒼真本人に責任を理解させればいい」

ジンが振り返る。

「理解するだけで済む問題ではありません」

「では、何をさせるつもりだ」

ジンは書状を机へ置いた。

「風影刀の管理について、三つの条件を提案します」

玄十郎が顔を上げた。

「聞こう」

ジンは指を一本立てた。

「第一に、風影刀を使用する任務は上忍の承認を必須とする」

続いて二本目。

「第二に、刀の能力を調査するため、専門の忍を配置する」

そして三本目。

「第三に、危険性が高いと判断された場合、一時的に本部で保管する」

評定の間に沈黙が落ちた。

トウマが口を開いた。

「最初の二つは検討できる」

ジンが頷く。

「では――」

「だが、三つ目は慎重に考えるべきだ」

「なぜです?」

「風影刀を取り上げれば、蒼真との信頼関係が崩れる可能性がある」

ジンは表情を変えなかった。

「信頼関係より、里の安全を優先するべき場面もあります」

コウガが眉を寄せる。

「お前は、蒼真が危険だと言いたいのか?」

「違う」

ジンは首を振った。

「危険なのは、あの刀の未知の力だ」

影宗が静かに口を開く。

「……ならば、まずは本人と話せ」

ジンは影宗を見る。

「そのつもりです」

玄十郎が書状を手に取った。

「結論は、蒼真の意見を聞いてからにする」

ジンは深く頭を下げた。

「承知しました」

しかし、その目には強い決意が宿っていた。

黒影衆・医務室。

「……痛みは?」

白石ユズハがレイの左肩を診察していた。

レイは寝台に腰掛けている。

「昨日よりは軽いです」

「腕は?」

「……まだ上げられません」

ユズハは頷いた。

「無理に動かさないで。傷は塞がり始めているけど、深い部分はまだ回復していないわ」

「……はい」

「それに、しばらくは刀を握る練習も禁止」

レイが僅かに眉を寄せた。

「……右手だけでも?」

「駄目」

「……」

「身体を動かせば、左肩にも負担がかかるの」

レイは小さく息を吐いた。

「……分かりました」

ユズハは包帯を巻き直した。

「素直で助かるわ」

その時、扉が開いた。

「レイー!」

蓮司だった。

後ろには蒼真と凛もいる。

レイは顔を上げた。

「……また来たのか」

蓮司が笑う。

「何だよ、嫌なのか?」

「……そうは言っていない」

「じゃあいいだろ!」

凛がユズハへ頭を下げる。

「お邪魔しても大丈夫ですか?」

「ええ。ただし、長居はしないこと」

「ありがとうございます」

蒼真はレイの隣に座った。

「具合はどうだ?」

「……順調らしい」

「よかった」

蓮司が椅子を引き寄せる。

「なあ、退院したら何する?」

レイは少し考えた。

「……まずは身体を戻す」

「修行か?」

「……ああ」

蓮司が笑った。

「なら、俺が相手してやるよ!」

凛が即座に口を開く。

「蓮司もまだ修行禁止でしょ」

「……そうだった」

蒼真が笑う。

「お前、何回忘れるんだよ」

「早く治したいんだって!」

レイは三人を見つめた。

そして、僅かに笑った。

「……焦るな」

蓮司が顔を向ける。

「お前に言われたくねぇ!」

四人の笑い声が医務室に広がった。

昼過ぎ。

黒影衆本部・情報室。

如月セツナは、北側監視塔の記録を再び確認していた。

机の上には、改ざんされた巻物と偽の命令書。

そして、旧街道で発見された忍具の破片が置かれていた。

「……」

セツナは破片を手に取った。

細い金属片。

表面には黒い塗料が残っている。

「黒影衆の標準装備ではない……」

その時、部下が部屋へ入ってきた。

「セツナ様」

「何か分かった?」

「はい。東棟の小会議室について調べました」

セツナが顔を上げる。

「北条ユウキが呼び出された部屋ね」

「その通りです」

部下は書類を差し出した。

「当日の使用記録には、予約がありませんでした」

「……」

「ただし、扉の鍵は開けられていたようです」

セツナの目が細くなる。

「誰が?」

「管理記録では、鍵の貸し出しはありません」

「つまり、正式な手続きを踏まずに開けられた」

「はい」

セツナは少し考えた。

「鍵を扱える者は?」

「本部の管理担当者と、一部の上忍です」

「……そう」

セツナは書類を閉じた。

「その部屋を調べた?」

「はい。しかし、目立った痕跡はありませんでした」

「床や壁は?」

「異常なしです」

セツナは頷いた。

「分かった。ありがとう」

部下が退出する。

セツナは一人、考え込んだ。

「……監視塔から人を離れさせた」

そして、机の上の地図を見る。

「その間に、何者かが旧街道を通過した」

しかし、疑問が残る。

なぜ、そこまでして監視を避ける必要があったのか。

夜叉衆が里へ近づくためなのか。

それとも、里から何かを運び出すためなのか。

「……」

セツナは小さく息を吐いた。

「まだ、情報が足りないわね」

午後。

黒影衆・第二修行場。

蒼真は木陰に腰を下ろしていた。

手には風影刀。

だが、抜いてはいない。

鞘に刻まれた模様を見つめている。

「……」

地下で見た古い紋様。

風守刀。

そして、消された風継ぎの名前。

考えれば考えるほど、分からないことが増えていく。

その時。

「蒼真」

背後から声がした。

振り返ると、鬼塚ジンが立っていた。

「……ジン様」

蒼真は立ち上がった。

ジンは軽く手を上げる。

「座っていていい」

「……はい」

ジンは蒼真の隣へ立った。

しばらく、二人の間に沈黙が流れる。

やがて、ジンが口を開いた。

「怪我はどうだ」

「だいぶ良くなりました」

「そうか」

ジンは蒼真の腰にある風影刀を見る。

「……少し、話をしたい」

蒼真は頷いた。

「はい」

ジンは修行場の中央へ視線を向けた。

「お前は、その刀をどう考えている?」

蒼真は少し戸惑った。

「……どう、ですか?」

「ああ」

ジンは続ける。

「武器か。それとも、何か特別なものか」

蒼真は風影刀を見下ろした。

「……最初は、ただの刀だと思っていました」

「今は?」

「……分かりません」

ジンは黙って聞いていた。

蒼真が続ける。

「でも、地下で色々なことを知りました」

「風継ぎのことか」

「はい」

「それで?」

蒼真は少し考えた。

「……この刀には、まだ俺の知らない役目があるんだと思います」

ジンは頷いた。

「その通りだろうな」

蒼真が顔を上げる。

「……ジン様も、何か知っているんですか?」

「詳しいことは知らん」

ジンは正直に答えた。

「だが、未知の力を持つ武器が危険であることは知っている」

「……」

「俺は以前、強力な忍具を扱う任務に参加したことがある」

蒼真は黙って聞いた。

「その忍具は、使い手の想像を超える力を持っていた」

ジンの表情が僅かに険しくなる。

「結果として、仲間が負傷した」

「……」

「使い手が悪かったわけではない」

ジンは続ける。

「ただ、誰も危険性を理解していなかった」

蒼真は風影刀を見つめた。

「……だから、管理が必要だと?」

ジンは頷いた。

「ああ」

「……」

「蒼真。俺はお前を敵だと思っているわけではない」

蒼真が顔を上げる。

「……はい」

「むしろ、お前を守るためにも必要だと考えている」

蒼真は少し黙った。

そして、尋ねた。

「……もし、管理することになったら」

「何だ」

「俺は、この刀を使えなくなるんですか?」

ジンはすぐには答えなかった。

「……場合による」

蒼真の表情が変わった。

「……」

ジンは続ける。

「危険性が高いと判断されれば、一時的に保管する可能性もある」

蒼真は風影刀を握りしめた。

「……俺は」

ジンが静かに待つ。

蒼真は顔を上げた。

「この刀を、手放したくありません」

ジンの目が細くなる。

「なぜだ」

「……まだ、全部分かってないからです」

「……」

「分からないからこそ、もっと知りたい」

蒼真は続ける。

「それに、この刀で仲間を守ってきました」

ジンは黙っていた。

「これからも、そうしたいんです」

しばらく沈黙が流れた。

やがて、ジンが口を開く。

「……その気持ちは理解した」

蒼真の表情が少し和らぐ。

しかし。

ジンは続けた。

「だが、気持ちだけでは足りん」

「……」

「お前が風影刀を持つにふさわしいと、里の者たちに示す必要がある」

蒼真は顔を上げた。

「……どうすれば?」

ジンは少し考えた。

「今すぐ答えを出す必要はない」

「……」

「まずは怪我を治せ」

蒼真は頷いた。

「……はい」

ジンは背を向けた。

「話はそれからだ」

蒼真はその背中を見送った。

「……ジン様」

ジンが足を止める。

「何だ」

「俺、ちゃんと考えます」

ジンは振り返らなかった。

「……そうしろ」

そして、修行場を後にした。

夕方。

黒影衆本部・頭領室。

黒崎玄十郎は、影宗から報告を受けていた。

「……内部の監視記録が改ざんされた?」

影宗が頷く。

「ああ。セツナが調べている」

玄十郎は眉を寄せた。

「誰の仕業だ」

「まだ分からん」

「……」

「ただ、内部の命令系統を知る者が関わっている可能性がある」

玄十郎は机に肘をついた。

「……厄介だな」

影宗は頷いた。

「風影刀の問題で上忍たちの意見が分かれている時期だ」

「……ああ」

「下手に広めれば、互いに疑い始める」

玄十郎はしばらく考えた。

そして、静かに言った。

「セツナには、調査を続けさせろ」

「分かった」

「ただし、証拠が出るまでは誰も処分するな」

影宗が頷く。

「当然だ」

玄十郎は窓の外を見た。

「……黒影衆は、一枚岩ではない」

影宗は黙っていた。

玄十郎が続ける。

「だが、意見が違うことと、裏切ることは別だ」

「……ああ」

「その違いを見誤れば、里は内側から崩れる」

影宗は静かに頷いた。

夜。

黒影衆の里。

蒼真は自室で風影刀を見つめていた。

ジンの言葉が頭から離れない。

『お前が風影刀を持つにふさわしいと、里の者たちに示す必要がある』

「……ふさわしい、か」

蒼真は小さく呟いた。

風影刀を抜く。

月明かりが刀身を照らした。

「……俺にできること」

地下での戦いを思い出す。

仲間を守るために使った風。

宗玄の言葉。

そして、ジンの問い。

「……」

蒼真は刀を鞘へ戻した。

「まずは、ちゃんと治さないとな」

そう呟いて、寝台へ腰を下ろした。

同じ頃。

黒影衆本部の東棟。

薄暗い廊下を、一人の忍が歩いていた。

顔は頭巾で覆われている。

その忍は、誰もいない小会議室の前で足を止めた。

周囲を確認する。

そして、懐から小さな札を取り出した。

黒い札。

表面には、細い文字が刻まれていた。

忍は扉の隙間へ札を差し込む。

しばらくして、鍵が外れた。

扉が静かに開く。

忍は中へ入った。

机の下。

床板の一枚を持ち上げる。

そこには、小さな包みが隠されていた。

忍は包みを手に取った。

中には、一枚の紙。

その紙には、短い文章が書かれていた。

『北側の道、次の交代は三日後』

忍は紙を読み終えると、静かに折り畳んだ。

そして、懐へしまう。

「……」

誰にも気づかれることなく、部屋を後にした。

その頃。

情報室では、セツナが一人、監視記録を読み返していた。

まだ、黒い札を持つ忍の正体は分からない。

しかし、調査は確実に進み始めていた。

そして、里の内部で動く者もまた、次の行動を始めていた。

第134話 完

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