第126話「黒雷と風守・再戦」
バチバチバチッ!
黒雷が石室を照らす。
「黒雷遁・四雷牙!」
四本の黒雷が宗玄へ襲いかかった。
「風守・流転!」
ゴォッ!
宗玄の風守刀が風を巻き込む。
一本目。
右へ流す。
二本目。
身体を捻って回避。
三本目。
刀の側面で軌道を逸らす。
だが――
「四本目はどうする!」
玄岳が叫ぶ。
最後の黒雷が宗玄の背後へ回り込んだ。
「!」
バチィン!
「ぐあっ!」
宗玄の左肩を黒雷が掠める。
身体が傾いた。
そこへ玄岳が踏み込む。
「もらった!」
黒雷を纏った苦無。
宗玄の胸元へ。
ガキィン!
寸前で風守刀が受け止めた。
「……っ!」
「まだ防ぐか!」
「当然だ!」
宗玄が苦無を押し返す。
二人が離れた。
ザッ。
玄岳は胸元を押さえる。
宗玄も右腕を庇った。
互いに負傷している。
それでも――
どちらも退こうとはしなかった。
「宗玄!」
蒼真が駆け寄ろうとする。
しかし。
ガリィン!
巨大な鉤爪が進路を塞いだ。
「おっと」
獅堂。
「お前らの相手は俺だろ?」
蒼真が風影刀を構える。
「邪魔するな!」
「それはこっちの台詞だ!」
獅堂が踏み込む。
蒼真が刃を受ける。
ガキィン!
「ぐっ!」
蓮司が横から斬り込む。
「蒼真! 宗玄のことは任せろ!」
「お前が行くのか!?」
「違ぇ!」
蓮司が獅堂の鉤爪を押し返す。
「宗玄なら自分で何とかするってことだ!」
獅堂が笑う。
「言うじゃねぇか!」
もう一方の鉤爪が蓮司へ迫る。
だが――
キィン!
レイの短刀が受け止めた。
「……余所見するな」
「てめぇ!」
レイは獅堂の力をまともに受けない。
刃を滑らせ、横へ逸らす。
しかし着地した瞬間。
「っ……」
肩に痛みが走った。
獅堂が見逃さない。
「傷が響くか!」
鉤爪が振り下ろされる。
「水遁・水弾!」
バシュッ!
凛の水弾が獅堂の腕へ命中。
「ぐっ!」
レイはその隙に後退した。
「助かった」
「無理しすぎ!」
「……分かっている」
「絶対分かってない!」
蓮司が思わず笑う。
「凛に怒られてやんの」
「お前もだ!」
「俺も!?」
蒼真が風影刀を構え直す。
「喋ってる場合じゃないぞ!」
獅堂が鉤爪を広げた。
「余裕そうだな、お前ら!」
四人は再び獅堂へ向き直った。
一方。
石柱の向こう。
宗玄と玄岳。
二人の間には黒雷が走っていた。
「……随分と静かになったな」
玄岳が呟く。
宗玄は答えない。
「さっきまでの勢いはどうした?」
「お前の雷を見ている」
「何?」
宗玄が風守刀を構える。
「お前の黒雷は、ただ速いだけではない」
玄岳が目を細める。
「今更気づいたか」
「最初は直線的だった」
宗玄はゆっくり足を動かす。
「だが今は違う」
玄岳の右手。
黒雷が指先から床へ落ちる。
「床の溝を使い、雷の進む方向を変えている」
「……」
「さらに雷を囮にして、自分自身が別方向から斬り込む」
玄岳が笑った。
「分かっているなら防いでみろ」
バチッ!
黒雷が三方向へ走る。
宗玄は動かない。
「……」
右。
左。
正面。
三本の黒雷。
だが宗玄の視線は――
玄岳の足元。
「そこだ」
ヒュッ!
宗玄が風守刀を振る。
「!」
玄岳の身体が一瞬止まった。
刀は玄岳を狙っていない。
足元の砂埃。
それを巻き上げた。
ゴォッ!
「ちっ!」
砂埃が黒雷の光を遮る。
宗玄が踏み込む。
「はあっ!」
風守刀が玄岳の右肩へ。
ガキィン!
苦無が受け止める。
だが宗玄は止まらない。
刀を引く。
再び斬る。
キン!
キィン!
ガキィン!
三度の斬撃。
玄岳は後退しながら受ける。
「くっ……!」
宗玄がさらに踏み込む。
「風守・流転!」
風が玄岳の右側へ流れた。
「!」
玄岳の身体が僅かに傾く。
宗玄の刀が左肩へ。
ザシュッ!
「ぐあっ!」
血が飛ぶ。
玄岳が大きく後退した。
宗玄は追わない。
「……はぁ」
右腕が震えていた。
先ほどの連撃。
火傷した腕への負担が大きい。
玄岳は左肩を押さえる。
「……やってくれる」
「まだ立てるか」
「当然だ」
玄岳が笑う。
「だが一つ、教えてやろう」
「何だ」
「お前は風を読む」
宗玄が黙る。
「風の流れを利用して相手の動きを崩す」
「……」
「なら――」
玄岳が印を結んだ。
「風そのものを乱せばどうなる?」
バチバチッ!
黒雷が両腕へ集まる。
「黒雷遁・雷鳴煙!」
ドォン!
黒い煙が爆発した。
宗玄が風守刀を振る。
「風守・流転!」
風が煙を流そうとする。
だが――
バチッ!
煙の中で黒雷が弾けた。
「!」
風が乱れる。
右から左へ。
下から上へ。
複数の雷撃が空気を震わせる。
宗玄の表情が変わった。
「……!」
玄岳の声が響く。
「読めるか!」
バチィッ!
黒雷が宗玄の足元へ。
宗玄が跳ぶ。
その瞬間。
別方向から雷撃。
「ぐっ!」
左腕を掠めた。
着地。
さらに黒雷。
「!」
宗玄が風守刀で受ける。
バチィン!
「くっ……!」
右腕に激痛。
刀を握る力が弱まる。
そこへ――
玄岳が現れた。
「終わりだ!」
黒雷を纏った苦無。
宗玄の首元へ。
だが。
「……甘い」
宗玄は刀を握り直した。
風を読む。
しかし――
今までとは違う。
乱れた風を無理に整えようとしない。
その中にある僅かな流れ。
玄岳自身が動くことで生まれた風。
宗玄はそこへ身体を滑らせた。
ヒュッ!
苦無が頬を掠める。
「何っ!?」
宗玄が玄岳の懐へ入る。
「風守・流転!」
ドッ!
柄頭が玄岳の腹へ突き刺さった。
「がはっ!」
玄岳が膝を折る。
宗玄が刀を振り上げる。
「はあっ!」
しかし――
バチッ!
玄岳の身体から黒雷が噴き出した。
「!」
宗玄が咄嗟に後退する。
バチィィン!
黒雷が床へ広がった。
「……っ!」
宗玄は距離を取った。
玄岳もゆっくり立ち上がる。
「はぁ……はぁ……」
宗玄が息を整える。
「今のは危なかったな」
玄岳が口元の血を拭う。
「お互いにな」
二人は再び向かい合った。
その頃。
獅堂との戦い。
「煙遁・黒煙陣!」
ボォッ!
黒煙が広がる。
蒼真が風影刀を構える。
「また煙か!」
「何度でも使ってやる!」
獅堂の声が響く。
蓮司が周囲を見る。
「見えねぇ!」
凛が手を伸ばす。
「水遁・水流陣!」
ザァッ!
床を薄い水が流れる。
「凛?」
蒼真が振り返る。
「煙は消せないけど……」
凛は目を閉じる。
「足音なら分かる!」
水面が揺れた。
右。
「そこ!」
凛が叫ぶ。
蒼真が振り向く。
ガキィン!
獅堂の鉤爪。
「ちっ!」
獅堂が舌打ちする。
「水で足音を拾いやがったか!」
蒼真が風影刀を押し返す。
「蓮司!」
「おう!」
蓮司が踏み込む。
「はあっ!」
獅堂が鉤爪で受ける。
だがレイが反対側へ回った。
「……そこだ」
二本の短刀。
キン!
キィン!
獅堂が防ぐ。
しかし――
「ぐっ!」
脇腹の傷。
身体が一瞬止まった。
蒼真が風を纏う。
「風遁・風刃!」
ヒュン!
獅堂が鉤爪を交差させる。
ガキィン!
風刃を防いだ。
だが衝撃で後退する。
「……っ!」
蒼真は追撃しない。
「はぁ……はぁ……」
蓮司が隣へ立つ。
「大丈夫か?」
「何とか」
「何とかって顔じゃねぇぞ」
「お前もな」
蓮司が笑う。
「違いねぇ」
凛も息を荒くしている。
レイは壁に手をついていた。
四人とも限界が近い。
獅堂も同じだった。
「……しぶてぇ奴らだ」
鉤爪を構え直す。
「だが、次で終わらせる」
蒼真が風影刀を握る。
「それはこっちの台詞だ」
獅堂が笑う。
「いいねぇ!」
その時――
ゴゴゴゴ……!
石室が揺れた。
「!」
蒼真が振り返る。
石柱の奥。
『風守の誓い』と刻まれた場所。
そこから風が吹き始めていた。
宗玄も気づく。
「……何?」
玄岳が石板を見る。
「動き出したか」
蒼真が叫ぶ。
「宗玄!」
「分かっている!」
宗玄は風守刀を構える。
玄岳も黒雷を纏う。
二人の視線が交差した。
そして――
同時に踏み込む。
「風守・流転!」
「黒雷遁・黒雷走!」
ゴォォッ!
バチィィン!
風と黒雷が激突する。
石室を震わせる衝撃。
その奥で――
古い布が大きく揺れた。
そして。
布の下に隠されていた石板の文字が、少しずつ姿を現し始める。
蒼真は目を凝らした。
「……!」
そこには、こう刻まれていた。
『風を守る者は、風を継ぐ者を見定めよ』
蒼真が宗玄を見る。
宗玄も、その文字を見ていた。
「……風守の誓い」
風守刀が震える。
玄岳が口元を歪めた。
「ようやく、ここまで来たか」
蒼真は風影刀を握り直した。
まだ戦いは終わっていない。
だが――
風影刀と風守刀。
二本の刀が存在する理由が、少しずつ明らかになろうとしていた。
第126話 完




