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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第4章「夜叉衆暗躍編」
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125/183

第125話「別路侵入」

地下深部。

歴代の風継ぎの名が刻まれた石柱。

その奥には、隠されていた石板が姿を現していた。

『真実を知り、風より消された者』

蒼真は、その文字を見つめていた。

「……風を裏切ったわけじゃない」

宗玄が風守刀を構える。

「ああ」

「なのに名前を消された」

「そう書かれている」

「誰がそんなことを……」

「今は考えるな」

宗玄の視線は前方。

黒雷の玄岳。

鉤爪の獅堂。

二人の夜叉衆が、石柱の向こうに立っていた。

バチッ。

玄岳の右腕に黒雷が走る。

「調べ物は終わったか?」

蓮司が刀を肩に担ぐ。

「お前らが邪魔しなきゃ、もう少し調べられたんだけどな」

「随分と余裕だな」

「余裕なんかねぇよ」

蓮司が刀を下ろす。

「こっちは朝から何回戦ってると思ってんだ」

獅堂が笑う。

「だったら降参しろよ」

「断る」

「即答か」

「当たり前だろ」

凛が蒼真の隣へ寄る。

「蒼真」

「どうした?」

「ここ、狭いよ」

蒼真が周囲を見る。

巨大な石柱。

壁際には歴代の風継ぎの記録。

奥には隠された石板。

広さはある。

だが、全力で忍術を放てる場所ではない。

「……そうだな」

凛が小さく頷く。

「水遁を大きく使ったら、石板まで壊しちゃうかもしれない」

「俺の風遁も同じだ」

レイが短刀を抜く。

「敵も同じ条件だ」

蓮司が笑う。

「だったら剣術勝負だな」

宗玄が静かに答える。

「そう単純ではない」

その瞬間。

玄岳が印を結んだ。

「黒雷遁・黒雷走!」

バチィッ!

黒雷が床を走る。

「散れ!」

宗玄の声。

蒼真たちは左右へ飛んだ。

黒雷は石柱を避けるように曲がる。

「曲がった!?」

蓮司が驚く。

玄岳は笑わない。

「石を壊さなければいいだけだ」

黒雷が床の溝を走り抜ける。

その先。

凛の足元。

「凛!」

蒼真が叫ぶ。

「水遁・水壁!」

ザバァッ!

凛が水の壁を作る。

だが黒雷が迫る。

「水を引け!」

宗玄の声。

凛は即座に術を解除した。

バチィン!

黒雷が水の消えた床を駆け抜ける。

「危なかった……!」

「相手は雷遁だ。水の使い方を間違えるな」

宗玄が言う。

凛は息を整える。

「分かった!」

玄岳が再び印を結ぶ。

しかし――

ヒュッ!

宗玄が踏み込んだ。

「させん!」

風守刀が振り下ろされる。

ガキィン!

玄岳が苦無で受ける。

「相変わらず速いな」

「お前もな」

宗玄が刃を滑らせる。

玄岳の腕へ。

だが玄岳は後方へ跳んだ。

バチッ!

黒雷が宗玄の足元へ。

「黒雷遁・雷縛!」

三本の黒雷が床を走る。

宗玄の逃げ道を塞ぐ。

「!」

宗玄は風守刀を低く構えた。

「風守・流転!」

ゴォッ!

足元の風が渦を巻く。

砂埃が舞い上がり、床の溝を隠した。

宗玄は黒雷の流れを見極め、雷の通らない僅かな隙間へ踏み込む。

「そこか!」

玄岳が苦無を突き出す。

キィン!

二人の刃が衝突した。

一方。

「お前らの相手は俺だ!」

獅堂が飛び出す。

巨大な鉤爪。

狙いは蓮司。

「来い!」

ガキィィン!

刀と鉤爪が激突する。

「ぐっ……!」

蓮司の足が滑った。

獅堂の力は凄まじい。

「どうした!」

「重てぇんだよ!」

蓮司が身体を捻る。

正面から受け続けない。

以前の修行で学んだ、力を流す動き。

鉤爪を横へ逸らす。

「おっ?」

獅堂の身体が僅かに傾く。

「蒼真!」

「ああ!」

蒼真が踏み込む。

「風遁・風刃!」

ヒュン!

獅堂が鉤爪を交差させる。

ガキン!

風刃を防ぐ。

だが蒼真の狙いは別だった。

風が獅堂の足元を抜ける。

「!」

獅堂の踏み込みが乱れた。

その隙にレイが接近する。

二本の短刀。

右。

左。

キン! キィン!

獅堂が鉤爪で防ぐ。

「三人がかりか!」

「四人だよ!」

凛が横から手を伸ばす。

「水遁・水縛!」

細い水流が獅堂の右足へ巻きつく。

「ちっ!」

獅堂が強引に引き千切ろうとする。

だが一瞬、足が止まった。

蒼真が風影刀を構える。

「今だ!」

「舐めんな!」

獅堂が両腕を広げた。

「煙遁・黒煙爆!」

ボォン!

黒煙が一気に膨れ上がる。

「まずい!」

蒼真が風影刀を振る。

「風遁・風環!」

ゴォッ!

四人の周囲に風が巡る。

黒煙を外側へ押し流す。

しかし――

ドンッ!

「ぐあっ!」

蓮司が吹き飛ばされた。

「蓮司!」

蒼真が振り返る。

煙の中。

獅堂の鉤爪が伸びていた。

「煙を払うのに集中しすぎだ!」

獅堂が笑う。

「俺自身が消えたわけじゃねぇ!」

再び鉤爪。

蒼真が受ける。

ガキィン!

「ぐっ!」

獅堂が押し込む。

「さっきから風ばっか使いやがって!」

「だったら……!」

蒼真が足を踏み込む。

「剣でもやってやる!」

風影刀を横へ滑らせる。

獅堂の鉤爪を逸らす。

そのまま斬り上げる。

「!」

獅堂が後ろへ跳ぶ。

頬に浅い傷。

「……やるじゃねぇか」

蒼真も息を荒くする。

「はぁ……はぁ……」

身体が重い。

長い地下戦。

何度も使った風遁。

既に体力は限界に近かった。

獅堂がそれを見抜く。

「もう長くは持たねぇな」

「そっちもだろ」

獅堂の脇腹。

以前の戦闘で負った傷から、血が滲んでいる。

「……よく見てんな」

「風が教えてくれる」

「便利なもんだ!」

獅堂が再び踏み込んだ。

その頃。

石柱の反対側。

玄岳と宗玄の戦いも続いていた。

ガキィン!

「ぐっ!」

宗玄が後退する。

右腕。

黒雷による火傷が痛む。

玄岳が見逃すはずもない。

「右腕が鈍っているぞ」

「お前も胸を庇っている」

「……!」

宗玄が踏み込む。

風守刀が玄岳の胸元へ。

玄岳は苦無で受ける。

だが衝撃が傷に響いた。

「ぐっ!」

宗玄が追撃する。

「終わらせる!」

「まだだ!」

玄岳が左手を床へ叩きつけた。

「黒雷遁・黒雷壁!」

バチィィン!

黒雷の壁が二人の間に立ち上がる。

宗玄が後退。

「……!」

玄岳も距離を取る。

二人とも息が荒い。

宗玄が問いかける。

「玄岳」

「何だ」

「なぜそこまでして、この記録を欲しがる」

玄岳は答えない。

「夜叉衆の命令か?」

「……」

「それとも、お前自身の目的か?」

玄岳の目が僅かに動いた。

「お前には関係ない」

「関係ある」

宗玄が風守刀を構える。

「俺は、この場所を守ってきた」

玄岳が黒雷を纏う。

「なら最後まで守ってみせろ」

その時。

ゴゴゴ……。

地下全体が揺れた。

「!」

蒼真が振り返る。

「また地震!?」

凛が石柱を見る。

「違う……!」

床の溝。

先ほど水が流れた場所。

そこから小さな振動が伝わっている。

レイが目を細める。

「石板の奥だ」

宗玄も気づいた。

「まさか……」

玄岳が笑う。

「やはり動いたか」

蒼真が玄岳を見る。

「何をした!」

「俺は何もしていない」

「じゃあ何で!」

玄岳は石板を見る。

「お前たちが隠された記録を開いた」

凛が息を呑む。

「私の水遁……?」

「それがきっかけになっただけだ」

宗玄が石板へ視線を向ける。

「古い仕掛けが残っていたのか……」

ゴゴゴゴ!

石板の奥。

壁の一部がゆっくりと動き始めた。

しかし完全には開かない。

僅かな隙間。

そこから――

一枚の古い布が見えた。

蒼真が目を凝らす。

「……何だ、あれ」

布には何かが描かれている。

紋様。

風を表すような渦。

そして――

その中心に、二本の刀。

風影刀。

風守刀。

宗玄の表情が変わった。

「……!」

玄岳も目を見開く。

「見つけた」

蒼真が振り返る。

「何を?」

玄岳は答えなかった。

代わりに――

バチッ!

黒雷を纏い、石板へ走る。

「させるか!」

宗玄が追う。

同時に獅堂も動いた。

「おらぁ!」

蒼真たちを押し退けようと、鉤爪を振り回す。

ガキィン!

蓮司が受け止めた。

「行かせねぇ!」

「邪魔だ!」

「そっちこそ!」

二人の武器が激しくぶつかる。

蒼真は石板を見る。

あの布。

玄岳が求めていたもの。

それが何なのか。

まだ分からない。

だが――

渡してはいけない。

そんな予感がした。

「凛! レイ!」

「分かってる!」

「……ああ」

三人が動く。

宗玄も風守刀を構え直した。

玄岳が黒雷を放つ。

「黒雷遁・四雷牙!」

四本の黒雷が宗玄へ迫る。

宗玄が風守刀を振る。

「風守・流転!」

風と黒雷が衝突する。

ドォォン!

石室が激しく震えた。

その衝撃で――

石板の奥にあった古い布が、僅かに揺れた。

そして。

布の下から、もう一つの文字が姿を現す。

蒼真はそれを見た。

「……!」

そこには――

『風守の誓い』

そう刻まれていた。

宗玄もその文字を見た。

「……風守の誓い?」

風守刀が震える。

玄岳が口元を歪めた。

「ようやく見つかったな」

蒼真が風影刀を握り直す。

夜叉衆が求めるもの。

宗玄さえ知らなかった記録。

そして、消された風継ぎ。

その全てが――

少しずつ繋がり始めていた。

第125話 完

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