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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第4章「夜叉衆暗躍編」
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第122話「風の道」

ゴォォォ……。


亀裂の向こうから吹き出した風が、石室を満たしていた。


崩れた石壁。


その奥には、さらに地下深部へ続く古い石段。


蒼真の風影刀が震える。


宗玄の風守刀も同じだった。


蓮司が石段を覗き込む。


「……まだ下があんのかよ」


「下とは限らない」


レイが壁に手をつきながら答える。


「風が上からも来ている」


「どういう造りしてんだ、ここ」


凛が蒼真を見る。


「風影刀の反応は?」


「かなり強い」


蒼真は目を閉じる。


石段の奥。


複数の風が流れている。


上。


下。


左右。


まるで地下全体に巨大な風の通り道が存在するようだった。


「この先に何かある」


宗玄が前へ出る。


「風の道だ」


蒼真が振り返る。


「さっきもそう言ったな」


「ああ」


「何なんだ?」


宗玄は答えようとする。


しかし――


バチッ!


黒雷が走った。


「話は後だ」


玄岳。


その隣では獅堂が鉤爪を構えている。


玄岳の口元には血。


宗玄の右腕にも黒雷による火傷。


互いに消耗している。


それでも殺気は消えていない。


玄岳が石段を見る。


「そこを開けてもらった以上、もうお前に用はない」


宗玄の目が鋭くなる。


「行かせると思うか」


「お前一人ならな」


獅堂が動いた。


「煙遁・黒煙陣!」


ボォッ!


黒煙が広がる。


「来るぞ!」


蒼真が風影刀を構えた。


黒煙の中。


玄岳の黒雷が走る。


獅堂の足音が消える。


宗玄が叫ぶ。


「蒼真! 煙を消そうとするな!」


「え?」


「流れを見ろ!」


直後。


右側から鉤爪。


蒼真は反射的に風影刀を上げる。


ガキィン!


「ぐっ!」


獅堂。


「見えてんじゃねぇか!」


「見てない!」


蒼真は獅堂の力を横へ流す。


そこへ蓮司。


「おらぁ!」


刀が迫る。


獅堂が反対の鉤爪で受ける。


キィン!


レイも動こうとする。


だが――


「……っ」


肩の傷。


足が止まった。


凛が気づく。


「レイ!」


その瞬間。


黒煙の中から手裏剣。


シュシュシュッ!


レイが短刀を振る。


キン!


キィン!


二枚を弾く。


三枚目。


凛が水を放つ。


「水遁・水弾!」


バシュッ!


手裏剣が弾かれた。


「無理しないで」


「……助かった」


一方。


宗玄の周囲を黒雷が駆ける。


「黒雷遁・黒雷走!」


玄岳が背後へ回る。


だが宗玄は振り向かない。


風守刀を後ろへ。


ガキィン!


「またか!」


「同じ動きだ」


宗玄が身体を回転させる。


玄岳の腕を流す。


だが玄岳も読んでいた。


「それもな!」


左手。


黒雷を纏った掌底。


ドッ!


宗玄の脇腹へ入る。


「ぐっ!」


宗玄が後退。


玄岳が追う。


「黒雷遁・雷刃!」


黒雷の刃。


宗玄が風守刀で受ける。


バチィン!


「っ……!」


火傷した右腕が震える。


玄岳が押し込む。


「さっきより鈍いぞ!」


「お前もな」


宗玄が足を滑らせる。


風が玄岳の足元へ集まる。


「!」


僅かに体勢が崩れた。


宗玄の膝が腹へ入る。


ドッ!


「ぐっ!」


二人が同時に離れる。


玄岳は息を荒くしていた。


宗玄も同じ。


決着にはまだ遠い。


その時――


獅堂が突然戦いから離れた。


「!」


蒼真が気づく。


「蓮司!」


「分かってる!」


獅堂が向かった先。


風の道。


「先に行かせてもらうぜ!」


「させるか!」


蓮司が追う。


だが獅堂は振り向きざまに鉤爪を振った。


「煙遁・黒煙爆!」


ドォン!


黒煙が爆発する。


「うおっ!」


蓮司が吹き飛ばされた。


「蓮司!」


蒼真が駆け寄ろうとする。


獅堂はそのまま石段へ。


あと数歩。


その瞬間。


ヒュッ。


獅堂の頬を何かが掠めた。


「……?」


血が一筋。


獅堂が止まる。


何も飛んできていない。


「今のは……」


宗玄が叫ぶ。


「動くな!」


獅堂が眉をひそめる。


「は?」


次の瞬間。


ゴォォォォ!!


石段から凄まじい突風が吹き上がった。


「なっ――!」


獅堂の巨体が浮く。


「ぐおっ!」


ドォン!


石室まで吹き戻された。


蒼真たちも踏ん張る。


凛が腕で顔を覆う。


「何、この風……!」


蓮司が起き上がる。


「獅堂が吹っ飛ばされたぞ」


獅堂が鉤爪を床へ突き刺す。


「くそっ……!」


頬だけではない。


腕にも細い傷が走っている。


玄岳が石段を見る。


「やはり……」


蒼真が聞く。


「何を知ってる?」


宗玄が答えた。


「風の道は、ただの通路ではない」


「じゃあ何なんだ」


宗玄は石段へ近づく。


だが一定の場所で止まった。


「風影刀と風守刀」


二本の刀を見る。


「その二本を持つ者以外が無理に入れば、風に拒まれる」


獅堂が立ち上がる。


「だったら、お前ら二人を使えばいいだけだろ」


宗玄が獅堂を見る。


「そう簡単ではない」


「何?」


「刀を持っていれば通れるわけではない」


蒼真が反応する。


また同じだ。


風影刀を持っているだけでは風継ぎではない。


宗玄が石段を見る。


「風の道では、自分の力で風を読まなければならない」


蓮司が顔をしかめる。


「じゃあ俺たちは?」


「本来なら入れない」


「本来なら?」


宗玄が蒼真を見る。


「風影刀を持つ者が道を開けば、共に進む者を風が受け入れる場合がある」


凛が尋ねる。


「場合があるって……」


「俺にも保証はできない」


「そんな危険な場所に行く必要あんのか?」


蓮司の問い。


宗玄は黙った。


蒼真は石段を見る。


風が吹いている。


だが――


不思議と恐怖は感じない。


むしろ。


「呼ばれてる……」


凛が蒼真を見る。


「蒼真?」


「風が……こっちに来いって言ってる気がする」


宗玄の表情が変わった。


「……聞こえるのか?」


「声じゃない」


蒼真は胸へ手を当てる。


「でも分かる」


風影刀を抜く。


ゴォッ。


石段から吹いていた風が僅かに弱くなった。


玄岳がその変化を見る。


「やはり風影刀か……」


宗玄も風守刀を抜く。


「蒼真」


「ああ」


二人が石段の前へ並ぶ。


風影刀。


風守刀。


二本の刀を前へ。


風が集まる。


ゴォォォ……。


蒼真は目を閉じた。


押さえ込まない。


操ろうとしない。


ただ流れを読む。


「……右」


一歩。


風が右から通り抜ける。


「次は左」


もう一歩。


宗玄が蒼真を見る。


何も言わない。


三歩。


四歩。


蒼真が石段へ入った。


風は襲ってこない。


蓮司が目を見開く。


「行けてる……」


凛も見守る。


レイは静かに言った。


「蒼真が道を作ってる」


風が変わる。


蒼真から仲間たちへ。


一本の穏やかな流れ。


蒼真が振り返る。


「来い!」


「本当に大丈夫なの?」


「分からない!」


「分からないのかよ!」


蓮司が突っ込む。


蒼真が笑う。


「でも俺を信じろ!」


蓮司は一瞬黙り――


「最初からそのつもりだ!」


石段へ踏み込む。


風が蓮司の周囲を回る。


「うおっ……」


だが吹き飛ばされない。


「行けた!」


凛も続く。


水が風に揺れる。


「……暖かい」


最後にレイ。


蓮司が手を伸ばす。


「ほら」


「必要ない」


一歩。


レイの身体が揺れる。


「っ……」


「だから言っただろ!」


蓮司が腕を掴んだ。


「離せ」


「落ちてからじゃ遅ぇ!」


二人で石段へ入る。


風は四人を拒まなかった。


宗玄が最後に入る。


蒼真たちは少しずつ奥へ進む。


残された玄岳と獅堂。


獅堂が舌打ちする。


「どうする?」


玄岳は黙って蒼真たちを見ていた。


「俺たちは入れない」


「諦めんのか?」


「まさか」


玄岳が懐から苦無を取り出す。


その柄には――


小さな黒い札。


「夜叉衆が何年、この地下を調べてきたと思っている」


獅堂が笑う。


「別の道があるってことか」


「風の道を通る必要はない」


二人が石室の別方向へ消えていく。


一方。


蒼真たちは石段を進んでいた。


やがて――


風が止まった。


「……着いた?」


凛が前を見る。


巨大な空間。


その中央に一本の石柱。


そして石柱には――


何かが刻まれている。


蒼真が近づく。


「これは……」


人の名前。


一つではない。


何十。


何百。


古い忍たちの名が刻まれていた。


その最上部。


大きな文字。


『風継ぎの記』


宗玄が足を止める。


蒼真は石柱を見上げた。


「これが……」


宗玄が静かに答える。


「歴代の風継ぎが残した記録だ」


風影刀が――


静かに震えた。


第122話 完

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