第121話「風守刀VS黒雷」
バチィィン!!
黒雷が石室を照らす。
玄岳の拳と宗玄の風守刀が激突した。
「黒雷遁・黒雷走!」
玄岳の姿が消える。
右。
左。
背後。
黒い雷光だけが残像のように走る。
宗玄は動かない。
「……」
「遅い!」
玄岳が背後から現れた。
黒雷を纏った拳が宗玄の背中へ迫る。
その瞬間――
宗玄の刀が動いた。
キィン!
「なにっ!?」
振り向いていない。
それでも風守刀が正確に拳を受けていた。
宗玄が身体を返す。
玄岳の腕を刀の腹で流す。
「ぐっ!」
体勢が崩れる。
宗玄の蹴り。
ドッ!
玄岳が吹き飛ぶ。
だが空中で身体を捻り着地した。
「……風で俺を見ているのか」
「見てはいない」
宗玄が風守刀を構える。
「読んでいる」
「同じことだ」
「違う」
宗玄の周囲を静かな風が流れる。
「姿を見る必要がない」
玄岳が笑う。
「なら――」
両手で印を結ぶ。
「読めないほど乱してやる」
黒雷が床へ放たれた。
「黒雷遁・雷鳴煙!」
バチバチバチッ!!
黒雷が石床を走る。
直後。
ボンッ!
黒煙が一気に広がった。
宗玄の姿が煙に包まれる。
蒼真が振り返る。
「宗玄!」
「余所見すんな!」
獅堂の鉤爪が迫る。
「っ!」
ガキィン!
風影刀で受ける。
重い。
蒼真の足元の石が割れた。
「さっきより力落ちてんじゃねぇか!」
「ずっと戦ってたからな!」
蒼真は刀を傾ける。
鉤爪の力を横へ流す。
獅堂が僅かに崩れた。
「蓮司!」
「おう!」
横から蓮司。
刀を振る。
獅堂は反対の鉤爪で受け止める。
ガキィン!
「二人がかりか!」
「四人だ」
レイの声。
獅堂の背後。
「!」
二本の短刀が交差する。
獅堂は前へ跳ぶ。
ザッ!
背中の衣が切れた。
「ちっ!」
着地したところへ――
「水遁・水槍!」
凛の水槍。
ドォン!
獅堂が鉤爪を交差させる。
「ぐっ!」
水圧で押し戻される。
だが凛も片膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
蒼真が気づく。
「凛!」
「大丈夫……!」
長時間、人質を守り続けた。
水遁も何度も使った。
凛のチャクラも限界に近い。
レイも肩と脇腹を負傷している。
蓮司も全身傷だらけ。
蒼真自身も同じ。
獅堂がそれを見る。
「なるほどな」
鉤爪を構え直す。
「四人揃ってても、もうボロボロってわけか」
蓮司が息を整える。
「だから?」
「長期戦になれば俺が勝つ」
「なら――」
蓮司が刀を構える。
「長期戦にしなきゃいい」
「言うじゃねぇか!」
獅堂が地面を蹴った。
「煙遁・黒煙陣!」
ボォッ!
黒煙が四人を包み込む。
「またこれか!」
蓮司が周囲を見る。
何も見えない。
音まで歪む。
右から足音。
左から金属音。
前から獅堂の笑い声。
「どこだ!」
「動くな!」
蒼真が叫ぶ。
目を閉じる。
風を読む。
しかし――
「……っ」
煙の中を流れる風が複雑に乱れている。
以前なら獅堂の位置を掴むまで時間がかかった。
だが今は。
蒼真の意識に、細かな空気の流れが入ってくる。
煙。
石柱。
仲間。
そして――
高速で移動する一つの気配。
「右!」
レイが即座に反応する。
ガキィン!
鉤爪と短刀がぶつかる。
「なにっ!?」
レイが片方の短刀で鉤爪を止める。
だが負傷した肩が震えた。
「ぐっ……!」
獅堂が押し込む。
「止めきれねぇだろ!」
そこへ蓮司。
「一人ならな!」
刀を差し込む。
二人で鉤爪を押し返す。
獅堂が反対の腕を振る。
だが――
「凛!」
「分かってる!」
足元に水。
「水遁・水縛!」
水が獅堂の右足へ絡みつく。
「ちっ!」
一瞬だけ動きが止まる。
「蒼真!」
風が集まる。
「風遁・風刃!」
ザァッ!
風刃が黒煙を切り裂いた。
煙が左右へ吹き飛ぶ。
獅堂の姿が露わになる。
蒼真が踏み込んだ。
風影刀と鉤爪が激突する。
ガキィィン!
「ぐっ!」
「おらぁ!」
獅堂の力は強い。
だが蒼真は押し合わない。
宗玄の戦いが一瞬、視界に入る。
――力を受けるな。
――風を見る。
蒼真は刀を僅かに傾けた。
鉤爪が滑る。
「!」
獅堂の身体が前へ流れる。
蒼真が横を抜けた。
ザッ!
獅堂の脇腹が切れる。
「ぐっ!」
獅堂が距離を取った。
血が落ちる。
「てめぇ……」
蒼真も肩で息をする。
「まだ終わってない」
一方。
黒煙の中。
玄岳は高速で宗玄の周囲を走っていた。
バチッ!
バチバチッ!
黒雷。
煙。
足音。
石柱に反射する音。
風の流れを意図的に乱している。
「これならどうだ!」
黒雷が四方向から放たれた。
「黒雷遁・四雷牙!」
四本の黒雷。
宗玄へ同時に迫る。
宗玄が初めて大きく動いた。
風守刀を回転させる。
「風守・流転」
ゴォッ!
宗玄を中心に風が円を描いた。
一本目の黒雷。
僅かに軌道が逸れる。
二本目。
石床へ。
三本目。
石柱へ。
ドォン!
最後の一本。
宗玄が風守刀で受ける。
バチィッ!
「くっ……!」
宗玄の腕に黒雷が走る。
玄岳が笑う。
「完全には流せないようだな!」
煙の中から飛び出す。
「黒雷遁・黒雷走!」
一瞬で間合いを詰める。
拳が宗玄の腹へ――
ドッ!
「……!」
宗玄が後退した。
初めて玄岳の攻撃がまともに入る。
蒼真が気づく。
「宗玄!」
玄岳は追撃する。
「もらった!」
黒雷を纏った拳。
宗玄は風守刀を構えようとする。
だが黒雷を受けた腕が僅かに遅れる。
拳が迫る。
その時。
宗玄の目が玄岳ではなく――
その背後を見た。
「……そこか」
「何?」
宗玄が一歩だけ横へ動く。
玄岳の拳が頬を掠めた。
宗玄は刀を振らない。
代わりに――
足元の小石を蹴った。
コッ。
小石が床を転がる。
玄岳が眉をひそめる。
次の瞬間。
ゴォッ!
乱れていた風の一部が突然変わった。
黒煙が一方向へ流れる。
「なっ……」
玄岳の表情が変わる。
宗玄が黒煙の中から現れた。
「風を乱したつもりだったか」
「……!」
「乱れた風にも流れはある」
風守刀が下から振り上げられる。
ガキィン!
玄岳は黒雷で受ける。
だが――
宗玄は止めない。
刀を滑らせる。
玄岳の腕が外へ流された。
胴が開く。
「しまっ――」
宗玄の掌底。
ドンッ!
玄岳の胸へ入った。
「ぐはっ!」
玄岳が吹き飛ぶ。
ドォン!
石柱へ激突。
「玄岳!」
獅堂が一瞬そちらを見る。
その一瞬。
レイが動いた。
「余所見するな」
短刀が鉤爪の内側へ入る。
キィン!
獅堂の右腕が跳ね上がる。
蓮司が踏み込む。
「もらった!」
刀の柄を腹へ。
ドッ!
「ぐっ!」
獅堂が身体を丸める。
凛が最後の力を集める。
「水遁――」
蒼真が止めた。
「凛、待て!」
「え?」
「使いすぎるな!」
獅堂がその隙に後退する。
四人との距離が開いた。
玄岳も石柱から身体を起こす。
口元から血。
宗玄の右腕にも黒雷による火傷。
誰も無傷ではない。
静寂。
玄岳が宗玄を見る。
「……なるほど」
「何だ」
「お前がここを守り続けていた理由が分かった」
蒼真の表情が変わる。
「守り続けていた?」
宗玄は答えない。
玄岳が笑う。
「そいつらには話していないのか?」
「黙れ」
初めて宗玄の声が強くなった。
玄岳の笑みが深くなる。
「風影刀」
蒼真が握る刀を見る。
「風守刀」
そして宗玄。
「二本が揃えば、この地下深部のさらに奥へ進める」
凛が驚く。
「さらに奥……?」
玄岳が続ける。
「俺たち夜叉衆が、この地下施設を利用した理由も――」
宗玄が動いた。
「玄岳!」
風守刀が迫る。
玄岳は黒雷で受ける。
ガキィン!
「言わせたくないようだな!」
「お前たちが触れていいものではない!」
「だったら守ってみろ!」
黒雷が爆発する。
バチィィン!!
宗玄が後退。
玄岳も下がる。
蒼真は二人を見る。
「宗玄」
「……」
「何がある?」
宗玄は答えない。
「俺たちにも関係あるんだろ?」
沈黙。
その時。
ズズズズ……。
地面が僅かに震えた。
全員が止まる。
蓮司が周囲を見る。
「また崩落か?」
「違う」
蒼真は風影刀を見る。
震えている。
宗玄の風守刀も同じ。
カタカタカタ……。
二本の刀が――
石室のさらに奥へ向かって反応している。
玄岳の顔から笑みが消えた。
「……始まったか」
宗玄が玄岳を睨む。
「何をした」
「俺じゃない」
「なら何だ」
玄岳も奥を見る。
「制御核が壊れた影響だ」
ゴゴゴゴゴ……!
奥の巨大な石壁に一本の亀裂が走った。
蒼真が目を見開く。
亀裂の向こうから――
風が吹いてくる。
強い。
だが荒々しくない。
どこか懐かしいような風。
蒼真の周囲を通り抜け――
風影刀へ集まった。
宗玄の表情が変わる。
「まさか……」
石壁の亀裂がさらに広がる。
その向こうに。
古い石段が現れた。
下ではない。
さらに奥へ続く階段。
宗玄が呟く。
「風の道が……開いた」
蒼真は風影刀を握る。
玄岳。
獅堂。
宗玄。
蓮司。
凛。
レイ。
全員の視線が、同じ場所へ向いた。
戦いはまだ終わっていない。
しかし――
地下深部に眠っていた新たな道が、今まさに姿を現していた。
第121話 完




