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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第4章「夜叉衆暗躍編」
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第120話「二本の刀」

地下深部の石室。


蒼真たちは、短い休息を取っていた。


凛がレイの肩に布を巻く。


「動かないで」


「動いてない」


「さっきから三回動いた」


「……」


「痛い?」


「問題ない」


蓮司が横から口を挟む。


「それしか言えねぇのか?」


レイが蓮司を見る。


「うるさい」


「元気じゃねぇか」


「蓮司も腕、見せて」


「俺?」


「さっき槍を受けた時に切られてたでしょ」


蓮司が自分の腕を見る。


浅い傷から血が滲んでいる。


「こんなの唾つけとけば――」


「座って」


「はい」


蒼真が思わず笑った。


「凛には逆らわない方がいいぞ」


「お前もだよ」


「え?」


凛が蒼真を見る。


「頬」


宗玄との戦いで切れた傷。


さらに玄岳や獅堂との戦闘で、全身に細かな傷が残っている。


「……これくらい大丈夫だ」


蓮司が笑う。


「お前も同じじゃねぇか」


「うるさい」


少しだけ空気が和らいだ。


だが――


蒼真の視線は自然と壁画へ向かう。


二本の刀。


一つは風影刀。


もう一つは宗玄の持つ刀。


宗玄は少し離れた場所に座っていた。


蒼真が立ち上がる。


「もう一度聞いていいか?」


「何だ」


「その刀」


宗玄が腰を見る。


「風影刀を見定めるための刀って言ってたよな」


「ああ」


「名前は?」


宗玄は少し黙る。


そして刀を抜いた。


静かな音が石室に響く。


銀色の刃。


見た目だけなら普通の刀に近い。


だが蒼真の風影刀が微かに震える。


「風守刀」


「ふうしゅとう……」


「風を守る刀と書く」


凛も壁画を見る。


「だから風影刀に反応したの?」


「正確には、互いの刀が持つ風の流れに反応している」


蒼真が風影刀を抜く。


カタッ。


宗玄の風守刀も震える。


二本を近づけるほど、石室の風が強くなる。


蓮司が髪を押さえた。


「おいおい、近づけるだけでこれかよ」


レイは二本の刀を観察する。


「同じ刀ではない」


宗玄が頷く。


「風影刀は風を導く」


そして自分の刀を見る。


「風守刀は、その流れを見極める」


蒼真が眉をひそめる。


「それが見定めるってことか?」


「そうだ」


宗玄は風守刀を鞘へ戻す。


風が弱まった。


「風影刀は強い力を持つ。だが、持つ者が強ければいいわけではない」


「……」


「力を求めるだけの者が持てば、その風はいずれ乱れる」


蒼真は自分の刀を見る。


「だから風守刀を持つ者が止める?」


「必要ならな」


蓮司の表情が変わる。


「つまり、蒼真が道を間違えたら……」


宗玄は淡々と答える。


「俺が斬る」


「は?」


蓮司が立ち上がる。


「おい、急に物騒すぎんだろ」


「蓮司」


蒼真が止める。


「でもよ」


「いい」


蒼真は宗玄を見る。


「だったら間違えなきゃいい」


宗玄の目が僅かに細くなる。


「簡単に言う」


「簡単だなんて思ってない」


蒼真は仲間を見る。


「俺一人だったら間違えるかもしれない」


蓮司。


凛。


レイ。


「でも俺には仲間がいる」


凛が微笑む。


蓮司も口元を上げた。


レイは何も言わない。


ただ小さく頷いた。


宗玄は四人を見る。


「……そうか」


蒼真が再び壁画へ近づく。


「それで、風影刀が残された理由って?」


宗玄が立ち上がった。


「休息はもういいのか」


「俺は大丈夫」


「俺も」


蓮司が続く。


凛も立つ。


「レイは?」


「行ける」


「本当に?」


「今度は本当に問題ない」


蓮司が笑う。


「信用ねぇな」


レイが睨む。


宗玄は石室の奥へ歩いた。


壁には古い石扉。


その中央には、細長い窪みが二つある。


蒼真が近づく。


「刀の形……?」


「そうだ」


宗玄が風守刀を抜いた。


「この扉は一振りでは開かない」


蒼真も風影刀を抜く。


「二本必要なのか」


「ああ」


宗玄が右側の窪みに風守刀を差し込む。


蒼真は左側。


風影刀を差し込んだ。


その瞬間――


ゴォォォッ!


「うわっ!」


蓮司が腕で顔を覆う。


凛の髪が大きく揺れる。


二本の刀から風が広がった。


石扉に刻まれていた文字が淡く浮かび上がる。


レイが見る。


「文字が……」


蒼真にも読めない。


だが宗玄は知っていた。


「風は力にあらず」


宗玄が読み上げる。


「風は道なり」


次の文字。


「道を継ぐ者、風を守れ」


蒼真の脳裏に、以前見た言葉が浮かぶ。


――風継ぎは、風を継ぐ者にあらず。


――風を守る者なり。


「同じ意味……」


宗玄が蒼真を見る。


「お前も見たことがあるようだな」


「ああ」


ゴゴゴゴゴ……!


巨大な石扉が左右へ開いていく。


冷たい風が吹き出した。


だが。


蒼真が眉をひそめる。


「……変だ」


「何が?」


凛が聞く。


蒼真は奥を見る。


「風が一方向じゃない」


扉の向こうから吹いてくる風。


それだけではない。


右。


左。


上。


下。


複数の方向から空気が流れている。


まるで巨大な空間全体が呼吸しているようだった。


宗玄が二本の刀を抜く。


「ここから先が本当の地下深部だ」


蒼真たちは中へ入った。


広い。


天井すら暗闇に隠れて見えない。


石柱が何本も並んでいる。


そして――


凛が声を漏らす。


「何……これ……」


壁一面。


無数の傷。


刀傷。


手裏剣。


苦無。


忍術によって焼けた跡。


何者かがここで激しく戦った痕跡が残されていた。


蓮司が壁へ近づく。


「昔ここで戦いがあったのか?」


「そうだ」


宗玄が答える。


「誰と誰が?」


「それを今から見せる」


宗玄が奥へ進む。


蒼真たちも続く。


やがて巨大な石碑が現れた。


そこには複数の忍が描かれている。


その中央。


刀を持つ一人の忍。


蒼真が見る。


その手には――


「風影刀……」


宗玄が頷く。


「かつて、この刀を持った忍がいた」


「風継ぎ?」


「そう呼ばれていた」


蒼真が石碑へ近づく。


「その人はどうなった?」


宗玄は答えようとする。


その時――


蒼真が振り返った。


「待って」


蓮司も刀へ手を伸ばす。


「どうした?」


「風が変わった」


レイも暗闇を見る。


凛が水を構える。


遠くから音が響いた。


バチッ。


バチバチッ。


黒い雷。


蒼真の表情が険しくなる。


「……玄岳」


宗玄が振り返る。


暗闇の向こう。


黒雷が石柱を照らした。


玄岳が歩いてくる。


その隣には――


巨大な鉤爪を構えた獅堂。


「やっと追いついた」


蓮司が刀を抜く。


「しつこすぎんだろ……」


獅堂が笑う。


「それはこっちの台詞だ」


玄岳は蒼真ではなく――


宗玄を見る。


「やはり生きていたか」


蒼真が玄岳を見る。


「知り合いなのか?」


宗玄の目つきが変わった。


風守刀を抜く。


「夜叉衆……」


玄岳の腕を黒雷が走る。


「その場所を見られた以上――」


バチィッ!


「全員、ここから出すわけにはいかない」


宗玄が一歩前へ出る。


「蒼真」


「何だ?」


「よく見ておけ」


風守刀の周囲に風が集まり始める。


「風を操ることと――」


宗玄の姿が消えた。


次の瞬間。


ガキィィン!!


風守刀と玄岳の黒雷が激突する。


「風を読むことの違いを」


玄岳と宗玄。


黒雷と風。


二人の戦いが始まった。


そして獅堂が鉤爪を構える。


「なら俺は――」


視線が蒼真たちへ向く。


「残り四人だ」


蓮司が前へ出る。


「一人で四人相手する気か?」


「さっきの続きだ」


蒼真も風影刀を構える。


凛が水を集める。


レイも負傷した身体で二本の短刀を抜く。


地下深部。


古い戦いの跡が残る場所で――


再び刃が交わろうとしていた。


第120話 完

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