↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影狼ノ忍  作者: 次男坊
第4章「夜叉衆暗躍編」
PR
119/182

第119話「神谷宗玄」

石室を風が駆け抜ける。


蒼真の風影刀。


神谷宗玄の刀。


二本の刃が互いに反応するように震えていた。


「俺が風影刀を持つに値するか……?」


「ああ」


宗玄は刀を下段に構える。


「確かめさせてもらう」


蓮司が前へ出た。


「待てよ。こっちは夜叉衆と散々戦った後なんだぞ」


凛も続く。


「蒼真だけじゃない。レイなんて怪我してる」


「分かっている」


「だったら――」


「だからこそだ」


宗玄の一言で、二人が止まる。


蒼真が宗玄を見る。


「どういう意味だ?」


「忍が常に万全の状態で戦えると思うか?」


「……」


「疲労している時。負傷している時。仲間を守らなければならない時」


宗玄は蒼真から視線を逸らさない。


「それでも判断を誤らない者でなければ、その刀は扱えん」


蒼真は風影刀を握り直した。


「戦えばいいんだな?」


「蒼真」


凛が心配そうに見る。


「大丈夫だ」


「でも……」


「長くはやらない」


蒼真が前へ出る。


「俺も聞きたいことがある」


宗玄を見る。


「風影刀のことを何で知ってるのか」


そして。


「その刀は何なのか」


宗玄は僅かに目を細めた。


「ならば――」


足を引く。


「俺から一本取ってみろ」


ゴッ!


風が弾けた。


宗玄の姿が消える。


「!」


蒼真は反射的に風影刀を上げた。


ガキィン!


刃と刃が激突する。


「ぐっ!」


重い。


だが力だけではない。


宗玄の刀に沿って風が流れている。


刃を押し返そうとした瞬間――


「なっ!」


風向きが変わった。


蒼真の身体が横へ流される。


宗玄の刀が迫る。


蒼真は地面を蹴った。


「風遁・風纏!」


間一髪で離れる。


ザッ!


蒼真の頬に浅い傷。


蓮司が目を見開く。


「今の……」


レイが壁にもたれながら見る。


「蒼真の風纏より速いわけじゃない」


「じゃあ何で?」


「動く前から蒼真の逃げる方向を潰している」


凛も戦いを見る。


「風を使って……?」


「たぶん」


蒼真も同じことに気づいていた。


宗玄はほとんど忍術を使っていない。


それなのに――


周囲の風が宗玄の動きに合わせて変化する。


「風遁・風刃!」


蒼真が斬撃を飛ばす。


宗玄は避けない。


刀を横へ振る。


フッ――。


「……!」


風刃の軌道が僅かに逸れた。


ザァン!


宗玄の横の壁が切れる。


「忍術を消した……?」


「違う」


宗玄が答える。


「流しただけだ」


蒼真は白峰カイとの会話を思い出す。


風影刀を持つだけでは、風継ぎではない。


風を理解する。


風を守る。


これまで何度も聞いてきた言葉。


「……だったら」


蒼真は目を閉じた。


「何をしてる!?」


蓮司が声を上げる。


宗玄が動く。


一歩。


二歩。


刀が迫る。


だが蒼真は目を開けない。


風が頬を撫でる。


右から左。


その中に――


一つだけ違う流れ。


「右!」


蒼真が振り向く。


ガキィン!


宗玄の刀を受け止めた。


宗玄の眉が僅かに動く。


蒼真はそのまま刀を押さない。


宗玄の力に合わせて風影刀を滑らせる。


キィン!


宗玄の刃が横へ流れた。


「今だ!」


蒼真が踏み込む。


風影刀が宗玄の胸元へ迫る。


しかし。


宗玄の足元で風が渦巻いた。


フッ!


宗玄が僅かに身体をずらす。


刃が衣を掠める。


ザッ。


布が切れた。


宗玄が後ろへ跳ぶ。


蒼真も追わなかった。


静寂。


蓮司が口を開く。


「今……当たったよな?」


凛が頷く。


「少しだけ」


宗玄は切れた衣を見る。


「……なるほど」


刀を鞘へ戻した。


カチン。


蒼真が眉をひそめる。


「終わりか?」


「ああ」


「一本取ってないぞ」


「必要ない」


宗玄は蒼真を見る。


「今ので十分だ」


「何が分かった?」


宗玄は答える前に、レイへ視線を向けた。


「まず仲間の手当てをしろ」


レイが自分の肩を見る。


「俺はまだ――」


「座れ」


「……」


「血を流しすぎている」


蓮司が笑う。


「ほら、知らない奴にも言われてんぞ」


レイが蓮司を見る。


「うるさい」


凛がレイのところへ向かう。


「見せて」


「自分でできる」


「いいから」


「……分かった」


凛が傷の状態を確認する。


その間。


蒼真は宗玄へ近づいた。


「答えてくれ」


「何をだ」


「全部だ」


蒼真が風影刀を見せる。


「風影刀を何で知ってる?」


宗玄は黙った。


「それに、あんたの刀も俺の風影刀に反応した」


「……」


「白峰カイは風継ぎのことを知っていた」


宗玄の目が変わる。


「白峰?」


「天影衆の白峰カイだ」


「天影衆……」


宗玄は目を閉じる。


しばらくして、石室の奥へ歩き始めた。


「来い」


「どこへ?」


「ここでは話せん」


蓮司が怪しむ。


「また奥かよ」


宗玄は立ち止まる。


「嫌なら戻ればいい」


「戻れる道が崩れてんだよ」


「なら来い」


「なんか腹立つな、こいつ」


「蓮司」


凛が苦笑する。


宗玄は石室の奥にある壁へ手を触れた。


そこには古い紋様が刻まれている。


蒼真が近づく。


「これ……」


見覚えがある。


北東村の古い祠。


地下の封印。


そこで見たものと似ている。


宗玄が壁の一部を押した。


ゴゴゴゴ……。


石壁が横へ動く。


その先に、小さな部屋が現れた。


壁一面に古い文字。


そして中央には――


一本の刀を描いた古い絵。


蒼真が目を見開く。


「風影刀……」


絵の刀は、自分が持つものとよく似ていた。


その隣には、もう一本。


形の異なる刀が描かれている。


蒼真は宗玄の腰を見る。


「まさか……」


宗玄が自分の刀へ手を置く。


「俺の刀は風影刀ではない」


「じゃあ何なんだ?」


宗玄は壁画を見る。


「風影刀と共に残された刀だ」


蓮司が聞く。


「二本あったってことか?」


「違う」


宗玄は首を振る。


「役目が違う」


蒼真は壁画へ近づいた。


「役目?」


「風影刀を持つ者が道を誤らぬよう――」


宗玄が続ける。


「その刃を見定めるための刀だ」


凛が振り返る。


「じゃあ、あなたは……」


宗玄は答えない。


代わりに壁の文字を指差した。


蒼真がそこを見る。


古い文字。


全ては読めない。


だが一つだけ――


以前にも見た言葉がある。


風継ぎ。


蒼真の表情が変わった。


宗玄が静かに口を開く。


「お前はまだ、風継ぎではない」


蒼真は黙って聞く。


「風影刀に選ばれたことと、風継ぎになることは同じではない」


白峰カイと同じ言葉。


「なら……風継ぎって何なんだ?」


宗玄は壁画を見つめた。


「それを知るには――」


指先が別の文字へ動く。


「お前自身が、風影刀に残されたものを知らなければならない」


その瞬間。


カタッ。


風影刀が震えた。


そして――


石室のさらに奥から風が吹いた。


蒼真が振り返る。


「まだ奥があるのか?」


宗玄は頷く。


「ある」


「何がある?」


宗玄は蒼真を見る。


「風影刀が残された理由だ」


蒼真は息を呑む。


しかし宗玄はすぐに奥へ進まなかった。


「だが今のお前たちは傷つきすぎている」


レイ。


凛。


蓮司。


そして蒼真自身。


全員が長い戦いで消耗している。


宗玄は言った。


「先へ進む前に休め」


蒼真は風影刀を見る。


聞きたいことは山ほどある。


それでも――


仲間を見た。


特にレイの傷は深い。


「……分かった」


宗玄が僅かに頷く。


その頃。


崩落によって分断された地下迷宮では――


バチッ。


黒雷が岩壁を走った。


玄岳が塞がれた通路を見つめている。


隣には獅堂。


「どうする?」


玄岳は答える。


「別の道を使う」


「まだ追うのか?」


「あの奥へ行かせるわけにはいかない」


獅堂の表情から笑みが消える。


「……やっぱり、何かあるんだな」


玄岳は黒雷を消した。


「行くぞ」


二人が暗い別通路へ姿を消す。


蒼真たちが休息する地下深部へ。


夜叉衆の追跡は――


まだ終わっていなかった。


第119話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。