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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第4章「夜叉衆暗躍編」
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第118話「石扉の向こう」

ゴゴゴゴ……。


巨大な石扉が完全に開いた。


冷たい風が凛の髪を揺らす。


扉の向こうは広い空間になっていた。


壁も床も古い石造り。


夜叉衆の黒い術式も、黒い管も見当たらない。


そして、その中央。


暗闇の中に一人の男が立っていた。


「その水遁……黒影衆の忍ではないな」


凛は両手に水を集めたまま答える。


「違う」


「なら、なぜここにいる」


「仲間と任務で来たの。夜叉衆に捕まっていた人たちを助けるために」


男の目が細くなる。


「夜叉衆……」


「知ってるの?」


返事はない。


男が暗闇から一歩出る。


古びた忍装束。


腰には一本の刀。


だが、夜叉衆の印はない。


黒影衆でもない。


天影衆とも違う。


凛は警戒を続ける。


「あなたは誰?」


「……」


男は凛ではなく、その背後を見た。


「一人か?」


「今はね」


「仲間は?」


「こっちに向かってる」


男は少し黙った。


「なら待て」


「え?」


「ここから先へ進むな」


凛の表情が険しくなる。


「どうして?」


「この先は、お前が一人で入る場所ではない」


「だから理由を――」


ドォン!


遠くから衝撃音が響いた。


凛が振り返る。


「蒼真たち……?」


男も通路を見る。


「戦っているな」


「行かなきゃ!」


凛が戻ろうとする。


だが男が静かに言った。


「必要ない」


凛が足を止める。


「何でそんなこと分かるの?」


「風がまだ乱れていない」


「風?」


「仲間の中に風遁使いがいるだろう」


凛の目が見開かれる。


「どうして……」


男は答えない。


その頃――


ガキィン!


蒼真の風影刀と鎖鎌が激突する。


「風遁・風纏!」


風を纏った蒼真が一気に踏み込んだ。


鎖鎌の忍が後退する。


「土遁・岩壁!」


ドォン!


石壁が立ち上がる。


だが蒼真は止まらない。


「風遁・風刃!」


ザァン!


風刃が岩壁に大きな亀裂を入れる。


「蓮司!」


「任せろ!」


蓮司が踏み込む。


「はぁっ!」


刀を亀裂へ叩き込んだ。


バキィン!


岩壁が崩れる。


「なにっ!」


その向こうにいた鎖鎌の忍が目を見開く。


蒼真が飛び出した。


「そこだ!」


風影刀が振り抜かれる。


ガキィン!


鎖鎌で防がれる。


だが勢いまでは殺せない。


「ぐっ!」


敵が地面を滑る。


一方。


短槍の忍が蓮司へ迫った。


「まだ終わっていない!」


鋭い突き。


蓮司は刀の腹で槍を受ける。


正面から止めない。


刃を滑らせる。


「そっちじゃねぇよ!」


槍の軌道を横へ逸らす。


短槍が壁へ突き刺さった。


「しまっ――」


蓮司が肩からぶつかる。


ドン!


短槍の忍が壁へ叩きつけられた。


だが背後から手裏剣。


シュシュシュッ!


「蓮司!」


レイが短刀を投げた。


キィン!


一枚を弾く。


蓮司も残りを刀で防ぐ。


「助かった!」


「前を見ろ」


「分かってる!」


レイは壁に手をついた。


肩と脇腹。


二つの傷から血が滲んでいる。


蒼真が一瞬だけレイを見る。


「無理するな!」


「今は敵を見ろ」


鎖が飛ぶ。


蒼真は振り返った。


「っ!」


風影刀で弾く。


その瞬間――


カタカタカタッ!


風影刀が再び震えた。


「また……!」


今までで一番強い。


蒼真は通路の奥を見る。


「凛のいる場所……」


鎖鎌の忍の表情が変わる。


「その刀……」


蒼真が敵を見る。


「何だ?」


「まさか、それが……」


言葉が止まる。


「何を知ってる!」


蒼真が踏み込む。


だが鎖鎌の忍は後退した。


「お前たち!」


他の二人へ合図する。


三人が一斉に煙玉を投げた。


ボンッ!


黒煙が広がる。


「逃がすか!」


蓮司が追おうとする。


「待て!」


蒼真が止めた。


「凛が先だ!」


風を広げる。


黒煙を吹き飛ばす。


だが――


三人の夜叉衆は姿を消していた。


蓮司が舌打ちする。


「逃げやがった」


「追わなくていい」


蒼真は風影刀を鞘へ戻す。


「行くぞ」


レイが歩き出そうとする。


足が僅かにふらついた。


蓮司がすぐ肩を貸す。


「だから無理すんなって」


「歩ける」


「知ってる。でも貸す」


「……」


「文句あるか?」


「ない」


三人は通路の奥へ走った。


一方。


凛は男と向かい合ったままだった。


「さっき言ったよね」


「何をだ」


「風遁使いがいるって」


「ああ」


「どうして分かったの?」


男は石室の奥を見る。


「ここには昔から、風が集まる」


「風が?」


「だが先ほどから流れが変わった」


凛は黙って聞く。


「誰かが地下の風を読んでいる」


男が続ける。


「それも、かなり遠くからだ」


凛は少しだけ表情を緩めた。


「それなら蒼真だと思う」


「蒼真……」


男がその名を繰り返す。


その瞬間。


カタッ。


男の腰の刀が僅かに震えた。


凛が気づく。


「今……」


男が刀へ手を置く。


「……来たか」


「何?」


通路の向こうから足音が聞こえる。


凛が振り返った。


「凛!」


「蒼真!」


蒼真が走ってくる。


その後ろに蓮司。


負傷したレイもいる。


「無事だったか!」


「私は大丈夫! でもレイが……」


「問題ない」


「問題あるだろ」


蓮司が突っ込む。


凛が少し笑った。


だが――


蒼真の表情が変わる。


風影刀が震えている。


カタカタカタカタッ!


同時に。


石室にいる男の刀も震え始めた。


カタカタカタ……。


二本の刀。


蒼真と男が互いを見る。


「……誰だ?」


蒼真が風影刀へ手を置く。


男も自分の刀を押さえる。


「その刀をどこで手に入れた」


「先に名乗れ」


沈黙。


蓮司と凛が二人を見る。


レイも男の刀へ視線を向けた。


やがて男が口を開く。


「……名は、神谷宗玄」


蒼真の目が細くなる。


宗玄は風影刀を見つめた。


「その刀が本物なら――」


腰の刀をゆっくり抜く。


蒼真も反射的に構えた。


だが宗玄は襲ってこない。


刃を床へ向ける。


すると――


ゴォッ!


石室の空気が一気に動いた。


凛の髪が大きく揺れる。


蓮司が目を見開いた。


「風遁……?」


蒼真は違和感を覚える。


「違う……」


宗玄自身から風が生まれたわけではない。


石室を流れていた風が、刀へ集まっている。


蒼真の風影刀も反応する。


二本の刀の間を、風が行き来し始めた。


宗玄が静かに言った。


「やはりそうか」


「何がだ」


宗玄の視線が蒼真へ向く。


「お前の持つ刀――」


風がさらに強くなる。


「それは確かに、風影刀だ」


蒼真は風影刀を握る。


「お前は、この刀を知ってるのか?」


宗玄はすぐには答えなかった。


そして石室のさらに奥へ視線を向ける。


「話す前に確認する」


「何を?」


「お前が――」


宗玄の刀へ風が集まる。


「その刀を持つに値する忍かどうかだ」


蒼真の周囲を風が駆け抜けた。


第118話 完

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