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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第4章「夜叉衆暗躍編」
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第117話「地下深部」

暗い通路を、凛は一人で進んでいた。


足元には薄く水を流している。


「……こっちから風が来てる」


人質たちを送り出した道とは別方向。


地上へ向かっているのか、それとも地下の別の場所へ続いているのか。


まだ分からない。


ゴゴゴ……。


後方から崩落音が響く。


凛は振り返らずに進んだ。


「戻れないなら……進むしかない」


やがて通路が二つに分かれた。


「また分かれ道……」


凛はしゃがみ込み、左右へ水を流す。


右側の水は途中で止まった。


左側は――


「流れてる」


僅かに傾斜している。


さらに風も左側から吹いていた。


「こっちね」


凛は左へ進んだ。


その頃――


「凛はこの先だ」


蒼真が足を止めた。


蓮司は負傷したレイに肩を貸している。


「結構深くまで来たな」


「ああ」


レイが周囲を見る。


「今までの通路と造りが違う」


蒼真も気づいていた。


壁に夜叉衆の印がない。


黒い管もない。


増幅札もない。


「ここは夜叉衆が作った場所じゃないのか?」


蓮司が尋ねる。


「玄岳が言ってただろ」


蒼真は壁へ触れる。


「夜叉衆は元々あった地下の術式を利用したって」


「じゃあ、この辺は元からあった場所か」


「たぶんな」


レイが壁を見る。


「古い」


石壁には傷や欠けが多い。


長い年月が経っていることだけは分かる。


蓮司がレイを見る。


「歩けるか?」


「歩ける」


「無理すんなよ」


「してない」


「してるだろ」


レイは答えなかった。


蒼真が少し笑う。


「二人とも、今は凛が先だ」


「分かってるよ」


三人は再び進んだ。


だが――


蒼真が突然止まった。


「待て」


「どうした?」


「風が……」


風影刀へ手を伸ばす。


僅かに震えている。


カタ……。


カタカタ……。


蓮司が気づいた。


「また刀が反応してんのか?」


「ああ」


制御核の白い光を受けてから、風影刀の感覚が変わっている。


そして地下深くへ進むほど、その反応は強くなっていた。


「凛の方向と同じだ」


蒼真が呟く。


レイが顔を上げる。


「偶然?」


「分からない」


「また分からないか」


蓮司が苦笑する。


「仕方ないだろ」


その時。


シュッ!


蒼真が風影刀を抜いた。


キィン!


飛んできた苦無を弾く。


蓮司の表情が変わる。


「敵か!」


暗闇。


誰もいない。


レイが蓮司から離れようとする。


「俺も――」


「そのままでいい」


蒼真が止める。


「俺が見る」


蒼真は目を閉じた。


風を読む。


前方。


右。


左。


「……三人」


「分かるのか?」


「ああ」


暗闇の奥から声が響く。


「随分と感覚が鋭い」


三人の忍が姿を現した。


夜叉衆の黒装束。


だが、先ほど戦っていた忍たちとは違う。


一人は鎖鎌。


一人は短槍。


もう一人は大量の手裏剣を腰に備えている。


蓮司が刀を抜く。


「まだいたのかよ」


鎖鎌の忍が前へ出た。


「ここから先へは行かせない」


蒼真が聞く。


「この先に何がある?」


「答える必要はない」


「凛が先にいる」


「女の忍か」


蒼真の目つきが変わる。


「会ったのか?」


「いや」


鎖鎌の忍が構える。


「だが先へ進んだなら、いずれ行き止まりになる」


「……どういう意味だ」


返事の代わりに鎖が飛んできた。


「来るぞ!」


蒼真が風影刀で弾く。


ガキィン!


同時に手裏剣が飛ぶ。


シュシュシュッ!


蓮司が前へ出た。


「任せろ!」


刀で次々と弾く。


キン!


キィン!


だが短槍の忍が蓮司へ迫った。


「っ!」


ガキン!


槍と刀がぶつかる。


「蓮司!」


「こっちはいい!」


蓮司は槍の力を受け流す。


その間に蒼真が鎖鎌の忍へ向かう。


「風遁・風刃!」


風刃が走る。


鎖鎌の忍が跳ぶ。


「風遁か」


空中で印を結ぶ。


「土遁・岩壁!」


ドォン!


石壁が立ち上がり、風刃を受け止めた。


「土遁……!」


「武器だけだと思ったか?」


鎖が石壁の横から飛んでくる。


蒼真は風の動きを読む。


「そこ!」


身体を沈める。


鎖が頭上を通過。


そのまま踏み込む。


風影刀が鎖鎌の忍へ迫る。


ガキィン!


鎌で受け止められた。


「速いな」


「まだだ!」


蒼真が風を纏う。


その頃――


凛も足を止めていた。


目の前に巨大な石扉がある。


「行き止まり……?」


扉には古い紋様が刻まれている。


夜叉衆の印ではない。


凛は触れようとして――


「……待って」


水を足元へ流した。


水が扉の下へ入り込んでいく。


向こう側に空間がある。


「開くはず……」


周囲を見る。


取っ手はない。


仕掛けらしいものも見つからない。


凛が石扉を調べていると――


ドン。


向こう側から音がした。


凛の動きが止まる。


「……?」


ドン。


もう一度。


何かが扉の向こうにいる。


凛はゆっくり後退した。


両手に水を集める。


「誰……?」


返事はない。


代わりに。


ゴゴゴゴ……。


巨大な石扉が少しずつ動き始めた。


凛が構える。


「開く……!」


隙間から冷たい風が吹き出す。


そして暗闇の向こう。


何かの影が動いた。


一方――


蒼真の風影刀が激しく震えた。


カタカタカタカタッ!


「何だ!?」


蓮司が叫ぶ。


蒼真も驚いて刀を見る。


「急に反応が……!」


レイが通路の奥を見る。


「凛のいる方向だ」


蒼真の表情が変わる。


「まずい」


鎖鎌の忍が再び構える。


「余所見をするな」


蒼真は風影刀を握り締めた。


「悪いけど――」


周囲の風が一気に集まる。


「もう時間をかけてられない!」


凛の前では、石扉が完全に開こうとしていた。


暗闇。


冷たい風。


そして――


二つの目が開いた。


凛が水を構える。


「……誰?」


低い声が返ってきた。


「その水遁……」


一歩。


影が前へ出る。


「黒影衆の忍ではないな」


凛は警戒を解かない。


「あなたは?」


影は答えなかった。


ただ、開いた扉の奥から凛を見つめていた。


第117話 完

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