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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第4章「夜叉衆暗躍編」
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第116話「崩れる脱出路」

ドォン!


凛の水槍が、通路を塞ぐ巨大な岩へ突き刺さった。


亀裂が広がる。


だが――


「まだ……!」


岩は崩れない。


凛の後ろでは、人質たちが不安そうに身を寄せ合っていた。


「下がっていてください!」


凛が再び水を集める。


岩の隙間から僅かな風が吹いている。


この先に道がある。


「水遁・水槍!」


ドォン!


二撃目。


岩の中央に大きな亀裂が走った。


バキッ。


「もう一回……!」


その時だった。


ゴゴゴゴゴ……。


天井が揺れる。


凛が顔を上げた。


「まずい……!」


亀裂が天井へ伸びていく。


岩を壊せば、上まで崩れる可能性がある。


人質の一人が震えた声で尋ねた。


「どうするんですか……?」


凛は岩を見る。


壊すだけでは駄目。


「……少し待ってください」


水を床へ流す。


岩の下。


左右の壁。


天井。


水を細く広げ、隙間を探っていく。


「全部壊す必要はない……」


人が一人ずつ通れるだけの穴を作ればいい。


「ここ……」


凛が右下を見る。


岩と壁の間。


僅かな隙間。


「ここなら!」


水を一点へ集中させる。


「水遁・水槍!」


バシュッ!


水が岩の端を削る。


一撃。


二撃。


三撃。


少しずつ穴が広がっていく。


その頃――


レイは三人の忍と向かい合っていた。


炎遁。


雷遁。


土遁。


肩から流れる血が指先まで伝っている。


「……」


炎遁の忍が印を結ぶ。


「火遁・火球!」


火球が迫る。


レイは横へ跳ぶ。


ドォン!


背後の壁が炎に包まれる。


着地した瞬間。


「雷遁・雷走!」


雷遁の忍が一気に間合いを詰めた。


「っ!」


ガキィン!


短刀と苦無が激突する。


肩に痛みが走る。


その隙を土遁の忍は逃さない。


「土遁・土槍!」


地面から岩の槍が突き出した。


レイは身体を捻る。


ザッ!


完全には避けきれない。


脇腹の衣が裂け、血が滲んだ。


「……」


「限界だろ」


雷遁の忍が言う。


レイは二本の短刀を構え直した。


「まだ動ける」


「強がるな」


「強がりじゃない」


レイの視線が三人を捉える。


「凛たちが離れるまで――」


右足を引く。


「ここは通さない」


三人が同時に動いた。


レイも地面を蹴る。


キィン!


ガキィン!


火。


雷。


土。


三つの忍術が狭い通路で入り乱れる。


レイは敵を倒そうとはしない。


受ける。


かわす。


弾く。


時間を稼ぐ。


炎遁の忍が火球を放つ。


レイは雷遁の忍の腕を掴んだ。


「何っ!」


身体を入れ替える。


「!」


火球が雷遁の忍へ向かう。


「くっ!」


雷遁の忍が飛び退く。


連携が崩れる。


レイはその隙に土遁の忍へ踏み込んだ。


右の短刀で苦無を弾く。


左の短刀を首元寸前で止める。


「動くな」


土遁の忍が硬直する。


しかし――


レイの右肩から血が落ちた。


力が抜ける。


「……っ」


土遁の忍がそれを見逃さない。


「甘い!」


肘がレイの腹へ入る。


ドッ!


「ぐっ……!」


レイが吹き飛ばされた。


壁へ叩きつけられる。


二本の短刀のうち一本が床へ転がった。


カラン……。


雷遁の忍が近づく。


「終わりだ」


レイは片膝をついたまま顔を上げる。


その時――


ゴォッ!


通路の奥から風が吹いた。


三人の忍が振り返る。


「何だ?」


レイは僅かに目を細めた。


「……遅い」


「何?」


風が強くなる。


次の瞬間。


「風遁・風刃!」


風の刃が通路を走った。


「!」


三人が散開する。


ザァン!


壁に深い傷が入る。


その向こうから蒼真が走ってきた。


「レイ!」


続いて蓮司。


「無茶しすぎだ!」


レイは壁に手をつきながら立ち上がる。


「凛たちは先に行った」


「分かってる」


蒼真は三人の忍へ風影刀を向けた。


「ここは俺たちがやる」


蓮司がレイの落とした短刀を拾う。


「ほら」


レイへ投げる。


パシッ。


レイが受け取った。


「まだ戦えるか?」


「問題ない」


「その血で言っても説得力ねぇぞ」


「動ける」


蓮司が苦笑する。


「ほんと頑固だな」


三人の忍が再び構えた。


炎遁の忍が前へ出る。


「三人になったところで――」


その瞬間。


ゴゴゴゴゴ!


天井が激しく揺れた。


蒼真が上を見る。


「まずい!」


大きな亀裂。


「走れ!」


三人は戦闘を中断して走り出す。


敵の忍たちも反対方向へ跳ぶ。


直後――


ドォォォン!!


大量の岩が通路へ落下した。


土煙が広がる。


蒼真たちは辛うじて崩落を逃れた。


だが振り返ると――


「完全に塞がれたな」


蓮司が呟く。


敵の三人とは分断された。


レイが壁へ寄りかかる。


「結果的には助かった」


「お前は休め」


「まだ――」


「肩だけじゃないだろ」


蒼真がレイの脇腹を見る。


「血が出てる」


レイは黙った。


蓮司がレイの腕を自分の肩へ回す。


「ここからは肩貸す」


「一人で歩ける」


「いいから」


レイは少しだけ黙り――


「……分かった」


三人は凛を追う。


「蒼真」


「何だ?」


「道、分かるのか?」


蓮司が尋ねる。


蒼真は目を閉じた。


地下を流れる空気。


以前より鮮明に感じられる風。


「……分かる」


「凛の場所も?」


「水の匂いが風に混ざってる」


蒼真が目を開く。


「こっちだ」


三人が走る。


その頃――


凛はようやく岩の一部を崩していた。


「開いた!」


人一人が通れる程度の穴。


その向こうから、はっきりと風が吹いてくる。


「順番に!」


人質たちが一人ずつ穴を抜ける。


一人。


二人。


三人。


「急いでください!」


だが――


ゴゴゴゴゴ……。


また天井が揺れる。


凛が上を見る。


「早く!」


さらに人質が抜ける。


最後の一人が穴へ入った。


その瞬間。


バキッ!


頭上の岩が崩れた。


「危ない!」


凛が水を放つ。


「水遁・水壁!」


ドォン!


水壁が落石を受け止める。


「行って!」


最後の人質が穴を抜けた。


凛も続こうとする。


だが。


バキバキバキッ!


巨大な岩が落下した。


「っ!」


凛が後ろへ跳ぶ。


ドォォン!


穴が塞がれた。


「そんな……!」


人質たちは向こう側。


凛だけが取り残された。


「凛さん!」


岩の向こうから声が聞こえる。


「大丈夫です!」


凛が叫ぶ。


「そのまま先へ進んでください!」


「でも!」


「地上へ向かってください! 風が来る方向です!」


少しの沈黙。


やがて足音が遠ざかっていく。


凛は息を吐いた。


「これで……人質は大丈夫」


だが自分の前には巨大な岩壁。


後ろからも崩落音。


「さて……」


凛が周囲を見る。


「私はどうしようかな」


その時。


僅かな風が頬に触れた。


凛が振り向く。


別の通路。


暗闇の奥から風が吹いている。


「こっちにも道が……?」


凛は一人で暗い通路へ入っていく。


一方。


蒼真が突然足を止めた。


「……?」


蓮司も止まる。


「どうした?」


蒼真は風を読む。


凛の水の気配。


それが途中で二つに分かれている。


一方は地上へ。


もう一方は――


地下のさらに奥。


蒼真の表情が変わる。


「凛が……」


「凛がどうした?」


「人質と別れた」


レイが顔を上げる。


蒼真は暗い通路を見る。


「凛だけ、別の道にいる」


蓮司が刀を握る。


「じゃあ追うぞ!」


「当然だ」


三人は方向を変えた。


さらに地下深くへ。


凛を追って。


その先に何があるのか。


まだ誰も知らなかった。


第116話 完

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