第115話「休戦終了」
バチッ。
玄岳の右腕を黒雷が走った。
その隣では、獅堂が両腕の鉤爪を構えている。
蒼真は風影刀を握り直した。
「本当にまたやる気か?」
「当然だ」
玄岳の視線は揺れない。
「制御核の異変によって一時的に戦闘を止めただけだ」
蓮司が刀を肩に乗せる。
「こっちは人質を助けたばっかなんだけどな」
「それはこちらには関係ない」
「相変わらずだな」
凛は人質たちの前に立っていた。
誘爆印は完全に消えている。
だが地下迷宮の崩落は止まっていない。
天井から小さな石が落ち続けていた。
レイが周囲を見る。
「長くはいられない」
蒼真も頷く。
「目的は敵を倒すことじゃない」
「地上へ戻ることだな」
蓮司が答える。
「そうだ」
蒼真は玄岳を見る。
「そこを通してもらう」
「断る」
「なら――」
風が蒼真の足元へ集まる。
「突破する!」
蒼真が消えた。
「風遁・風纏!」
一気に玄岳へ迫る。
玄岳も踏み込んだ。
「黒雷遁・黒雷走!」
風と黒雷。
二人が激突する。
ガキィン!
風影刀と黒雷を纏った腕がぶつかった。
「ぐっ!」
蒼真の腕が痺れる。
だが玄岳も顔をしかめた。
「……速くなった?」
先ほどまでとは違う。
蒼真自身も感じていた。
風の動きがはっきり分かる。
玄岳が次にどこへ踏み込むのか。
その直前に起こる空気の乱れまで感じ取れる。
玄岳の左拳が動く。
蒼真は半歩下がった。
ブンッ!
拳が空を切る。
「……!」
玄岳が目を見開く。
蒼真は風影刀を返した。
ザッ!
玄岳の胸元の衣が裂ける。
玄岳が大きく後退した。
「今のは……」
蒼真自身も風影刀を見る。
「さっきより……風が読める」
だが考えている暇はない。
「余所見してんじゃねぇ!」
獅堂が横から飛び込む。
巨大な鉤爪が蒼真へ迫った。
その間に蓮司が割り込む。
ガキィィン!
刀と鉤爪が激突した。
「お前の相手は俺だ!」
「力比べか?」
「違う!」
獅堂が押し込む。
蓮司は真正面から耐えない。
刀の角度を変える。
「その力――」
鉤爪を横へ滑らせる。
「借りるぞ!」
獅堂の身体が前へ流れた。
「なにっ!」
蓮司はその勢いを利用して足を払う。
獅堂が片膝をつく。
「ちっ!」
「前より力任せじゃなくなっただろ?」
「面白ぇ!」
獅堂が笑いながら立ち上がる。
再び鉤爪を構えた。
「なら付き合ってやる!」
二人が激突する。
その後方。
凛は人質たちへ振り返った。
「ここから動きます!」
「え……?」
「今なら印はありません。出口まで走れます」
人質の一人が不安そうに周囲を見る。
「でも……あの人たちは……」
「大丈夫です」
凛は水を足元へ広げた。
「私たちが守ります」
その時。
「火遁・火球!」
炎遁の忍が再び動いた。
火球が人質へ飛ぶ。
凛が振り返る。
「水遁・水壁!」
ジュウウウッ!
水と炎が衝突する。
大量の蒸気。
炎遁の忍が煙の中から苦無を投げた。
シュッ!
だが――
キィン!
二本の短刀が苦無を弾く。
レイだった。
「凛」
「うん」
「人質を連れて行け」
「レイは?」
「ここを止める」
雷遁の忍も現れる。
さらに土遁の忍。
三人がレイの前に並んだ。
凛が一瞬迷う。
「三人も……」
「問題ない」
レイは二本の短刀を構える。
肩からはまだ血が流れている。
「長く戦う必要はない」
凛はその言葉の意味を理解した。
「……分かった」
人質たちへ振り返る。
「行きます!」
凛が走り出す。
人質たちも続いた。
炎遁の忍が追おうとする。
「逃がすな!」
しかし――
レイが目の前に現れた。
「行かせない」
右の短刀。
左の短刀。
二本が交差する。
ガキィン!
炎遁の忍の苦無を弾く。
雷遁の忍が横から踏み込んだ。
「雷遁・雷刃!」
レイは身体を沈める。
雷刃が頭上を通過する。
そのまま足を払う。
「ぐっ!」
土遁の忍が印を結ぶ。
「土遁・土槍!」
地面から槍が突き出す。
レイは壁を蹴ってかわした。
肩に激痛が走る。
「……っ!」
着地が僅かに乱れる。
三人が同時に動いた。
「逃がすな!」
レイの目が鋭くなる。
「……来い」
一方。
凛は人質たちを連れて通路を進んでいた。
「こっちです!」
地下迷宮は動きを止めている。
だが崩落によって道が塞がれている場所もある。
「前が……!」
巨大な岩が通路を塞いでいた。
凛が足を止める。
「こんな時に……」
後ろには人質たち。
戻るわけにはいかない。
凛は水を集める。
「水遁・水槍!」
水の槍が岩へ激突する。
ドンッ!
亀裂が入る。
だが壊れない。
「もう一度!」
水を集める。
その時。
凛の耳に風の音が届いた。
「……風?」
岩の僅かな隙間から空気が流れている。
地上へ続いている。
「この向こう……!」
凛は再び構えた。
「絶対に通す!」
地下中央では、蒼真と玄岳の戦いが激しさを増していた。
バチッ!
ガキィン!
玄岳が黒雷を纏って連撃を放つ。
蒼真は風の流れを読み、かわしていく。
右。
左。
後ろ。
玄岳の拳が当たらない。
「なぜだ……」
玄岳の表情が変わる。
「先ほどまでとは違う」
蒼真も気づいている。
制御核から現れた白い光。
風影刀へ向かった光。
あれ以降――
風が以前より鮮明に感じられる。
だが。
「今はどうでもいい!」
蒼真が踏み込む。
「風遁・風刃!」
玄岳が黒雷で受ける。
バシュッ!
二人が弾かれる。
玄岳が着地。
蒼真も着地する。
その瞬間。
「蒼真!」
蓮司の声。
獅堂の鉤爪を受けながら叫んでいる。
「凛たちが先に行った!」
「分かった!」
「俺たちも抜けるぞ!」
蒼真は玄岳を見る。
「ここで決着をつける必要はない」
玄岳が黒雷を纏う。
「逃がすと思うか?」
「逃げるんじゃない」
蒼真の周囲を風が渦巻く。
「守るために戻るんだ」
玄岳が地面を蹴った。
「黒雷遁・黒雷走!」
蒼真も踏み込む。
「風遁・風纏!」
風と黒雷が正面からぶつかる。
その瞬間――
ドォォォン!
地下迷宮の奥から巨大な崩落音が響いた。
全員の動きが止まる。
蓮司が振り返る。
「今の……」
蒼真の顔色が変わった。
風が伝えてくる。
通路の奥。
凛たちが向かった方向。
大量の空気が一気に動いた。
「凛……!」
蒼真が玄岳との戦いを放棄し、走り出す。
「待て!」
玄岳が追おうとする。
だが――
バキバキバキッ!
二人の間に天井が崩れ落ちた。
ドォン!
巨大な岩が通路を塞ぐ。
「蒼真!」
蓮司も走る。
獅堂は追おうとしたが、さらに崩落が起きる。
蒼真と蓮司。
玄岳と獅堂。
二組が完全に分断された。
玄岳は崩れた岩壁を睨む。
「……」
獅堂が鉤爪を下ろす。
「追うか?」
玄岳はしばらく答えなかった。
その向こうでは――
蒼真が走っていた。
「凛!」
蓮司も続く。
「レイもまだ残ってるぞ!」
「分かってる!」
地下迷宮の崩壊が再び始まった。
そしてその先。
凛と人質たちがいる通路にも――
新たな亀裂が走っていた。
第115話 完




