第112話「白い光」
ドクン。
制御核の奥から響いた音に、地下にいる全員の動きが一瞬止まった。
『00:04:58』
『00:04:57』
時間だけが減っていく。
制御核の亀裂から溢れる白い光は、次第に強くなっていた。
蒼真は玄岳を見る。
「説明しろ」
「……」
「お前も知らないのか?」
玄岳は答えない。
獅堂が鉤爪を下ろした。
「玄岳。俺にも聞かされてねぇぞ」
「当然だ」
「何?」
「この状態は想定されていない」
獅堂の顔から笑みが消える。
「じゃあ、あの白い光は何だ」
玄岳は制御核を睨んだ。
「分からない」
「は?」
「この装置は俺が作ったものではない」
蒼真の眉が動く。
玄岳が続ける。
「俺たちは、この地下に残されていた術式を利用しただけだ」
「……残されていた?」
「古い術式を起動し、夜叉衆の術式を重ねた」
凛が人質を守りながら制御核を見る。
「じゃあ……」
水面に映る白い光。
黒い力を押し返す流れ。
「白い光は、夜叉衆の術じゃない」
玄岳は答えなかった。
だが、その沈黙で十分だった。
ドクン。
再び鼓動。
ピシッ!
制御核の亀裂が広がる。
白い光が一気に噴き出した。
「っ!」
蒼真たちが腕で目を覆う。
その光が地下を走る黒い管へ触れた。
バチッ!
「何だ!?」
蓮司の近くにあった管から黒い光が逆流する。
一本。
二本。
さらに奥の管まで。
レイが目を細めた。
「黒い力が……戻っている」
「制御核から?」
「違う」
レイは白い光を見る。
「押し返されてる」
玄岳が印を結ぶ。
「まずい!」
「黒雷遁・黒雷壁!」
制御核の周囲に黒雷の壁が広がる。
白い光がぶつかった。
バチバチバチッ!
「ぐっ……!」
玄岳の腕が震える。
蒼真が驚く。
「お前……何してる?」
「これ以上広げさせない!」
「さっきまで制御核を守ってたお前が?」
「状況が変わった!」
玄岳が叫ぶ。
「このままでは、誘爆印まで制御不能になる!」
凛が人質を見る。
首元の誘爆印。
赤。
白。
赤。
白。
二つの光が交互に点滅している。
「印が不安定になってる……!」
人質の一人が震える。
「わ、私たちは……」
凛がすぐに振り返った。
「大丈夫です。動かないでください」
炎遁の忍も攻撃を止め、制御核を見ていた。
「玄岳様……」
「お前たちは持ち場を離れるな!」
「しかし!」
「命令だ!」
その瞬間だった。
ドォン!
制御核から白い衝撃波が放たれる。
「伏せろ!」
蒼真が風を広げた。
「風遁・風壁!」
風の壁が仲間と人質の前に展開される。
白い衝撃波がぶつかる。
ズドォォン!
「ぐっ……!」
蒼真の足が滑る。
凛も水壁を重ねる。
「水遁・水壁!」
風と水。
二つの防御が人質を包む。
蓮司は刀を地面へ突き立てた。
レイも低く身構える。
獅堂は両腕の鉤爪を床へ食い込ませた。
「なんつう力だ……!」
玄岳の黒雷壁にも亀裂が走る。
そして――
バァン!
黒雷壁が砕けた。
玄岳が吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「玄岳!」
獅堂が叫ぶ。
蒼真はすぐに制御核を見る。
白い光はまだ止まっていない。
だが――
「……待て」
風の流れが変わった。
蒼真が目を閉じる。
「どうした?」
蓮司が聞く。
「この光……」
蒼真は制御核へ一歩近づいた。
「俺たちを狙ってない」
「何?」
「さっきから全部、黒い力がある場所に流れてる」
凛も気づく。
「じゃあ……白い光は……」
「夜叉衆の術式だけを押し返してる?」
レイが黒い管を見る。
管を流れていた黒い光が急速に弱まっていく。
『00:03:51』
『00:03:50』
時間は止まらない。
だが数字の減り方とは別に、誘爆印の赤い光が僅かに薄くなっていた。
凛が声を上げる。
「蒼真!」
「分かってる!」
白い光が誘爆印に触れるたび、赤色が薄くなる。
「これなら……誘爆印を止められるかもしれない!」
玄岳が身体を起こす。
「甘い」
「何?」
「白い光が完全に印へ流れれば、確かに誘爆印は消えるかもしれない」
玄岳は口元の血を拭った。
「だが制御核が先に壊れればどうなるか、誰にも分からない」
蒼真が制御核を見る。
亀裂はさらに広がっている。
ピシッ。
ピシピシッ。
このままでは長く持たない。
「だったら……」
蒼真が風影刀を下ろした。
「壊さずに、白い光だけを誘爆印へ送る」
蓮司が振り返る。
「そんなことできんのか?」
「分からない」
「またそれかよ!」
「でもやるしかない!」
蒼真は制御核へ近づく。
玄岳が立ち上がった。
「何をする気だ」
「風で流れを作る」
「馬鹿な。あれは普通の風では――」
「分かってる!」
蒼真が風影刀を握る。
「だから、直接触らない」
制御核の周囲を風が回り始める。
「風遁・風環!」
白い光の周囲に渦が生まれる。
蒼真は光そのものではなく、光が流れる周囲の空気を動かしていく。
少しずつ。
慎重に。
「凛!」
「うん!」
凛も理解する。
水を床へ流した。
白い光が水面に反射する。
「水で道を作る!」
細い水路が制御核から人質へ伸びる。
レイが周囲を見る。
「敵は?」
蓮司が刀を構えた。
「今だけでも止める」
三人の夜叉衆の忍も動けずにいた。
獅堂が鉤爪を構える。
「俺はどうすりゃいい?」
玄岳は数秒黙った。
そして――
「……待て」
獅堂が眉をひそめる。
「いいのか?」
「誘爆印が暴走すれば、我々も地下から出られない」
蒼真が玄岳を見る。
「今だけ休戦ってことか?」
「勘違いするな」
黒雷を纏った玄岳が制御核へ向き直る。
「お前たちを助けるわけではない」
「十分だ」
蒼真は再び集中する。
風。
水。
白い光。
三つが少しずつ一本の流れになっていく。
白い光が人質へ伸びる。
誘爆印が反応した。
バチッ!
「うっ……!」
人質が膝をつく。
「動かないで!」
凛が支える。
白い光が首元へ触れる。
真紅の誘爆印が激しく点滅する。
『00:02:59』
三分を切った。
そして――
誘爆印の一部が白く変わった。
「いける!」
蓮司が叫ぶ。
だが同時に。
バキッ!
制御核から大きな破裂音が響いた。
蒼真が振り向く。
亀裂が中央まで達している。
「まずい……!」
玄岳が叫んだ。
「制御核が持たない!」
残り三分。
誘爆印の解除が先か。
制御核の崩壊が先か。
蒼真は風影刀を強く握った。
「絶対に間に合わせる!」
地下迷宮を、白い光が駆け抜けた。
第112話 完




