第111話「制御核の亀裂」
『00:06:58』
『00:06:57』
制御核に走った亀裂。
その隙間から、白い光が漏れ続けていた。
凛が人質を庇いながら目を細める。
「黒い光じゃない……」
蓮司も一瞬だけ制御核を見る。
「何なんだ、あれ?」
レイは答えず、白い光の動きを見ていた。
一方――
蒼真に考える余裕はない。
「黒雷遁・黒雷走!」
玄岳が正面から迫る。
「煙遁・黒煙爪!」
獅堂は横から鉤爪を振るう。
「風遁・風纏!」
蒼真が風を纏った。
黒雷の拳をかわす。
直後に身体を沈め、獅堂の鉤爪を避ける。
ザンッ!
背後の石壁が深く抉られた。
「まだだ!」
獅堂がもう片方の鉤爪を振り抜く。
蒼真は風影刀で受けた。
ガキィン!
「ぐっ……!」
重い。
腕が痺れる。
その隙を玄岳は逃さない。
「黒雷遁・黒雷掌!」
掌から黒雷が放たれる。
蒼真は風を足元へ集中させた。
「風遁・風圧!」
ドォン!
風圧で身体を後方へ飛ばす。
黒雷が胸元を掠めた。
バチッ!
「っ……!」
着地した蒼真の身体が僅かに揺れる。
「二人同時は……さすがにきついな」
獅堂が笑った。
「もう終わりか?」
「まさか」
蒼真は風影刀を構え直す。
「まだ六分以上ある」
玄岳が目を細めた。
「その六分が長いと思うか?」
「十分だ」
蒼真は仲間たちを見ない。
それでも風で位置は分かる。
蓮司。
レイ。
凛。
人質。
「俺が六分耐えればいい」
玄岳の黒雷が強くなる。
「できるものならな」
二人が再び踏み込んだ。
その頃。
蓮司は壁へ走っていた。
「蒼真が言ってた三本……この辺だな!」
土遁の忍が追う。
「行かせるか!」
「土遁・土槍!」
壁から岩の槍が突き出す。
蓮司は刀を横に構えた。
真正面から受けない。
槍の側面へ刃を当てる。
「ふっ!」
力の方向を変える。
岩槍が横へ逸れ――
ドォン!
そのまま壁へ突き刺さった。
石が崩れる。
その奥から黒い管が姿を現した。
「一つ!」
土遁の忍が顔色を変える。
「貴様!」
「ありがとな!」
蓮司が踏み込む。
敵が拳を振る。
蓮司は身体をずらし、腕へ刀の腹を添えた。
「その力も借りるぞ!」
勢いをそのまま流す。
土遁の忍の拳が黒い管へ叩き込まれた。
バキッ!
管に亀裂が走る。
黒い光が乱れた。
『00:06:11』
制御核の赤い光が僅かに弱くなる。
「次!」
蓮司が走り出した。
反対側。
レイは雷遁の忍と向かい合っている。
肩の傷はさらに開いていた。
血が腕を伝っている。
敵が苦無を構えた。
「その腕で、まだ戦うか?」
「腕は動く」
「なら折る」
「雷遁・雷走!」
敵が消える。
レイは動かない。
雷の音。
足音。
僅かな殺気。
「右」
ガキィン!
短刀で苦無を受け止める。
そのまま左の短刀を振る。
敵が後退した。
レイは追わない。
視線は天井へ向いていた。
「……上に一本」
蒼真が見つけた管。
天井を走る黒い線。
だが高さがある。
レイが二本の短刀を構えた。
雷遁の忍が笑う。
「届かない」
「自分では」
「何?」
レイが敵を見る。
「お前なら届く」
雷遁の忍の表情が変わった。
「まさか――」
「来い」
レイが僅かに構えを下げる。
挑発。
敵の額に青筋が浮かぶ。
「雷遁・雷刃!」
雷を纏った苦無が振り上げられる。
レイは走った。
敵も踏み込む。
「雷遁・雷走!」
高速の突進。
その瞬間。
レイは壁を蹴った。
身体を横へ回転させる。
敵の苦無が空を切り――
そのまま天井へ向いた。
「……!」
「そこ」
レイが敵の手首を蹴り上げる。
バチィィン!
雷刃が天井の管へ突き刺さった。
黒い光が逆流する。
「ぐあっ!」
雷遁の忍まで感電し、地面へ落ちる。
レイも着地に失敗し、片膝をついた。
「……っ」
肩を押さえる。
それでも顔を上げた。
「一つ、止めた」
『00:05:37』
残り時間が減っていく。
その時だった。
カチッ。
また音がした。
制御核の亀裂が広がる。
ピシッ。
ピシピシッ。
白い光が強くなる。
凛が気づいた。
「待って……」
人質を守りながら制御核を見る。
白い光は漏れているだけではない。
赤い光を押し返している。
「もしかして……」
凛は床へ水を流した。
薄い水が制御核の周囲へ広がっていく。
水面に光が反射する。
赤。
黒。
そして白。
凛は流れを観察した。
「違う……」
炎遁の忍が迫る。
「何をしている!」
「火遁・炎弾!」
複数の炎弾が飛ぶ。
凛は片手を向ける。
「水遁・水壁!」
ジュウウウッ!
水蒸気が広がる。
凛は防ぎながら叫んだ。
「蒼真!」
激しい攻防の中、蒼真が反応する。
「何だ!」
「その白い光!」
玄岳の拳をかわす。
「白い光がどうした!」
「制御核を壊してるんじゃない!」
凛が水面を見る。
白い光が黒い流れを押し返している。
「中から黒い力を押し出してる!」
玄岳の動きが一瞬止まった。
蒼真はそれを見逃さなかった。
「玄岳?」
「……」
「お前、知ってるな?」
玄岳は答えない。
代わりに黒雷を放つ。
「黒雷遁・黒雷槍!」
鋭い黒雷が飛ぶ。
蒼真は風影刀を振る。
「風遁・風刃!」
二つの術が激突する。
バァン!
蒼真は爆風の中から踏み込んだ。
「答えろ!」
ガキィン!
風影刀と玄岳の腕がぶつかる。
「制御核の中に何がある!」
玄岳が歯を食いしばる。
「お前には関係ない」
「だったら何で焦ってる!」
「……!」
蒼真の蹴りが玄岳の腹へ入る。
ドッ!
玄岳が後退する。
獅堂が横から襲いかかる。
「余所見すんな!」
鉤爪が迫る。
蒼真は風影刀で受けた。
ガキィン!
だが獅堂の力に押される。
「ぐっ……!」
「一人で二人を止めるんじゃなかったのか!」
「止めてるだろ……!」
蒼真の風が強まる。
「今もな!」
風が爆発する。
ドォン!
獅堂が数歩押し戻された。
その瞬間。
ピシィッ!
制御核の亀裂が大きく広がった。
白い光が地下空間を照らす。
そして――
人質の首元。
真紅だった誘爆印が、一瞬だけ白く点滅した。
凛の目が見開かれる。
「誘爆印まで……!」
玄岳が初めて大きく表情を変えた。
「まずい……!」
蒼真が振り向く。
「何がまずい!」
玄岳は制御核を睨む。
「その光を止めろ!」
「何?」
「今すぐ止めろ!」
獅堂も玄岳を見る。
「おい。どういうことだ?」
「予定と違う」
玄岳の額から汗が落ちる。
「制御核の内側が……目覚め始めている」
再び亀裂が走った。
ピシッ。
白い光がさらに強くなる。
『00:04:59』
残り五分。
だが蒼真たちの視線は、もう数字だけには向いていなかった。
制御核の中から――
ドクン。
まるで鼓動のような音が響いた。
第111話 完




