第110話「十分間の攻防」
『00:09:58』
『00:09:57』
赤い数字が、一秒ずつ減っていく。
制御核の光は消えていない。
人質の首元に刻まれた誘爆印も真紅に染まったままだ。
蒼真は玄岳から目を離さず叫んだ。
「地下にある管を全部探す!」
「全部って、何本あるんだよ!」
蓮司が土遁の忍と刀を打ち合わせながら返す。
「分からない!」
「分からねぇのかよ!」
「だから探すんだ!」
玄岳が黒雷を纏う。
「話している余裕があるのか?」
バチッ!
黒雷が走った。
蒼真は風影刀を横に構える。
ガキィン!
衝撃が腕まで突き抜けた。
「ぐっ!」
玄岳は止まらない。
「黒雷遁・雷鳴煙!」
黒い雷を帯びた煙が周囲へ広がる。
視界が一気に悪くなる。
蒼真は目を細めた。
「また煙か……!」
その奥では、獅堂の黒煙も広がっている。
黒雷の煙。
獅堂の黒煙。
二つが地下空間を覆っていく。
「見えない!」
凛は人質たちの前から動けない。
炎遁の忍が煙の中から印を結んだ。
「火遁・火走!」
地面を這う炎が人質へ向かう。
「水遁・水流!」
凛が水を放つ。
ジュウウウッ!
炎が消え、大量の蒸気が立ち上った。
だが――
「上だ!」
人質の一人が叫ぶ。
凛が顔を上げる。
獅堂が天井近くまで跳んでいた。
「守ってみろ!」
両腕の鉤爪が振り下ろされる。
「水遁・水壁!」
ドォン!
鉤爪と水壁が激突する。
「くっ……!」
凛の両足が石床を滑る。
獅堂が力任せに押し込む。
「さっきより弱くなってるぞ!」
「ずっと……守ってるんだから……!」
凛の額から汗が落ちる。
「それでも――」
水壁が膨れ上がる。
「退かない!」
水圧が一気に上がった。
「なにっ!」
獅堂が押し返される。
その瞬間。
凛が片手を前へ突き出す。
「水遁・水槍!」
鋭い水の槍が飛ぶ。
獅堂は鉤爪を交差させた。
バシュッ!
水槍が鉤爪にぶつかり、獅堂の身体を数歩押し戻した。
「へぇ……」
獅堂が笑う。
「守るだけじゃねぇか」
凛は息を切らしながら構え直した。
「当たり前でしょ」
その頃。
レイは雷遁の忍と激しく刃を交えていた。
キィン!
バチッ!
キィン!
雷を纏った苦無と二本の短刀が何度もぶつかる。
肩の傷から血が流れる。
それでもレイの動きは止まらない。
敵が踏み込む。
「雷遁・雷走!」
一瞬で間合いが縮まる。
レイは右の短刀で受ける。
左の短刀を相手の脇へ滑らせた。
ザッ!
「ぐっ!」
敵の身体が僅かに崩れる。
レイは追撃しない。
すぐに床を見る。
黒い光。
僅かに石の隙間を走っている。
「……見つけた」
敵が振り返る。
「何?」
レイは床へ短刀を突き立てた。
ガンッ!
石床が割れる。
その下から、細い黒い管が現れた。
「二本目」
雷遁の忍が目を見開く。
「させるか!」
雷を纏った苦無が振り下ろされる。
レイは管を切らず、横へ転がった。
「逃げたか!」
「違う」
レイは立ち上がる。
「切るだけでは危険だ」
「何?」
「流れを変える」
二本の短刀を逆手に持つ。
敵が再び突っ込んできた。
レイはぎりぎりまで動かない。
「雷遁・雷刃!」
苦無が迫る。
その瞬間。
レイは身体をずらした。
敵の苦無が――
ガキィン!
黒い管へ突き刺さる。
「……!」
雷が管へ流れ込んだ。
バチバチバチッ!
黒い光が逆流する。
制御核が大きく明滅した。
『00:08:21』
『00:08:20』
蒼真が振り返る。
「レイ!」
「一本、流れを乱した」
「そのまま探してくれ!」
「了解」
蓮司も土遁の忍と向かい合っていた。
「だったら俺もやる!」
「させると思うか!」
敵が両手を地面につける。
「土遁・岩柱!」
ドドドドッ!
巨大な岩柱が連続して突き上がる。
蓮司は走った。
右へ。
左へ。
岩柱をかわしながら、地面の黒い光を探す。
「どこだ……!」
また岩柱が突き上がる。
「そこか!」
蓮司が跳んだ。
岩柱の側面に、黒い管が露出している。
土遁の忍自身が地面を隆起させたことで、隠されていた管まで持ち上がっていた。
蓮司が笑う。
「自分で出してくれて助かったぜ!」
「しまっ――」
「遅い!」
蓮司の刀が走る。
ガキィン!
管に亀裂が入った。
黒い光が弱まる。
制御核が再び明滅した。
『00:07:42』
凛が数字を見る。
「まだ七分以上……!」
「いや」
蒼真は玄岳の攻撃をかわしながら答えた。
「時間だけ見ちゃ駄目だ!」
「どういうこと?」
「制御核の光が弱くなってる!」
玄岳の黒雷が蒼真の頬を掠める。
「余所見をするな!」
蒼真は風影刀を振る。
「風遁・風刃!」
玄岳が黒雷で弾く。
その衝撃で空気が大きく乱れた。
蒼真は目を閉じる。
「……」
風。
黒煙。
熱。
水蒸気。
仲間の動き。
敵の動き。
そして地下を走る僅かな空気。
その流れの中に、不自然な場所がある。
風が避けて通る場所。
石壁の内部。
蒼真の目が開いた。
「見つけた」
玄岳の表情が変わる。
「何を?」
「管だ」
蒼真が左側の壁を見る。
「壁の中に三本」
続いて床。
「床下に二本」
天井。
「上に……一本」
蓮司が驚く。
「そんなにあんのかよ!」
「少なくとも六本!」
玄岳が動いた。
「それ以上は言わせない!」
「黒雷遁・黒雷走!」
一瞬で蒼真へ迫る。
だが――
ガキィン!
横から鉤爪が飛び込んだ。
「……!」
蒼真が後退する。
獅堂だった。
玄岳と獅堂。
二人が並ぶ。
「面倒な風使いだな」
獅堂が鉤爪を鳴らす。
玄岳は黒雷を纏う。
「蒼真」
「何だ」
「ここから先は、私たち二人が相手だ」
黒雷と黒煙が同時に広がった。
蒼真は風影刀を握り直す。
「二人がかりか」
「怖いか?」
獅堂が笑う。
蒼真も構える。
「ちょうどいい」
風が足元を渦巻く。
「二人とも俺が引きつける」
蓮司が叫ぶ。
「おい! 一人じゃ――」
「その間に管を止めろ!」
蒼真は振り返らない。
「俺たちの目的は、こいつらを倒すことじゃない!」
蓮司が黙る。
レイが短く答えた。
「分かった」
凛も頷く。
「任せて」
蒼真の前で、玄岳の黒雷が強くなる。
獅堂の黒煙も地下を覆っていく。
『00:06:59』
残り七分を切った。
玄岳が消える。
獅堂も同時に走る。
「来い!」
蒼真が風を解き放った。
黒雷。
黒煙。
そして風。
三つの力が激突する。
ドォォォン!
その衝撃の中――
制御核の奥で、これまでとは違う音が鳴った。
カチッ。
凛が振り向く。
「……今の音、何?」
制御核の表面に一本の亀裂が入る。
その亀裂から――
黒い光ではなく、白い光が漏れ出していた。
第110話 完




