第108話「増援の忍」
地下迷宮が揺れ続けていた。
ゴゴゴゴゴ……。
壁の奥から浮かび上がった黒い術式が、次々と通路へ広がっていく。
蒼真は風影刀を構え、玄岳と向かい合っていた。
その背後では、凛が迫り来る石壁を水壁で押し返している。
「くっ……重い!」
水壁が軋む。
人質たちはその後ろで身を寄せ合っていた。
「凛、まだ持つか!」
「まだ……大丈夫!」
一方、蓮司とレイは黒い管を挟んでいた。
管の中を流れていた黒い光は弱くなっている。
だが、完全には止まっていない。
「まだ流れてる」
レイが短刀を抜き直す。
「この管だけじゃない」
蓮司が周囲を見る。
「他にもあるってことか?」
「おそらく」
その瞬間。
シュッ!
二人の頭上から苦無が飛んできた。
「!」
蓮司が刀で弾く。
キィン!
「来たぞ」
レイが短刀を構える。
通路の奥から足音が聞こえた。
一つ。
二つ。
三つ。
そして――
十人近い黒装束の忍が姿を現した。
全員が夜叉衆の印を身につけている。
その先頭に立つ忍が手を上げた。
「第二段階に入った」
黒装束の忍たちが一斉に構える。
「侵入者を排除する」
蓮司が刀を握る。
「また増えたのかよ……」
レイは二本の短刀を低く構えた。
「数は問題じゃない」
「だな」
二人が同時に踏み込んだ。
「行くぞ!」
敵の忍が印を結ぶ。
「火遁・火矢!」
無数の火の矢が飛んでくる。
蓮司が前へ出た。
「任せろ!」
刀を振る。
火矢の軌道を次々と逸らしていく。
しかし――
「水遁・水弾!」
横から水弾が飛んできた。
蓮司が横へ跳ぶ。
ドンッ!
地面が弾ける。
「火だけじゃないのか!」
敵は複数の属性を使っていた。
別の忍が印を結ぶ。
「土遁・土壁!」
ドォン!
巨大な土壁が蓮司とレイを分断する。
「レイ!」
「問題ない」
レイは壁へ向かって走った。
だが壁の向こうから敵が飛び出してくる。
「雷遁・雷刃!」
雷を纏った苦無が振り下ろされた。
レイは右の短刀で受ける。
バチィッ!
「……!」
痺れが腕へ伝わる。
左の短刀で相手の腕を狙う。
敵は身体を捻ってかわした。
「速いな」
「お互い様だ」
レイの目が鋭くなる。
一方――
蒼真と玄岳の戦いも続いていた。
玄岳が黒雷を纏って突っ込む。
「黒雷遁・黒雷走!」
「風遁・風纏!」
蒼真も風を纏い、迎え撃つ。
二人の姿が一瞬で交差した。
ドンッ!
蒼真の肩に拳が入る。
同時に風影刀が玄岳の脇腹を掠める。
二人とも距離を取った。
「……やはり速い」
玄岳が傷口を押さえる。
蒼真は肩を回した。
「お前もな」
「ならば、さらに上げる」
黒雷が玄岳の身体を覆っていく。
バチバチバチッ!
蒼真は風の流れを読む。
黒雷が動くたび、空気が僅かに乱れる。
「見える……」
「何?」
「お前の動きが」
蒼真は風影刀を構えた。
玄岳が消える。
「黒雷遁・瞬雷走!」
一瞬で蒼真の背後へ回る。
だが――
蒼真は振り向かない。
風影刀を後ろへ振る。
キィン!
黒雷を纏った玄岳の腕を受け止めた。
「なに……!」
「風が教えてくれる」
蒼真は刀を押し込む。
「お前がどこにいるかをな!」
玄岳が後退する。
しかし、その直後。
ゴゴゴゴゴ……。
地下迷宮がまた動いた。
蒼真たちの足元が傾く。
「くっ!」
玄岳もバランスを崩した。
その瞬間――
「蒼真!」
凛の声が響いた。
振り向くと、水壁が限界を迎えていた。
「もう持たない!」
「凛!」
蒼真が駆け出そうとする。
だが玄岳が立ちはだかる。
「まだ終わっていない」
「仲間を優先する!」
「それでは、この戦いには勝てない」
玄岳が黒雷を放つ。
蒼真は風で受け流した。
「仲間を見捨てて勝つくらいなら――」
風影刀を強く握る。
「俺は勝たなくていい!」
蒼真の風が一気に膨れ上がる。
「風遁・風環!」
巨大な風の輪が玄岳を押し飛ばす。
「ぐっ……!」
玄岳の身体が壁へ叩きつけられた。
蒼真は凛の元へ走る。
「凛!」
「蒼真!」
水壁が崩れかける。
蒼真は風を地面へ叩きつけた。
「風遁・風圧!」
風圧で迫る石壁の動きを一瞬だけ止める。
「今だ!」
凛が水を操る。
「水遁・水流陣!」
大量の水が石壁の下へ流れ込み、壁の動きを押し返す。
ギギギギ……。
石壁が止まった。
凛が息を切らす。
「……止まった」
「よし」
しかし――
「蒼真!」
レイの声が飛んだ。
蒼真が振り返る。
レイの周囲には、複数の忍が集まっている。
「こっちも増えた」
蓮司も土壁の向こうから姿を現す。
「俺もいるぞ!」
だが、その背後にも敵がいた。
「囲まれたな」
蓮司が笑う。
「笑ってる場合じゃない」
レイが短刀を構える。
「いや」
蓮司は刀を握り直した。
「こういう時こそ、やるしかないだろ」
蒼真が仲間の位置を見る。
凛と人質。
蓮司。
レイ。
そして自分。
敵の忍たち。
動く地下迷宮。
制御核。
蒼真はゆっくり息を吸った。
風が地下を巡る。
その風が、迷宮の奥から一つの異変を伝えてきた。
「……待て」
蒼真が目を細める。
「奥から風が来てる」
レイが反応する。
「出口か?」
「違う」
蒼真は首を振った。
「何かが……こっちへ向かってる」
その直後。
ドンッ!
地下迷宮の奥から巨大な音が響いた。
壁が砕ける。
黒い煙が通路を埋め尽くす。
その煙の中から、一人の忍が歩いてきた。
黒装束。
夜叉衆の印。
そして、両腕に巨大な鉤爪を装備している。
「第二段階の守護役は俺だ」
男が鉤爪を鳴らす。
ガキンッ。
「名は、鉤爪の獅堂」
玄岳が立ち上がった。
「……獅堂か」
蒼真が風影刀を構える。
「新しい敵……」
獅堂が笑った。
「四人まとめて相手をしてやる」
その背後で、さらに黒い術式が開いていく。
第二段階は、まだ始まったばかりだった。
第108話 完




