第107話「動き出す地下迷宮」
ゴゴゴゴゴ……。
地下全体が大きく揺れた。
壁が軋み、天井から細かな石が落ちてくる。
蒼真は風影刀を構えたまま、周囲を見回した。
「……何だ?」
次の瞬間。
ズズズズズッ!
壁そのものが横へ動いた。
「なっ……!」
蓮司が飛び退く。
「壁が動いてるぞ!」
巨大な石壁がゆっくりと移動し、これまで存在しなかった通路が現れる。
反対側では、別の壁が閉じ始めていた。
「凛、人質を!」
「分かってる!」
凛が水を広げる。
「水遁・水壁!」
水の壁が人質たちの前に展開され、落下してくる石を受け止める。
レイは周囲を見渡した。
「……道が変わっている」
「制御核が迷宮そのものを動かしてるのか」
蒼真が呟く。
玄岳は黒雷を纏ったまま、動く壁を眺めていた。
「最終処理が始まった以上、ここはもう単なる地下施設ではない」
「どういう意味だ?」
「この迷宮そのものが、制御核を守る」
ゴゴンッ!
さらに床が動いた。
蒼真たちの立っていた場所が左右に分かれる。
「うわっ!」
蓮司が踏ん張る。
「蒼真!」
「全員、動くな!」
だが床の分離は止まらない。
蒼真と玄岳。
蓮司。
レイ。
凛と人質。
それぞれの足場が少しずつ離れていく。
「まずい!」
凛が叫ぶ。
蒼真は風を纏って跳んだ。
「凛!」
空中で風を操り、凛たちのいる足場へ着地する。
「大丈夫か?」
「私は大丈夫。でも……」
凛が人質を見る。
「この人たちを連れて移動するのは難しい」
「なら、俺たちが道を作る」
蒼真が前を見る。
新しく開いた通路の奥。
そこには無数の黒い術式が並んでいた。
レイが目を細める。
「術式が……動いている」
「動いてる?」
「ああ。さっきまで壁にあったものが、通路の奥へ移動している」
蓮司が駆け寄る。
「つまり?」
レイは短刀を抜いた。
「制御核へ力を送るために移動している」
蒼真は理解した。
「じゃあ、あれを止めればいい」
その時。
バチッ!
黒雷が目の前を横切った。
「そう簡単にはいかない」
玄岳だった。
蒼真が振り返る。
「玄岳……!」
「お前たちは、制御核へ近づくほど危険になる」
「なら、お前を倒して進む!」
蒼真が踏み込む。
「風遁・風刃!」
風の刃が走る。
玄岳は身体を沈めた。
「黒雷遁・黒雷走!」
黒雷が地面を走り、玄岳の身体が一瞬で加速する。
キィン!
風影刀と黒雷を纏った拳がぶつかった。
蒼真の腕に痺れが走る。
「くっ……!」
「まだだ」
玄岳が連続して拳を放つ。
蒼真は風を纏って後退しながらかわす。
右。
左。
上。
そして――
「そこだ!」
蒼真が風影刀を振る。
玄岳が腕で受ける。
ザッ!
黒い衣が裂け、腕に浅い傷が走った。
「……やるな」
玄岳が距離を取る。
その間に、蓮司たちが動き出した。
「蒼真! 俺たちは術式を止める!」
「頼む!」
蓮司が地面へ刀を突き立てる。
「ここだ……」
地面の奥から微かな振動が伝わってくる。
「下に何かある」
蓮司が力を込める。
「だったら、掘り出す!」
刀で地面を叩き割る。
ガンッ!
石が崩れ、地下に埋まっていた黒い管が姿を現した。
「これだ!」
管の中を黒い光が流れている。
凛が近づく。
「制御核へ向かってる……」
「切ればいいか?」
レイが尋ねる。
凛は首を振った。
「待って。これを切ったら、何が起こるか分からない」
レイが管を観察する。
「なら、流れを変える」
「できる?」
「試す」
レイは二本の短刀を管の左右へ突き立てた。
キィン!
刃が黒い光を弾く。
「……流れが変わった」
その瞬間。
制御核の光が一瞬だけ弱くなった。
蒼真が気づく。
「効いてる!」
玄岳の表情が変わった。
「……そうか」
黒雷が一気に強まる。
「ならば、先にお前たちを止める」
玄岳が蒼真を無視して、蓮司たちへ向かおうとする。
「させるか!」
蒼真が風を爆発させた。
「風遁・風環!」
渦巻く風が玄岳の進路を塞ぐ。
玄岳は黒雷で風を突き破ろうとする。
バチバチバチッ!
「邪魔をするな!」
「お前こそ、邪魔なんだよ!」
二人の攻撃が激突する。
その間に、凛が人質を守りながら叫んだ。
「レイ! まだ黒い光が残ってる!」
「分かっている」
レイが短刀を抜く。
「一本では足りない」
「じゃあ……」
蓮司が刀を構える。
「俺もやる」
二人で管を挟む。
レイが右。
蓮司が左。
「せーの!」
ガキィン!
二本の刀が同時に管へ食い込んだ。
黒い光が大きく揺れる。
制御核の輝きがさらに弱くなった。
だが――
ズズズズズ……。
地下迷宮が再び動き始める。
「まだ動くのか!」
蓮司が叫ぶ。
壁が閉じ始める。
凛と人質のいる場所へ向かって、巨大な石壁が迫っていた。
「凛!」
「分かってる!」
凛は両手を広げる。
「水遁・水壁!」
巨大な水壁が展開される。
ドォン!
石壁と水壁が激突する。
凛の足が少しずつ後ろへ滑る。
「くっ……!」
「凛!」
蒼真が助けに向かおうとする。
だが玄岳が立ちはだかった。
「行かせない」
「どけ!」
「ここで私を倒せなければ、仲間も人質も守れないぞ」
蒼真は歯を食いしばる。
その言葉に、風が揺れた。
蒼真は周囲の空気を読む。
玄岳の黒雷。
動く壁。
制御核。
仲間。
すべての位置を感じ取る。
そして――
「……分かった」
蒼真が風影刀を構え直した。
「一気に全部止める」
玄岳が構える。
「できるものならな」
地下迷宮が大きく揺れる。
壁の奥から、無数の黒い術式が浮かび上がった。
そして制御核の前に、新たな文字が刻まれる。
『最終処理・第二段階』
蒼真の目が鋭くなる。
「まだ……終わらないのか」
第107話 完




