第106話「最終処理」
地下全体に、低い地鳴りのような音が響いた。
ゴォォォォ……。
四つの術式が消えたことで、制御核の光がさらに強くなる。
蒼真は風影刀を構えたまま、中央の黒い球体を睨んだ。
「……何が始まった?」
玄岳が黒雷を纏った拳を握る。
「最終処理だ」
「最終処理……?」
「四つの術式を破壊したことで、この地下迷宮に残された力が、すべて制御核へ集まっている」
制御核の周囲を走っていた黒い光が、一本、また一本と中心へ吸い込まれていく。
そして――
ビキッ。
人質の首元に刻まれた誘爆印が、さらに赤く染まった。
「っ!」
凛が振り返る。
「印の色が……!」
「完全に赤くなってる!」
蓮司も叫んだ。
玄岳は淡々と答える。
「時間がない」
「なら、止める!」
蒼真が地面を蹴った。
風を纏い、一気に玄岳との距離を詰める。
「風遁・風刃!」
風の刃が横薙ぎに走る。
玄岳は腕を上げた。
「黒雷遁・黒雷壁!」
黒い雷が壁のように広がり、風刃と激突する。
バシュッ!
衝撃で周囲の砂埃が舞い上がった。
その隙に蒼真は横へ回り込む。
だが――
「読めている」
玄岳の姿が消えた。
「……!」
次の瞬間。
ドンッ!
蒼真の脇腹に黒雷を纏った拳が叩き込まれた。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされた蒼真が壁に背中を打ちつける。
「蒼真!」
凛が叫ぶ。
「こっちはいい!」
蒼真は痛みを堪えて立ち上がった。
その間にも、三つの戦いは続いている。
蓮司は土遁の忍と激しくぶつかっていた。
「土遁・岩拳!」
巨大な岩の拳が振り下ろされる。
蓮司は真正面から受けず、身体を半歩ずらした。
「そこだ!」
岩拳に刀を添え、力の方向を変える。
ドォン!
岩拳が地面へ叩きつけられ、床が大きく砕けた。
だが土遁の忍は止まらない。
「土遁・土槍!」
地面から無数の槍が突き出す。
「くっ!」
蓮司は後退する。
足元の逃げ場が次々と消えていく。
一方、レイは雷遁の忍と刃を交えていた。
「雷遁・雷走!」
敵の身体が一瞬で加速する。
レイは二本の短刀を交差させた。
キィン!
雷を纏った刃を受け止める。
だが衝撃で肩の傷が開いた。
「……っ」
血が滲む。
それでもレイは表情を変えない。
敵が再び踏み込む。
レイは右の短刀で受け、左の短刀を低く走らせた。
ザッ!
敵の脚を浅く斬る。
「まだ終わらない」
レイが呟く。
そして凛。
凛は炎遁の忍から人質を守りながら戦っていた。
「火遁・火球!」
巨大な火球が飛んでくる。
「水遁・水壁!」
水の壁が立ち上がる。
ジュウウウッ!
大量の水蒸気が広がった。
視界が白く染まる。
凛はその中で人質の位置を確認する。
「全員……いる」
次の瞬間。
シュッ!
煙の向こうから苦無が飛んできた。
凛は水を操り、苦無の軌道を逸らす。
「この人たちは……絶対に傷つけさせない!」
炎遁の忍が笑う。
「ならば、お前は攻撃できない」
「……そう思う?」
凛の足元に水が広がった。
「水遁・水縛!」
水が敵の足へ絡みつく。
「なにっ!」
凛はそのまま水流を引き寄せる。
敵の身体が大きく傾いた。
しかし――
制御核から黒い光が放たれた。
バチィッ!
水が弾き飛ばされる。
凛も数歩後退した。
「制御核が……攻撃してる?」
蒼真が叫ぶ。
「全員、気をつけろ!」
その瞬間。
地下の壁一面に黒い紋様が浮かび上がった。
玄岳が口元を上げる。
「気づいたか」
「何だ、あれは……」
「最終処理では、制御核が周囲の忍力を吸収する」
「だったら止めればいい!」
「簡単ではない」
玄岳が黒雷を纏う。
「制御核はもう、俺たちの戦いすら利用している」
蒼真の表情が変わった。
「……俺たちの戦いを?」
「そうだ」
玄岳が拳を突き出す。
黒雷が地面を走った。
「攻撃すればするほど、忍力が制御核へ流れる」
「……!」
蒼真は制御核を見る。
確かに、先ほどよりも光が強くなっている。
蓮司も気づいた。
「じゃあ……俺たちが戦えば戦うほど、あれが強くなるってことか!」
「そういうことだ」
玄岳が答えた。
「そして制御核の力が最大になった時――」
人質の誘爆印が、さらに赤く輝いた。
「この地下全体が終わる」
「ふざけるな!」
蓮司が土遁の忍を押し返す。
「だったら戦い方を変える!」
蒼真も風影刀を下ろした。
玄岳が目を細める。
「……どうする?」
蒼真は制御核を見つめた。
戦って壊す。
それでは駄目だ。
四つの導線を切った。
四つの術式も破壊した。
それでも、最後の処理は止まらなかった。
ならば――
「制御核そのものを攻撃するんじゃない」
蒼真が言った。
「周りから流れ込んでいる力を止める」
玄岳の表情が僅かに変わった。
「ほう……」
「凛!」
「うん!」
「人質を守りながら、制御核へ流れてる水を探してくれ!」
「分かった!」
「蓮司!」
「おう!」
「地面の下だ。力が流れてる場所を探してくれ!」
「任せろ!」
「レイ!」
レイが短刀を構える。
「制御核の周囲を見てくれ。見えない術式があるかもしれない」
「了解」
そして蒼真は玄岳を睨む。
「俺はこいつを止める」
玄岳が笑った。
「一人で私を止めるつもりか?」
「違う」
蒼真は風影刀を握り直した。
「四人で終わらせる」
制御核の光が一段と強くなる。
ゴォォォォ……!
誘爆印は真紅に染まり、地下全体が激しく揺れ始めた。
玄岳が黒雷を纏う。
「ならば、見せてもらおう」
「お前たちが、この最終処理を止められるか」
蒼真も風を纏う。
「やってみる!」
二人が同時に地面を蹴った。
その瞬間――
制御核の中心に、巨大な赤い光が灯った。
最終処理、開始から残りわずか。
そして地下迷宮の壁に、新たな文字が浮かび上がった。
『最終処理・第一段階』
蒼真の目が見開かれる。
「……まだ第一段階だと?」
第106話 完




