第105話「第三段階」
青白い光が地下室を包んだ。
中央の制御核から噴き出した黒雷が、床を走っていく。
バチバチバチッ!
蒼真は風影刀を構えた。
「……これが第三段階か」
玄岳は答えなかった。
ただ、制御核を見つめている。
その時だった。
地下のあちこちから、金属が擦れる音が響いた。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
蓮司が周囲を見る。
「今度は何だよ……」
壁が開いた。
その奥から、小さな黒い札が次々と飛び出してくる。
「札……?」
凛が水を構える。
札は空中で停止すると、青白い光を放った。
「触るな!」
風遁使いが叫ぶ。
「それは起爆札じゃない!」
「じゃあ何だ!」
「術式を増幅する札だ!」
その瞬間。
黒い札から黒雷が放たれた。
バチィッ!
蒼真たちは一斉に散開する。
「くっ!」
床が黒く焦げる。
レイが札を見つめる。
「装置そのものが、攻撃してくるのか」
「第三段階では、制御核が自動で敵を排除する」
風遁使いが答えた。
「俺たちを……?」
「違う」
彼は首を横に振る。
「この地下にいる全員をだ」
蒼真の表情が変わる。
「村人もか?」
「そうなる」
「ふざけんな!」
蒼真が制御核へ向かって走る。
しかし玄岳が立ちはだかった。
「待て」
「どけ!」
「今、あれに触れれば黒雷が全方向へ流れる」
蒼真は足を止める。
「……」
玄岳は制御核を見る。
「第三段階では、直接破壊することもできない」
蓮司が苛立った。
「じゃあどうすんだよ!」
風遁使いが答える。
「制御核の周囲にある四つの術式を止める」
「また四つかよ……!」
蓮司が叫ぶ。
制御核の周囲。
先ほどまで見えなかった四つの円形の術式が浮かび上がっていた。
北。
東。
西。
南。
蒼真が目を細める。
「これを全部止めれば?」
「制御核の防御が消える」
レイが続ける。
「その後に制御核を止める」
風遁使いが頷く。
「そうだ」
凛が村人を見る。
「でも、その間も村人の印は……」
カチッ。
村人の首元が赤く光った。
凛の顔が強張る。
「時間がない」
蒼真は四人を見る。
「今度も分担だ」
蓮司が北。
レイが東。
凛が西。
蒼真が南。
それぞれの術式へ向かう。
しかし――。
玄岳が黒雷をまとった。
「そう簡単にはさせない」
蒼真が振り返る。
「まだ俺と戦うつもりか」
「俺の役目が終わるまではな」
玄岳が構える。
「第三段階を突破できるか、最後まで見届ける」
蒼真も構えた。
「なら、突破する!」
四人が同時に走り出す。
北へ向かった蓮司の前に、土遁使いが立つ。
「またお前か!」
「何度でも相手をする」
「こっちは急いでんだ!」
蓮司が踏み込む。
ガキン!
拳と刀がぶつかる。
東ではレイと雷遁使い。
「今度こそ止める」
「俺も止めさせない」
雷が弾ける。
西では凛と火遁使い。
「もう、村人には近づけさせない!」
「ならば水ごと焼き尽くす!」
黒炎が迫る。
そして南。
蒼真と玄岳。
「黒雷遁・黒雷走!」
玄岳が消える。
蒼真は目を閉じた。
「……」
風を感じる。
黒雷が空気を震わせる。
右。
蒼真が刀を振る。
ガキィン!
玄岳の拳を受け止める。
「読んだか」
「何度も戦ってきたからな」
蒼真が押し返す。
「お前の動きは、もう分かる!」
玄岳が距離を取る。
「ならば変える」
印を結ぶ。
「黒雷遁・雷影!」
黒い雷が三方向へ分かれた。
蒼真は一瞬迷う。
本体はどれだ。
一つ。
二つ。
三つ。
すべてが本物のように動く。
「……分からない」
その瞬間、背後から攻撃。
蒼真は振り返る。
ガキィン!
間一髪で受け止めた。
「これも読めるか?」
玄岳が笑う。
蒼真は押される。
「ぐっ……!」
しかし、足元に微かな風が流れている。
蒼真は気づいた。
「……そうか」
玄岳が眉を動かす。
「何?」
「黒雷が三つに分かれても……」
蒼真は風影刀を構える。
「身体の動きまで同じになるわけじゃない」
一閃。
風刃が玄岳の肩を掠める。
「ぐっ!」
玄岳が後退する。
その頃。
蓮司は土遁使いを押し返していた。
「ここだ!」
北の術式へ到着する。
円形の術式へ刀を突き立てる。
しかし土遁使いが迫る。
「させるか!」
蓮司は刀を抜かずに、拳を受け止める。
「だったら――」
そのまま拳の勢いを横へ流す。
土遁使いがよろめく。
「これでどうだ!」
蓮司が術式へ刀を押し込む。
バキッ!
北の術式が砕けた。
「一つ!」
東。
レイは雷遁使いの攻撃をかわしながら術式へ到着。
「……ここだ」
短刀を突き立てる。
雷遁使いが背後から迫る。
「終わりだ!」
レイは振り返らない。
もう一本の短刀を後ろへ伸ばす。
ガキィン!
攻撃を受け止める。
そのまま身体を回転。
「消えろ」
短刀の柄が敵の腹へ入る。
敵が崩れた。
レイは術式へ短刀を突き立てる。
パキンッ!
東の術式が消えた。
「二つ」
西。
凛は火遁使いの黒炎を水で包み込む。
「水遁・水縛!」
炎の忍の動きを止める。
そのまま術式へ走る。
「これで……!」
水を集中させる。
「水遁・水槍!」
水槍が術式の中心を貫いた。
バキィッ!
西の術式も消える。
「三つ!」
残るは南。
蒼真は玄岳と戦いながら、最後の術式を見る。
玄岳が立ちはだかる。
「ここは通さない」
蒼真は風影刀を構えた。
「なら……倒す!」
風が一気に集まる。
「風遁・風刃!」
玄岳も黒雷を集中させる。
「黒雷遁・黒雷牙!」
風と黒雷が正面からぶつかった。
ドォォン!
衝撃で二人とも吹き飛ぶ。
蒼真は地面を転がる。
それでも立ち上がった。
玄岳も立ち上がる。
互いに息を切らしていた。
「……まだ立つか」
「お互い様だ」
蒼真が走る。
玄岳も走る。
拳と刀がぶつかる。
そして――。
蒼真は最後の術式へ向かって刀を振り抜いた。
「これで終わりだ!」
ザンッ!
南の術式が真っ二つに割れた。
四つの術式が同時に消える。
青白い光が一瞬、弱くなった。
「成功した!」
凛が叫ぶ。
だが――。
中央の制御核が、さらに強く輝いた。
玄岳の表情が変わる。
「……まだだ」
蒼真が振り返る。
「何?」
玄岳は制御核を見つめた。
「四つの術式が消えたことで……」
制御核の中心に、巨大な光が集まり始める。
「最終処理が始まった」
カチッ。
カチッ。
カチッ。
地下全体に、無数の音が響き渡る。
そして村人の誘爆印が――。
真っ赤に染まった。
第105話 完




