第102話「風遁・風刃の極み」
地下室を覆う風が、さらに激しくなる。
蒼真と風遁使い。
二人の間を、無数の風が渦巻いていた。
「風を支配するだと?」
風遁使いが苦笑する。
「口だけなら誰でも言える!」
両手を素早く組む。
「風遁・裂空刃!」
無数の風の刃が、四方八方から蒼真へ迫った。
前。
後ろ。
左右。
逃げ場がない。
蒼真は目を閉じた。
「……」
風の音を聞く。
風が壁にぶつかる。
天井へ抜ける。
床を這う。
そして――。
一本だけ、逆方向へ流れる風があった。
「そこだ!」
蒼真が踏み込む。
シュッ!
風刃の隙間を抜ける。
一枚。
二枚。
三枚。
身体を捻りながら、次々と風刃をかわす。
風遁使いが驚く。
「馬鹿な……!」
蒼真は風影刀を構えた。
「お前が風を動かしているなら……」
刀身に風が集まる。
「俺は、その流れに乗る!」
風影刀が風をまとった。
「風遁・風刃!」
一閃。
巨大な風の刃が走る。
敵も同時に風刃を放った。
「風遁・旋風刃!」
二つの風刃が正面から激突する。
ズドォン!
衝撃で蒼真の身体が後ろへ吹き飛ぶ。
「くっ……!」
風遁使いも膝をついた。
だが、先に立ち上がったのは敵だった。
「まだ終わっていない!」
敵が一気に加速する。
「風遁・風走!」
蒼真も迎え撃つ。
ガキィン!
刀と苦無。
互いの武器が何度もぶつかる。
敵の蹴り。
蒼真が避ける。
風刃。
蒼真が刀で弾く。
再び敵が懐へ入る。
「終わりだ!」
苦無が蒼真の胸へ迫る。
蒼真は身体を捻った。
刃が服を裂く。
「……!」
そのまま敵の腕を掴む。
風を流す。
「なっ……!」
敵の身体が大きく回転した。
蒼真は投げ飛ばす。
ドンッ!
敵が地面へ叩きつけられた。
しかし、すぐに立ち上がる。
「まだだ!」
敵の周囲に風が集まる。
「風遁・大旋風!」
巨大な竜巻が地下室に発生した。
蒼真の身体が持ち上げられる。
「ぐっ!」
壁へ叩きつけられそうになる。
だが、蒼真は風影刀を構えた。
「……風は、流れる」
刀身に風が集まる。
「だったら……流れを変える!」
蒼真は刀を地面へ突き刺した。
「風遁・風環!」
円形の風が広がる。
竜巻の流れが変わった。
「何だと!」
巨大な竜巻が徐々に崩れていく。
風遁使いが後退する。
「俺の術を……崩した?」
蒼真は立ち上がった。
「支配するんじゃない」
風影刀を構える。
「利用するんだ」
一気に踏み込む。
「風遁・風刃!」
敵も最後の力を振り絞る。
「風遁・裂空刃!」
二人の攻撃が正面からぶつかった。
ガァン!
地下室に衝撃が響く。
風が消える。
静寂。
敵の苦無が床へ落ちた。
カラン。
風遁使いは膝をついた。
「……負けた」
蒼真も肩で息をする。
「まだ戦えるか?」
敵は首を横に振った。
「俺の役目は……ここまでだ」
蒼真はすぐに起爆装置へ向かおうとする。
しかし――。
「蒼真!」
蓮司の声。
振り向くと、蓮司が土遁使いに追い込まれていた。
「まだ終わってねぇ!」
蓮司は土の拳を受け流す。
だが、足元が崩れる。
「しまった!」
土遁使いが腕を振る。
「土遁・岩砕!」
巨大な岩が蓮司へ迫った。
蓮司は刀を構える。
「避けたら、後ろの装置に当たる……!」
起爆装置がすぐ背後にある。
攻撃を受け止めれば、自分が吹き飛ぶ。
避けても装置が壊れる。
蓮司は一瞬迷った。
その瞬間――。
「蓮司!」
蒼真が駆け出す。
しかし距離がある。
間に合わない。
蓮司は歯を食いしばった。
「だったら……!」
刀を構え直す。
「俺が受け流す!」
岩が迫る。
蓮司は真正面から受け止めた。
「ぐあああっ!」
身体が沈む。
両足が床にめり込む。
それでも刀を離さない。
「まだ……だ!」
岩の向きを少しずつ変えていく。
そして――。
ドォン!
岩が壁へ逸れた。
蓮司は膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
土遁使いが驚く。
「その身体で……!」
蓮司が立ち上がる。
「俺は……仲間を守るって決めたからな」
その頃、レイ。
雷遁使いの攻撃がさらに速くなる。
「雷遁・雷走!」
「……!」
レイが短刀で受ける。
だが、次の瞬間には背後。
「雷遁・雷牙!」
レイの肩が切り裂かれる。
「っ……!」
血が落ちる。
雷遁使いは距離を取った。
「速度では俺が上だ」
レイは傷口を押さえた。
そして短刀を構え直す。
「……なら」
目を細める。
「速度以外で戦う」
凛の戦いも続いている。
黒炎が水流を焼き尽くす。
「水遁だけでは、俺の炎は止められない!」
凛は息を整えた。
「そうね」
周囲を見る。
「だから、止めるんじゃない」
床には大量の水。
壁には水滴。
天井にも蒸気。
凛は両手を広げた。
「全部、使う」
水が一斉に動き始める。
一方、玄岳は静かに起爆装置を見ていた。
そして――。
カチッ。
中央の黒い球体がさらに赤く染まる。
玄岳が呟いた。
「……残り三段階」
蒼真が振り返る。
「三段階だと?」
玄岳は答えない。
その代わり、黒雷を再びまとわせた。
「急げ」
「……!」
「お前たちが仲間を助けたいならな」
蒼真は拳を握る。
「だったら、全部止める!」
風影刀を構えた。
しかし、その前に――。
倒したはずの風遁使いが、ゆっくり立ち上がった。
「待て……」
蒼真が振り向く。
「まだ何かあるのか?」
風遁使いは起爆装置を見た。
「その装置は……破壊するだけじゃ止まらない」
蒼真の表情が変わる。
「どういうことだ?」
「中央の黒い球体を壊せば……」
風遁使いが言葉を止める。
「地下全体に、逆流する」
玄岳が静かに笑った。
「ようやく気づいたか」
蒼真たちは起爆装置を見つめる。
破壊すれば爆発する。
放置すれば誘爆印が完成する。
その二つの選択肢しかないように見えた。
しかし――。
蒼真は風影刀を見る。
「……なら、壊し方を変える」
第102話 完




