第101話「風を読む者と風を操る者」
地下室を駆け抜ける四つの影。
蒼真の正面に立つのは、風遁を操る忍。
その周囲には、絶えず風が渦巻いている。
「お前とは一度、風だけで勝負してみたかった」
風遁の忍が印を結ぶ。
「風遁・旋風刃!」
鋭い風の刃が横一列に放たれた。
蒼真は身体を低くする。
頭上を風刃が通過する。
一枚。
二枚。
三枚。
「まだだ!」
敵が腕を振る。
風刃の軌道が途中で変わった。
「……!」
蒼真は咄嗟に風影刀を構える。
ガキィン!
風刃が刀にぶつかる。
その勢いで蒼真の身体が後ろへ滑った。
「ただの風刃じゃないな」
「地下の風は複雑だ。だからこそ、俺には有利なんだ」
敵が地面を蹴る。
「風遁・風走!」
一瞬で距離が縮まる。
蒼真も風を纏う。
「風遁・風纏!」
二人の姿がぶつかった。
ガキィン!
刀と苦無。
一撃。
二撃。
三撃。
互いに距離を取る。
蒼真は息を整えた。
敵の動きは速い。
だが、それ以上に厄介なのは周囲の風だった。
敵は風を生み出すだけではない。
既に存在する風まで利用している。
「なるほど……」
蒼真は目を細めた。
「俺と同じように、風を読んでるのか」
「違う」
敵が笑う。
「俺は風を支配する」
その瞬間、地下通路の空気が一気に動いた。
「風遁・風圧!」
ゴォォォッ!
巨大な風圧が蒼真を吹き飛ばす。
「ぐっ!」
蒼真は風影刀を地面へ突き刺した。
ズザザザッ!
それでも身体は後退していく。
壁まであと数メートル。
蒼真は足に力を込めた。
そして――。
風の流れが一瞬変わった。
「……そこだ」
蒼真は刀を抜いた。
風圧に逆らわず、身体を回転させる。
風に乗った。
敵の横を一気に通り抜ける。
「なにっ!」
蒼真の風影刀が敵の腕を浅く斬った。
「ぐっ!」
敵が後退する。
蒼真は追撃しない。
「お前は風を支配してる」
敵が腕の傷を見る。
「それがどうした?」
「でも、風そのものには逆らえない」
蒼真は周囲を見渡す。
「風は必ずどこかへ流れる」
敵の目が細くなる。
「……」
「だから俺は、その流れを使う」
蒼真の身体を風が包む。
一方、その頃。
蓮司は土遁の忍と激突していた。
「土遁・岩拳!」
巨大な土の拳が迫る。
蓮司は受け止めない。
横へ流す。
ドゴォン!
拳が壁へ叩き込まれる。
「また受け流したか!」
「力任せじゃ、お前には勝てないからな!」
蓮司が踏み込む。
しかし地面から土の杭が突き出した。
「土遁・地槍!」
「くっ!」
蓮司は後ろへ跳ぶ。
その瞬間、土遁の忍が地面へ潜った。
「どこだ……!」
静寂。
蓮司は刀を構えた。
次の瞬間――。
足元。
「しまった!」
土の腕が足を掴む。
「土遁・土縛!」
蓮司の身体が引きずり込まれる。
「うおおっ!」
蓮司は刀を地面へ突き刺し、踏ん張った。
「こんなところで……負けられるか!」
その頃、レイは雷遁の忍を追っていた。
速い。
一瞬姿が消える。
次の瞬間、背後。
「雷遁・雷刃!」
レイが振り返る。
ガキィン!
短刀で受け止める。
しかし敵はすぐに離れる。
「……」
レイは敵を見失った。
静かだ。
雷の音すら聞こえない。
「隠れたか」
レイは目を閉じる。
足音はない。
気配もない。
だが――。
「雷なら、音が残る」
レイが振り向いた。
「そこだ」
短刀を投げる。
ヒュッ!
壁の陰から敵が飛び出した。
「読んだだと!」
レイはもう一本の短刀を握っている。
「音だけじゃない」
雷の微かな光を見ていた。
「光も残る」
二人が再び激突した。
そして凛。
火遁の忍が黒い炎をまとって迫る。
「火遁・黒炎弾!」
凛は水壁を展開。
ドンッ!
水壁が大きく揺れる。
「普通の火遁じゃない……!」
黒雷によって炎の威力が増している。
凛は水を集中させる。
「水遁・水槍!」
鋭い水の槍が放たれる。
敵は黒炎で弾く。
「効かない!」
凛はすぐに次の術へ切り替えた。
「水遁・水縛!」
水の縄が敵の腕へ絡む。
だが黒炎がそれを焼き切る。
「だったら……!」
凛は周囲を見る。
地下室には水蒸気が漂っている。
「水は、もう十分ある」
両手を広げる。
「水遁・水流陣!」
床に残った水が一斉に動き出した。
黒炎の忍が足を取られる。
「何っ!」
凛は水流を一点へ集める。
「今度は逃がさない!」
四人の戦いが続く。
その中央では、玄岳が起爆装置の前に立っていた。
蒼真たちの戦いを静かに見ている。
そして――。
中央の黒い球体が、再び明滅した。
カチッ。
玄岳が呟く。
「あと少しだ」
その声を、蒼真は聞き逃さなかった。
「……何?」
蒼真が玄岳を見る。
敵の風遁使いが隙を狙って突っ込んできた。
「余所見をするな!」
風刃が迫る。
蒼真は振り返らない。
「分かってる」
風影刀を横へ振る。
敵の風刃を斬る。
そして、そのまま敵の懐へ。
「風遁・風刃!」
ザンッ!
敵の肩を斬り裂いた。
「ぐあっ!」
敵が後退する。
蒼真は玄岳を睨む。
「あと少しって……何分だ」
玄岳は答えない。
ただ起爆装置を見る。
蒼真は確信した。
「……時間が決まってるんだな」
玄岳が初めて笑った。
「気づいたか」
「なら、その時間までにお前を倒す」
蒼真は風影刀を構える。
周囲の風が集まり始めた。
「今度は俺が、風を支配する」
風遁使いも再び構える。
「やってみろ!」
二人の風が激突する。
地下室全体が大きく揺れた。
そして起爆装置の赤い光が――。
また一段、強くなった。
第101話 完




