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093 唯、こわい話をきく。

大量のリンゴを収納し、鼻唄(はなうた)まじりでなぜかスキップへのチャレンジを決意した私。昔から得意じゃなかったけど、絶好調の今ならいける気がする。魔王軍(まおうぐん)をコテンパンにして、おいしいものをたくさん食べて、大好きなフルーツも山ほど買って…幸せを表現するに完璧すぎるシチュエーション。


―――とっととっととっと…よし、いける。


イメージトレーニングはばっちり。自慢(じまん)じゃないけど、リズム感はある方だと思ってる。右、右、左、左…いざ。


「とっとととととととっ…へぶっ!?」


コホン。…顔は…痛くないけど、心が痛い。


「…ガーちゃん、見た?」

「い、いえ…何も見ていません。」

「フリルちゃん、見た?」

『ぴよ…』―――えっと…なにも。


素早く立ち上がったことが功を(そう)した。私の華麗(かれい)すぎる地面ビターン…じゃなかった、大地とのふれあいは見逃してもらえたみたい。


「…ふ…ふふふふっはははは!」


せっかく誤魔化したのに、笑いだしちゃった私。なんかおかしくって、つい。


「ふふふっ、ユイ、今度一緒に練習しましょう。実は私も…苦手なんです。」

「そだよね!難しいよね!」

「どうして同じ足で飛べるのか…それがわからないんですよね。」

「わかるわかる。右足出たら、やっぱり左足出ちゃうもん。」


もとの世界だと…身近にはいなかった私の理解者。まさか異世界で出会えるとは。…もちろんガーネット姫の優しさだってことは…わかってるよ。うん。





おそば屋さんの行列に並んだ私たち。お昼どきということで…行列はすごい長さだった。特に予定があるわけじゃないし、おいしいもののために待つのは全然オッケーな私。スキップのイメージトレーニングをしつつ、フリルさまをなでなで。


『ぴよ』―――ユイちゃん、これからどーするの?

「そだね…。おそばをたくさん食べて…それから…。」


決めてなかった。一度ヒマワリの町に戻るつもりではいるんだけど、ルート的なものを決めてない。それこそ私の即席(そくせき)ジェットコースターに乗れば、ヒマワリの町まですぐだし。


「カエデの町は貿易(ぼうえき)の拠点でもあります。お隣の国とも接していますが…国外となると、私の立場上、少し大変と言いますか…ご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。」


たしかに。いくらお隣の国とはいえ、お姫さまが国外に出るとなると…いろいろ大変だと思う。場合によっては外交問題(がいこうもんだい)とかに発展しちゃいそうだし。


―――その場合…原因は絶対、私だよね。うん。


やらかす自信しかない。この世界の礼儀(れいぎ)とかそういうの、あんまり知らないし。ガーネット姫は笑って許してくれるけど、厳しい…というか、普通に「えっ!?」って思う人もいるはず。というわけで。


「外国は…まだ大丈夫かな。この国もまだ行けてないところいっぱいだし。」

『ぴよよ』―――ボクもその方がありがたいよ。知らないところ…ちょっと怖いし。

「そうですね。それですと…浜辺沿(はまべぞ)いに、ハナミズキ・タウンへ向かう街道があったはずです。」

「ハナミズキ・タウン…?あ、なんかお祭りがどうのって。」

「そうです。年に一度、町をあげてのお祭りが開催されています。町の方々はもちろん、冒険者さんや商人さんも集まっての、とても盛大なイベ…お祭りなのです。」


今、イベントって言いかけたよね…。それはさておき。


「でも、今年のって終わっちゃったんだよね?」

「はい、残念ながら。カイルくんと出会った日が丁度最終日でした。」

「そなんだ…残念。」

「お祭りは来年までありませんが…海が広がってますよ。」

「海…。」


懐かしい響き。海なし県で生まれ育ち、海なし県で生活していた私。海には少し(あこが)れが合ったりする。


海水浴(かいすいよく)もできますし…というか、ハナミズキ・タウンへ訪れる方々は…ほとんど海水浴やマリンスポーツ目当てでいらっしゃいますね。あと、お魚…おいしいですよ!」

「…おさかな…食べる。」

『ぴよよ…』―――おさかな…好き。

「では…ハナミズキ・タウンへ行ってみましょう。」

「うん!」


食欲につられた私…とフリルさま。海、お祭り、お魚。夏の香り満載(まんさい)でございますです。


―――海…何年ぶりかな?


高校生の夏…海水浴に行ったのが最後かな。大学に入ってからは一人暮らしだったし、インドアを謳歌(おうか)してきた私。旅行に行くならアニメを見ながらゴロゴロする、そんな生活を送ってた。…泳げないわけじゃないからね。泳げるからね。バタ足だけど。


「道中…モンスターがたくさん出てきますけど、ユイと一緒ですし問題ないですね。」

「なんか言った?」

「いえ、解決していることなので、大丈夫です。」

「そう…?あ、ところでなんだけどさ…。」

「はい。」


話題変わっちゃうけど、どうしても聞きたかったことがひとつ。聞くのが怖かったりもするんだけど、気になって…夜しか眠れないんだもん。


「あの宿屋さんって…どうなったの?」

「あの宿屋さん…?」

「ほら、アクドーイの…。」


私たちを門前払(もんぜんばら)いしたあの宿屋さん。あまりの対応に、ゴゴゴゴの効果音付きで怒ってたガーネット姫。ガーネット姫のお父さんは、この国の王さま。更地(さらち)どころじゃ済まない未来が見えてるんだけど…。


「あぁ…そういえばありましたね。そんな宿屋。」


か、過去形(かこけい)だ…。


「それで…聞きますか?」

「い、いえ…大丈夫です…。」

「その方が…良いと思いますよ。」


満面の笑みを浮かべたガーネット姫。(なぞ)(あつ)を感じ、フリルさまも固まっちゃってる。…怖い。

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