091 唯、昔話をきく。
『よいしょっと。聞こえるー?』
テーブルの上でモコっと身体を膨らませ、数回羽づくろいをしたフリルさま。かわいらしいサイズのくちばしをパクパク。
「うん、聞こえるよ。」
「私も大丈夫です。」
ぴよぴよ鳴き声は聞こえないけど、いつものかわいらしい声が響いてきてる。テレパシーみたいな感じなのかな、ちょっぴり不思議な感覚。
『ユイちゃん、ボクの名前って覚えてる?』
「もちろん。プリンチペッサ・フリルちゃんでしょ?」
『うん。鶯遷の三鳥、氷の姫鳥がボクの名前。そんなボクは、昔むかし大賢者さまにつくりだされた存在なんだ。』
「大賢者さま?」
『ガーネットちゃん、お願い。』
「お任せください。」
ポカンとしてる私に、ガーネット姫が説明してくれた。大賢者さまというのは、まだ魔王軍とかがいなかった頃に存在した賢人のことで、すごい魔法使いだったらしい。私が使っている魔法はもちろん、この世界にある魔法のほとんどが、大賢者さまによって発見されたそう。
―――超かしこい人じゃん。
なんだか適当なまとめかたしちゃったけど、いわゆる天才とかそういう次元の人らしい。
「その大賢者さまが、フリルちゃんを魔法でつくったの?」
『そだね。もう少し詳しく説明すると…。ユイちゃん、地図持ってる?』
「あるよ。はい。」
一旦お茶の入った紙コップを片付けて、テーブルにドドンと地図を広げた。私は地図が苦手なタイプなので、新品同然。読めないわけじゃないんだけど、ガーネット姫に頼った方が…絶対安心。
『ここがタケノコの村ね。ボクがいた場所はこの辺り。』
フリルさまは、くちばしでタケノコの村の上あたり…方角で言うと北側をコツンとつっついた。
『昔はここに 古の祠 っていうのがあって、そこに 魔法柱 ってのがあったの。』
「古の祠?魔法柱…?」
ちんぷんかんぷん。助けてガーネット姫。
「私も初めて聞きました。古の祠…ですか。」
『まぁ、もうないからね。それでね、簡単に言うと、魔法柱っていうのが…この世界を守ってたの。まだ村すらできていないような時代…魔法柱の力で、人々はこの世界を発展させてきたんだ。』
「なるほど…それがおさめられていたのが…。」
『古の祠。』
「…?」
「つまり、すごいアイテムがあって、それが大切に守られてきたということです。」
「あ、そういうこと。」
オッケー、完全に理解した。
『でね、その魔法柱っていうのが世界に4つあって、世界をうまい具合にカバーしてたんだ。それぞれ力の種類が違ってて、ボクのもととなってる魔法柱は… 護の力 を持ってるんだ。』
「それで魔王の襲来とか防げてるんだよね。」
魔法柱はこの世界の要で、発展と安全を支えていたらしい。この世界の四季がちょっぴり不思議な感じなのも、魔法柱が影響しているとのこと。例えばタケノコの村近くにあった魔法柱は、冬の力を持っていて…だからタケノコの村の周囲にはずーっと雪が降っているそう。
『そゆこと。ちょっと話を戻して、まだ祠があった頃ね。強大な力を持つ魔法柱…悪用されることのないように、当時の人たちが幾重にも保護をかけたんだ。魔法で動く機械を設置したり、周囲を魔法で囲ったりしてね。』
「ダンジョン…みたいになったということでしょうか?」
『そんな感じかな?まぁ、ボクは覚えてないんだけど。』
右羽でアホ毛のあたりをなでたフリルさま。話にはなんとかついていけてる。…今のところ。
『それからすんごく時間が経ったあと、その保護が暴走しちゃったんだ。理由は知らないけど、たぶん魔法陣の一部が風化した影響だと思う。』
「それ大変じゃん。だって、悪用されないようにすっごい強い魔法で囲ってたんでしょ?」
悪用されるのを防ぐためだから、超強力な対策がされていたはず。そんなのが暴走したら、上を下への大騒ぎ。せっかく築いた文明とか…無くなっちゃうかもしれない。
『うん。だから大混乱したみたい。そこで登場したのが…。』
「大賢者さま。」
『さすがガーネットちゃん。そゆこと。』
「…。」
『暴走への対処を頼まれた大賢者さま。その力をもって…4つの内3つの祠を攻略したんだけど、その後のことを考えたんだ。また封印みたいに強い保護をかけることもできるけど、また数百年後に同じ問題が起きちゃう。それで大賢者さまが考えたのが…。』
「魔法柱をもとにして、フリルちゃんをつくること…?」
『ユイちゃん…。』
絶妙な間が流れた。ガーネット姫にちょっとでも追いつこうと頑張ってはみたけど…的外れだったかな。
『ピンポンピンポーン!大正解。』
「やったー!」
「ユイ、さすがです。」
「えへへ…。」
褒められた。
『魔法柱の力そのまま動けるようにしちゃえば、悪用されにくくなるでしょ?変なのが来たら、ボク自身で追い返せるわけだから。連れて行かれちゃっても、ピューって飛んで逃げ出せるし。』
「賢い…。さすが大賢者さま。」
『そして3つの魔法柱から、3匹の鳥がつくられたの。それが鶯遷の三鳥。』
「そうだったんだ。」
「その辺りのお話は、歴史書にものっています。私も先生方にご教授いただきました。」
―――ご教授…さすがお姫さま。
『でね、その内の1匹が…王都のそばにいるんだ。』
「王都のそば…?あ、それで近づきたくないの?」
『いや…近づきたくない…ってわけじゃなくて…。』
急にもじもじしだしちゃったフリルさま。普段は鈍感だけど、こういうときだけ頭の回転フルスピードな私。なんとなく察しがついた。
「フリルちゃん、そのこはなんていう名前なの?」
『プリンツ・キルシェくん。』
「プリンチペッサって、お姫さまって意味だったよね。」
『うん。』
氷の姫鳥と書いて、プリンチペッサ・フリル。
「プリンツは?」
『王子さま。…あっ。』
顔を両方の羽で隠しちゃったフリルさま。なんだ、それならそうと言ってくれれば良かったのに。お姫さまに王子さま…むふふ。
「フリルちゃん、会いたいけど会いたくないんだよね。わかる、わかるよその気持ち。」
『ユイちゃん…わかってくれる?』
「わかるよ、私もそういう気持ち経験してるもん。」
「ユイ…?」
私がガーネット姫に教えるという…世にも珍しい瞬間が訪れた。今日は雪かもしれない。
―――あ…またフラグたてちゃったかな…。
念のため、空を見上げる。うん、大丈夫そう。それはさておき。
「恋。」
「こい…?恋!」
気づいてくれたガーネット姫。優しい微笑みをうかべ、数回頷いてる。なんだか久しぶりに甘酸っぱい感情がおしよせてきた。
『コホン…。近くにいったらさ、やっぱり顔出さないと変じゃん…。』
すっかり恋する乙女モードのフリルさま。このままだと…みんなしてとけちゃいそうなので、ちょっと話題転換。
「それで、キルシェくんは…どんな力を持ってるの?」
『キルシェくんは、 知の力 だね。大いなる閃きを与えるって言われてるけど、詳しくはボクも知らないんだ。話そうとすると…その、テンパっちゃうし…。』
シュンと落ち込んじゃったフリルさま。よしよしとなでて、いつもの定位置に。
「フリルちゃん。一緒にがんばろう!私のジェットコースターならピュンってひとっとびだし、会いにいきたくなったら、いつでも言ってね。」
『ぴよ』―――ユイちゃん…。
「そうですよ。私も応援します!ゆっくり、一歩ずついきましょう!」
『ぴよよ』―――ガーネットちゃん…ありがと。
そんな甘酸っぱい思いを胸に、席をたった私たち。しばらくニヤニヤが止まんなかった。




