090 唯、町を歩く。
翌朝、カーテンの隙間からわずかに差し込むやわらかな日差し。目を背けつつ、ゴロゴロとベッドの上を移動する。
―――むう…おなかすいた…。
相変わらず朝が弱い私だけど、食欲には最高のプライオリティが設定されてる。もぞもぞとお布団を動かし、寝ぼけまなこでスリッパを探す。
『ぴよよ!』―――ユイちゃん、おはよ!
窓際から水色のもふもふが飛んできた。朝から元気なフリルさまご登場。
「おはよ…ふぅわはぁぁぁん…。」
「ふふふっ、おはようございます。」
「おはよー、ガーちゃん。」
大きなお口を開けてたら、髪型セット中のガーネット姫と目が合った。ちょっと恥ずかしかった…。やっと見つけたスリッパに足をねじ込んで、よてよてと洗面所を目指す私。ぶつかったりすると…たいてい壁の方が壊れちゃうので、細心の注意を払いつつ…。
そんな私が珍しく早起きした理由、それはおなかが空いたから…じゃなくて、朝市で買い物をしてみたいから。カエデの町では朝早くからいろんなお店が開いていて、地元のひとはそこで日用品の買い物をするらしい。宿屋のひとに教えてもらった。
―――地元のひとが利用してるお店…だいたい当たりだもんね。
くいしんぼうな私が抱えている、旅行の心得。だいたい地元のひとに聞くのが正しい。「いつも利用しているお店」を教えてもらうのもポイントだったりする。
「ガーちゃん、これとこれ…どっちが良いかな?」
「えーっと…そうですね。」
右手にはこげ茶色のトレーナー、左手にはギンガムチェックのシャツ。季節感を意識した色合いだけど、この世界では季節感もへったくれもなかったりする。タケノコの村にずーっと雪が降ってるみたいに、場所によって季節が変わるのがこの世界。カエデの町は…名称的に秋が合うかなって思ってこのチョイスだけど、あってるかどうかはわかんない。
「左が良いと思います。あ、ユイから見て左です。」
「こっち?」
「はい。赤のスカートにもぴったりです。」
「オッケー、ありがと。」
「いえ。」
そのままシャツに袖を通して、ボタンをとめる。飛んできたフリルさまを頭に乗せて、出発準備は完了。鏡の前でくるっと回って、一応の確認を。
「よしと!ガーちゃん、お待たせー。」
「朝はおそばにしますか?」
「うーん…とりあえずいろいろ見てみよう。」
「そうしましょうか。」
そのまま鍵を閉めて、てとてとと階段へ。
―――あ…。
コホン…。スリッパのままだった。ハズ…。
■
昨日とは打って変わって、とんでもない賑わいをみせている町。実は魔王軍、私と一緒で朝が弱いらしい。活動開始はだいたいお昼すぎなので、町の人たちは朝から昼にかけて用事を済ませているそう。
―――その魔王軍は捕まえたし、普段どおりの生活が戻るのも…。
すぐだと思う。王都でも魔王軍がいなくなったとの広報をしてくれるみたいだし、ここは商業の拠点。安全になった今、お客さんも戻ってきてくれると思う。丸くおさまりそうでよかった。
「ユイ!見てください、メタルフィッシュですよ!特売ですって!」
「メタルフィッシュ?…あっ…。」
うん、パンチ力抜群の見た目でした。さすがは異世界、さすがはモンスター。銀一色でとがりきってるフォルム…失礼ながら、食べたいとは…うん。
「煮つけがとーってもおいしいんですよ。銀色のおだしがとれますし、あますところなく使えるお魚なんです。」
「そ、そうなんだ。」
銀色。…想像するんじゃなかった…。
「お姉さん、詳しいね!」
「いえ…ほとんどお魚屋さんからの受け売りでして…。」
店員さんに褒められて、照れまくってるガーネット姫。頬を染めてもじもじしてる。かわいい。
『ぴよ…』―――おいしそう…。
「!?」
フリルさま、売りものだからね。食べちゃダメだからね。
『ぴよよ』―――ユイちゃん…。
「…わ、わかったよ。すみません、このお魚を1匹…。」
『ぴよ?』―――ユイちゃん?
「2匹ください。」
キラキラおめめでお願いされた私。そのかわいさに撃沈…節約しなきゃと思っていたお財布のヒモは…あえなく緩むこととなった。
「はいよっ!まいどありー!」
『ぴよよー!』―――ありがとー!食べよ、食べよー!
フリルさまにせかされて、買い食い用のスペースに駆けこんだ私たち。フリルさま専用のお皿を準備して、メタルフィッシュを並べる…ちゃんと2匹。
「どうぞー。」
『ぴよぴよ』―――やったー!いただきまーす!
くちばしで器用に食べ始めたフリルさま。ちなみにだけど、フリルさまは魔法的な生き物なので、ごはん食べなくても大丈夫らしい。…本当かな。
「じゃあ、私たちも。」
「はい。」
テーブルに広がった香ばしい香りの数々。ガーネット姫が買ったオムライスのケチャップ、私が買った焼きそばのソースと…お団子のしょうゆ。食欲をそそる刺激のマリアージュに、おなかがぐーぐー鳴っちゃう…。
「うふふふぅー、いっただっきまーす!」
「いただきます。」
割りばしをパチンと割…れなかった。
―――折れちゃった…。
真ん中あたりでベキっと折れて、なべぶたみたいなかたちになってる…。力加減、難しすぎる。ついもとの世界と同じ勢いでやっちゃった。
「ユイ…新しいの、いただいてきましょうか?」
「う、うん…えっと、大丈夫。フォークもあるし。」
『ぴよ?』―――ユイちゃん?あ、なおしてあげるよ。
「ありがと…。」
フリルさまの修復魔法を頼り、もう一度慎重に。
「よし。」
今度はうまくいった。片っぽがすっごく鋭利になっちゃったけど、これはいつものこと。不器用な私、うまく割れることの方が珍しいのだ。えっへん。
■
「おいしかったですねー。」
「うん。あ、お団子食べる?」
「私は…もう大丈夫です。」
「そっか。」
おいしいのに。串にささった団子。あまじょっぱい味がやみつきになっちゃう。これで10本目。
―――10本っ!?
慌てて串を数えてみたけど、たしかに9本あった。12本買って、半分はお昼にとっておこうと思ったのに…。
―――まぁ…いっか。
ちなみにおそばの予定、お昼に変更となった。いろいろ見て回ってたら、おいしそうなものがたくさん見つけちゃった結果。それはさておき。
「ねーねー、フリルちゃん。」
『ぴよ?』―――なーに?
「フリルちゃんが王都を苦手な理由って…聞いても良い?」
無理に聞くのも…と思ってそのままにしてたんだけど、この先も王都を訪れることは多いと思う。フリルさまが苦手なら、それなりの方法を考えなきゃいけないし。
『ぴよ』―――苦手ってわけじゃないんだけど…。
「もし、あれだったら、王都に行くとき考えなきゃだし。」
『ぴよよ』―――ありがと。それじゃあ、ボクのうまれたときの話から。ちょっと長くなるけど、良い?
「うん。ガーちゃんも良い?」
「もちろんです。フリル様のお話、私もききたいです。」
『ぴよ』―――オッケー。このままだと話しづらいから、ぴよぴよなしでいくね。
パタパタとテーブルに飛び乗って、左の羽を大きく広げたフリルさま。そうして始まったのは、この世界の昔話だった。




