088 唯、ひとり歩く。
本部ギルドの入口にて。
『すみばぜんでじたーっ!』
ひとめもはばからず、地面におでこをこすりつけているハゼンさん。…痛そう。さっきの魔法の件はもう済んだんだけど、元部下が迷惑をかけたということで…謝られてる。
「いや…それにはハゼンさんは何も…。」
『いえっ…顔を合わせた程度であれ…元部下にはかわりなく…。』
「ク、クロックさん…。」
騒ぎになって人が集まってきちゃってるし…さすがに困って、クロックさんに助けを求めた私。その責任感は素直にスゴイと思うけど、そこまで背負わなくても良いと思う。
「ほら、ユイ殿もこう仰ってくださっているんだから。」
『…そうですか…?あの、ユイ様?』
「はい。」
『魔王軍の実働部隊は、ほとんどが7人衆の指揮下です。全国で悪さをしているのも7人衆の指示である可能性が高く…。これから何度もご迷惑をおかけするかと思いますが…。』
「大丈夫ですよ。デコピン一発ですし。」
素振りをする私。別にこわがらせるつもりはなかったんだけど、腰が思いっきり引けちゃってるハゼンさん。ちょっぴり申し訳ない。
『あの…できればなのですが、私やマーズのように…魔王石を破壊していただけると。魔王への忠誠心が弱まり、現実を受け入れると思いますので。』
「わかりました。ハゼンさんも、無理せず頑張ってくださいね!」
『ひいっ!?は、はい!全力で頑張りますです!』
どうしてだろう、とびっきりの笑顔を送ったつもりなのに…すっごい怯えられてしまった。悲しい。
■
せっかくなので、出口まで一緒についていった私。ヒマワリの町に戻るのもいつになるかわかんないし、聞きたいこともあったりする。
「おかげさまで、ヒマワリの町はどんどんと発展しております。モンスターの大侵攻を迎撃した町…安全な町として、移住者も増え、冒険者の数も増加。過去最高の活気があふれていますよ!」
「良かったですね。」
「はい。冒険者は皆ユイ殿を目指し、日々鍛錬をしております。」
「…。」
実は王都でも、結構ヒマワリの町の話を聞いた。「大魔法使いの加護を受ける町」とか「世界で最も安全な町」とか…いろんな呼ばれ方をしてた。私の肖像画らしきものまで売られてたときは…さすがにびっくりしたけど。
―――絵は…かわいかったし。
…という、なんとも言えない理由によって黙認した。現実はもっとプリティだけどね。えっへん…鏡、かがみ。冗談はさておき。
「あの、カイルくんたちはどうですか?」
目下、一番の心配ごとはそこ。力を求め魔王軍に入りたい…そう願ってた男の子。ハゼンさんの大芝居によって、冒険者の道に進んでくれた。まだまだ幼いふたりだし、いろいろと大変なことも多いと思う。
「ハゼンが手助けしてくれているようで、カイルくんが冒険者になれる日も近いかと。もちろん依頼を受けれるようになるには…まだまだ時間がかかりますが。」
「そうですか。ハゼンさんが…。」
『ご安心ください。おじさん呼ばわりされるのだけはあれですが…それ以外はとても良い子たちですし。』
苦笑いのハゼンさん。そういえば「ハゼンおじさん」って呼ばれてたもんね。
「妹さんの体調も、フリル様の力によって、かなり安定しているようです。王都ギルドから受け取った資料にもありましたが…やはり、何らかの魔法をかけられているとの結論に至りました。調査を進めていくつもりです。」
「よろしくお願いします。」
「それと…あの、ユイ殿の弟子だという元気の良い3人組と…ここに来る道中ですれ違ったのですが…?」
元気の良い3人組…。あ、忘れて…いや、忘れてたわけじゃないけど。腕相撲の後に出会ったオタツさんたちだ。ヒマワリの町を紹介して、クロックさんに丸投げしたんだった…。
「あ…実は、かくかくしかじかで…。すみません、丸投げばっかりしちゃって…。」
「いえ。冒険者を目指すとあれば、門は常に開かれているのがこの世界です。ビシバシ訓練して、一人前の冒険者として送り出しますよ。」
やっぱりクロックさんは頼りになる。もちろんハゼンさんも。
―――この世界に来ちゃったときはどうなるかと思ったけど…ヒマワリの町にたどり着けてよかった。
冒険者という道もひらけたし、ガーネット姫とも出会えたし…バグ以上にありがたかったかもしれない。幻想的な夕焼けに目を奪われつつ、そんなことを考えた私だった。
■
街道から少しそれて、竹林に迷い込ん…もとい、竹林を観にきた私。コーヒーより緑茶派、でもチョコレートとかケーキは大好き…食べ物の好みは和洋折衷。どうも、おやつ大好き22歳、ユイです。
目立たない場所を探してたら、ちょっと気の向くままに進みすぎちゃった。頼れるガーネット姫はもちろん、フリル様もいない。普段の私ならオロオロしちゃう状況だけど…大丈夫。上空からなら絶対に迷わないことを知った私。えっへん。
―――ここなら大丈夫そうだね。
というわけで、帰り道のコース設計を始めた私。とりあえず竹林の上5メートルくらいを想定して、氷魔法を発動。
「台座を出して…と。」
既に台座と呼ばれるようになったドアを取り出し、氷のコースに設置。ちょこんと体育座りで乗り込んで、風魔法を展開する。安全を確認して、一気に加速。
「おぉーっ!やっぱり景色良いよねー、眺め最高!」
夕陽に照らされて、キラキラと輝いている氷のコース。雲は茜色に染まってて、なんとなくお家に帰りたくなる感じ。
―――…。
寂しくなっちゃった。やっぱり…ひとりはダメだね。早くガーネット姫のところへ戻ろうと決めた私。数秒で最高速度に到達した私のジェットコースター。向かうはカエデの町ギルド、ガーネット姫のところ。
―――あ…フリルちゃんも。
忘れてないからね、うん。




