087 唯、作戦にのる。
広めの会議室に通された私たち。ちなみにクロックさんとハゼンさんも一緒。ハゼンさんは懇々と諭したいという理由で、クロックさんは私の「武勇伝」を聞きたいという理由で…。
―――武勇伝って…私、デコピンしてただけなんだよな…。
ホントはちょっぴり格好つけて、魔法で派手に対処したいんだけど…。魔法の力が無限というバグまで発覚した私。魔法を使うと…想定外の被害をうんでしまう可能性がある。そんな事情で魔法はセーブ中。いざとなったら使うけど。
「よしと…拘束完了です。もう逃げられませんので、解除してもらって大丈夫ですよ。」
「わかりました。魔法削除。」
淡い光とともに、魔王軍にかかってた魔法陣が消える。寝ぼけまなこの魔王軍。
『…うぅん…?ここは…。はっ!?お前は!や、やめろ…やめてくれーっ!』
『騒がしい…せっかく眠って…は?』
『その攻撃だけは、その指だけは…!あれ?』
大騒ぎのち、狐にでもつままれたような様子の魔王軍。マーズだけは冷静を装ってる。さすが幹部ってとこかな。
『ここは…ギルドか?』
どうにもならないことを悟ったみたいで、静かな口調で話し始めたマーズ。話を聞き出す話術なんて持ち合わせがないので、ギルドマスターに丸投げだ。私はただ見てるだけ。たまーにデコピンの素振りをしてるけど。ぐへへ。
「質問をするのはこちらだ。なぜカエデの町を襲った?」
『そりゃあ、食料のためさ。魔王様に命じられてね。』
「そんなことはわかっている。なぜ、カエデの町を狙ったのかということだ。」
『さぁね。魔王様に聞いてみたらどうだい?』
何もしゃべんないってわけじゃないけど、肝心なことははぐらかしてくるパターンね。刑事ドラマ結構好きだった私。その程度の知識はある。えっへん。
『あの…ギルドマスター様、少しよろしいでしょうか?』
「はい。」
『ん…?お前はギンガ様…じゃない、ギンガ!魔王様の命に背き、町を守っているそうじゃないか!この裏切り者!』
『…あわれな奴。』
騒ぐマーズに、冷酷な一言を返したハゼンさん。本心からそう思ってるんだと思う。
『憐れ!?それはお前だ!もう魔王軍にお前の居場所などないっ!』
『はぁ…。魔王などにしがみついているとは…。どこまでも救えん。ユイ様と対峙してわかっただろう。お前ごとき…いや、魔王ごときでは手も足もでんということを。』
『貴様!魔王様までも侮辱するか!』
『ユイ様、いつもの…よろしいですか?』
「いつもの…?あ、はい。」
ドカーンやられても私がケロっとしてて、びっくり戦意喪失大作戦ね。了解。…自分のネーミングセンスに悲しさをおぼえつつ、どんとこいのポーズをとる。クロックさんは察して距離をとってくれたけど、アーホルンさんはポカンな状況。このままじゃ危ないので、クロックさんとアイコンタクト。
「アーホルンさん。こちらへ…。」
「は、はぁ…。」
距離は十分。防御魔法で周囲の安全を確保する。壁とか天井が吹き飛びかねないので、結構強めに。
『マーズ、見ていろ。これが現実だ。…地獄炎・無限烈火!』
「へ?」
眩しすぎる光とともに、想定外の大爆発が起きた。防御魔法がなければ、建物ごと吹っ飛んでたと思う。もちろん痛くも痒くもないんだけど…。
「ちょっ、ハゼンさん!」
遺憾の意、その規模は聞いてない。ハゼンさんはというと、そんな私の抗議をてへぺろの表情をもって葬り去った。後からすんごい謝られたけど、さすがにデコピンの素振りをお返ししておいた。まったくもう…。
『どうだ!魔王軍が用いる最上級魔法だ。これでわかっただろう。』
『な…何が…。』
目を白黒させてる魔王軍6人。ハゼンさんの暴走は…効果てき面だったみたい。そりゃそうだよね。自分たちの切り札が…全く効かない。私も自分が怖いもん。人間じゃない認定を半分受け入れ始めちゃった私。
『ユイ様、まだ話したくないそうです。バシッと一発いきましょう。』
満足げな表情を浮かべ、私にキラキラの目線を向けたハゼンさん。ダメ押しをしてほしいみたいだけど、私、そこまで冷酷じゃない。
「はい。」
『ひぃっ!?』
前言撤回。満面の作り笑いをもって、指に力を込める。一歩、また一歩前へ。
『や、やめてくれっ!わかった、わかった、全部話す!』
『どうやって町に入り込んだかも話すか?』
『話す!話すから、その女の子を止めてくれーっ!』
マーズはうなだれた。これで手間が省けそうですよ、アーホルンさん。
「アーホルンさん?」
「…。」
「アーホルンさん、尋問の続きを。」
「…はっ!今、ユイさんが…炎に包まれたように見えたのですが!?でも、ユイさんはそこに…?ど、どうなって…。」
大混乱のアーホルンさん。受け入れてもらうのに数分かかったけど、なんとか尋問は再会された。あ…「女の子」って呼ばれたこと、忘れてないからね。ぐへへ。
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「いやぁ…ユイさん、魔法の力といい…やはりあなたは勇者すら軽く超える存在ですな。」
「いえ。」
私、今サラッと人間じゃない認定されなかったかな。それはさておき、いや、さておきたくはないけど。
「魔王軍の件はもちろん、カエデの町の復興もギルド一丸となって対処しますので、ご安心ください。」
「お願いします。」
ペコリと頭を下げた私。これで一件落着かな。ちなみにカエデの町に救援を出せなかった理由は、結構複雑だった。いろんなルールがあるらしくて、現地のギルドマスターに拒否されると…なかなか難しかったりするそう。王城にも今回の件は報告してもらえるみたいだし、ガーネット姫への書状も書いてもらえた。
ルールが見直される日も近いと思う。もちろん、カエデの町に活気が戻る日も。




