086 唯、ばったりと。
森や川の上、できるだけ人目につかないコース。そこを慎重に選んだつもりなんだけど、やっぱり目立った即席ジェットコースター。
「ママ!お空に橋がかかってるよ!」
「お空に橋…?それは虹って言うのよ。…えっ!?」
男の子のママと目があちゃった。虹じゃないんです…たもとにお宝もないんです…。後ろには魔王軍の6人を山積みにしてるけど。怪しさ満点なので、とりあえずペコっと頭を下げて加速する。
―――目立つだけだから…まぁ。
詳しくは知らないけど…ガーネット姫のお達しによって、私のジェットコースターは王都の関所すら素通りできるらしい。そもそも門の上空を通過してるので、止めようもない気がするけど。
「もうちょっとスピード上げようかな。」
ガーネット姫もフリルさまも乗ってないし。というわけで、風魔法の出力を微調整。
ちなみに私のジェットコースター、コースがちょっぴり進化した。魔法の力までバグってた私。コース製作にも文字通り「無限」のリソースをさけるわけなので、安全性を考慮しての筒状にしてみた。これならどれだけスピードアップしても、飛び出しちゃったり曲がりきれなかったりする心配もない。
―――そろそろかな。
門の上を通過。目指すは王都ギルド。
ちなみに王都ギルドとギルド本部、どちらも王都にある組織だけど…役割が違う。ヒマワリの町のギルドみたく、町や都市に置かれているギルドに該当するのが、王都ギルド。依頼の受注とか、アイテムの買取とかをしてくれるとこ。実務はだいたいこっち。一方のギルド本部は、これらの各ギルドを統括する立場にある。
…ということを、ガーネット姫に教えてもらった。
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―――降りる方法…考えてなかった…。
目立ちまくった結果、王都ギルドの上空で立ち往生。覚悟を決めて、大ジャンプ。
「よいしょーっ!」
ドシンって音が響いたけど、私じゃないからね。魔王軍6人のせてる台の方だからね。…あて先のない弁解を終えて、ギルドの入口へと向かった私。軽い騒ぎになっちゃってるけど、悪いことはしてない…はず。早足で入口にたどり着き、ドアに手をかけようとした…その瞬間。
「痛っ!?なんだ…引くか。」
ドアに走った衝撃に続き、聞き覚えのある声が。
「クロックさん!」
「ん?これはユイ殿!いかがなされました…あぁ…。」
後ろに積み重なってた魔王軍を見て、全てを察してくれたみたい。事情説明の手間は省けた。よっしゃ。
『ギルドマスター、資料受け取ってきました…って、ユイ様!?』
「…ハゼンさん!?」
『はい。魔王軍の元幹部にして、ヒマワリの町の門番兼ギルドマスターの荷物持ち…のハゼンです。』
「そ、そうだったんですか。えっと…お疲れ様です。」
想定外すぎる登場人物に、若干混乱中の私。王都ギルドに用事があったらしいクロックさん、ハゼンさんを連れてやってきたみたい。そこにタイミング良く出くわしちゃった私。
『ユイ様も王都ギルドに御用で…あぁ。』
やっぱり山積みの魔王軍を見て、納得してもらえたみたい。ハゼンさんはというと、憐れむような視線を魔王軍に送ってる…。
「カエデの町で悪さしてたので、ガーちゃんと一緒にベシベシと…。」
主にデコピンで。
「なるほど…あわれな奴…。ユイ殿、ギルドに事情を伝えてきますね。」
「すみません、お願いします。」
特にお願いしたわけじゃないけど、きっと「お願いします」って顔に書いてあったんだと思う。頼ってばかりで…ごめんなさい。
『やはりユイ様にかかると…魔王軍などもはや…。ん?こいつは…マーズですね。幹部7人衆のひとりです。』
「やっぱり幹部だったんですか。」
『はい。しかしまぁ…魔王軍が6人そろって…グーガ―いびきをかいているとは…。』
呆れというより、やっぱり憐れみの視線を向けてるハゼンさん。ハゼンさんみたいに改心して、みんなの役に立ってくれると嬉しいんだけど…そううまくはいかないかな…。
「…7人衆って、何ですか?」
『魔王軍の幹部には序列がありまして、7人衆は魔王、最高幹部に次ぐ序列3位のポジションです。ちなみに私は…一応、最高幹部に名を連ねておりましたので、マーズは元部下にあたりますね。魔王軍の精鋭…なのですが、ユイ様相手だと…えぇ…。』
「なるほど…。」
『ところでユイ様、こいつら起こすことは可能ですか?』
「はい。でも、どうして…?」
逃がそうとしてるかもとか、そういうことを疑ってるわけじゃないんだけど、近くに人もいるし…目立ってるし…。
『ユイ様に歯向かうということが、どれほどに蟷螂の斧であるか…懇々と諭そうかと…。』
「とうろうの…?」
『無駄な抵抗という意味です。まぁ…抵抗にすらなっていなかったかもしれませんが…。』
たしかに。デコピンしたり投げ飛ばしたりしてたのは私で…特に反撃された記憶は。あっ、槍は投げられた…けど、跳ね返したし…うーん。
「お待たせしました。」
「アーホルンさん!すみません、お忙しいところ…。」
「ユイさん…これは…。」
固まっちゃったアーホルンさん。時間が止まったみたく、ピクリとも動かない。クロックさんも耐えきれず苦笑い。
「はっ!失礼しました…。ひとまずギルドのなかへ。魔王軍の連中は…眠ってる…。」
「大丈夫ですよ、私が運びます。」
台ごとひょいっと持ち上げて、ギルドの裏手へとまわった私。やっぱり驚かれたけど…さすがに慣れた。




