084 唯、解決する。
グースカいびきをかいている魔王軍トリオ。逃げられないとは思うけど、念のため魔法で拘束しておく。
―――それにしても…本当に便利だよね、この本。
1ゴールドで買った、冒険の基本書。この世界の大ベストセラーというだけあって、さすがの情報量。調べればだいたいのことが載ってる。魔王軍を発見した場合の対処方法まで載ってたし。「とりあえず逃げてギルドに報告しましょう」ってだけだけど…。
『ぴよよ』―――ユイちゃん、みんな救出したよー!
フリルさまが飛んできた。どうやら作戦は順調みたい。
「さすがガーちゃんとフリルちゃん。」
『ぴよ』―――えへへー。それほどでも…ある!
「あっ!」
空中で鳩胸になって、羽ばたきを忘れちゃったフリルさま。そのままピューって自由落下…。慌てて両手でキャッチした私。
『ぴよ!?』―――危ないっ!?と…飛ぶの忘れてた…。
「だ、大丈夫?」
『ぴぴよぴよ』―――ありがと!よし、このまま行こー!
鳥が羽ばたきを忘れるのって…結構な大問題だと思うけど、そんなこと気にしないのがフリルさま。私のアホ毛という定位置に戻り、右羽を高く掲げてる。影的にはそう見えるけど、本当は違うのかも。頭上って見えないし…あんまり動かすと、フリルさまが、また落ちちゃうし…。
それはさておき、時間をかけると救出に気づかれちゃう。というわけで、半開きの扉めがけての全力疾走。
■
入口手前で急ブレーキをかけて、扉のそばへと抜き足差し足。
―――そーっと…。
扉に右手を当てて、ゆっくりと押す。
―――ん?あ…引くか。
こほん。ゆっくりと引く。
『いやー!ここは最高だな。食べ物でもなんでも手に入る。帰還命令が出たら、全部持って帰るか!ニャハハ!』
今回の親玉、魔王軍のマーズが独特の高笑いをしてた。普通のイスをロッキングチェアのように揺らして、りんごでジャグリングをしてる。危ないし、食べ物で遊ぶなんて。というわけで侵入開始。ただの正面突破だけど。
「お金、ちゃんと払わないとダメですよ?」
なぜかホール内に入っても気づかれなかったので、声をかけてみる。このパターンを想定してなかったので、さっきと似たような文句になっちゃった。
『金?なに言ってんだよー。魔王軍なんだから、そんなこと気にしなくて良いんだ…ん?お前、誰だ?』
気づかれた。あえて鳩胸えっへんのポーズで自己紹介。
「冒険者のユイです。」
『冒険者?まだ冒険者がいたのか?この前逃げていった奴らで最後と思っていたが…。まぁ良い。さぁ、お前たち…かわいがってやんな。』
『了解。』
少し離れた場所にいた、これまた真っ黒コーデのお兄さんコンビがこっちに向かってくる。ひとりは大剣を構えて、もうひとりは鞭みたいなのビュンビュンしてるけど、なんていうか…。
『痛っ!兄貴…当たってるって。』
『あ?』
―――下手…すぎない?
振るった鞭がもう一人にビシビシと当たってる。自分が使ってたコップまで吹き飛ばしてるし…。
『痛っ!?おいっ!私にも当たってるぞっ!ヘタクソ!』
上司にも当たってるし…。
『すみません。日頃のうらみを晴らすチャンスかと。』
『何っ!?』
なんていうか…うん。私は何を見せられてるんだろ…。てか、わざとだったんだ…。
『お嬢ちゃん…ここに来たのが運の尽きだったな!アハハッ!』
鞭と大剣を向けられた私。普通なら絶望的な状況だけど、えっへん私にはバグステータスがある。あ…悪い人相手じゃないと使っちゃダメって言われてたし、一応の確認を。
「フリルちゃん。デコピンして良い?」
『ぴーよ』―――もちろん!
許可、いただきました。というわけで、不用心に近づいてきた長髪の男を捕まえて…。
「気張って行こーっ!」
デコピン1発。
『うぎゃぁぁぁっ!?』
デコピンの力学的エネルギーそのままに、テーブルを巻き込んで飛んで行った。いけない、いろいろと壊しちゃった…。
『な、なんだお前!?バケモノか…?』
「だーかーらーっ!バケモノなんかじゃ…ないってのー!」
振り向きざまの一発が、突進してきたおでこにクリティカルヒット。スピードは力…力は威力。そんなのはお構いなし、指1本ではじき返した私。どうも、バグステータスで物理法則に打ち勝つ乙女、22歳のユイです。
『ほう…やるじゃないか。いくら下っ端とはいえ、魔王軍相手に大立ち回りができるとは…。』
3人いびきかいてて、2人はのびてるけど…大立ち回りってほどの激しい戦闘はしてなかった気がする。デコピンで吹っ飛ばして、もう一度デコピンで吹っ飛ばしただけだし。
―――私って…デコピンしかしてない…。
今更気づいた悲しい事実。これ、アニメとかになるときヤバいよね。…ん?私、なに言ってるんだろ?
『魔王軍の幹部、マーズの力…見せてやんよっ!』
幹部だったんだ。まずそこにびっくり。さっきのなんちゃってコントの影響で、あんまり威厳を感じられない私。
『魔槍!ヘルカウントッ!』
ものすごい勢いで迫ってくる漆黒の大槍。投げられたことにすら気づかなかったけど、特に問題はなし。ポヨンポヨンのおなかで受け止める。
「よいしょー…あっ!」
はじき返した槍が飛んで行って、天井に穴あけちゃった…。雨漏りしちゃう…ごめんなさい。
『な…何が…起きた?』
天井の穴を見つめ、茫然自失といった感じのマーズ。
『くそっ!これなら…。』
「あ、部屋のなかでそんな魔法使わないで!」
見覚えのある魔法に、私の危機管理センサーが反応。あれ、なんとかのなんとかだ。ハゼンさん…もとい、ギンガが使ってた、すっごい炎が出るやつ。あんなもの室内で使われたら、大変なことになる。天井どころか建物ごと吹き飛びかねない。雨漏りどころか雨ザーザー、風ビュービュー。
『うへっ!?』
一気に距離をつめて、マーズの腕と襟をつかむ。そのまま力任せになんちゃって一本背負いを…。
「あらっ!?」
決められなかった。途中ですっぽ抜けて、投げ飛ばしちゃった。ドアを突き破って、ギルド前の広場にめり込んだマーズ。
―――…結果オーライ。うん。
『な、何なんだよ…なんで…私、幹部なんだぞ!魔王軍の最強幹部。冒険者にやられちまった…ギンガのやろうなんかとは違うっ!』
「うーん…あ、これか。」
ごちゃごちゃは無視して、おでこにて石を見つけた私。全身真っ黒コーデでわかりづらかったけど、これが魔王石らしい。
『やめろ!触るなっ!地獄炎ッ!』
黒い炎が巻き散らかされ、私を包む。特に焦ることもない。2回目だし…。熱くもないし、痛くもないのだ。えっへん。
『ニャハハ!これで灰になれっ!』
「はいはい。」
「灰」と「はい」をかけてみました。ドヤ。
『な、なぜだ!?なぜ効かない!』
「うーん…私、バグだからね。」
『やめろ!やめ…ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!』
渾身のデコピンを眉間に1発。魔王石は粉々に砕け散った。




