083 唯、ハラグロ再び。
愚痴たらったらで小石を蹴っ飛ばしてる魔王軍トリオ。食べ物全部とられちゃったみたいだし、気持ちはなんとなくわかる…。食べ物のうらみ、恐ろしいもんね。
『くそっ!食べ物全部持っていかれちまった…。』
『仕方ないよ、兄貴。また奪いに行こう。』
『そうだよ。マーズ様には逆らえないし…。』
励まし合って、再び中心街へ向かおうとしているみたい。これ以上の被害を出すわけには行かないし、ギルド内の状況も心配…ちゃちゃっと片付けよう。私は後ろから声をかける。
「ちゃんとお金持っていかないとダメですよ。」
侮ってもらえた方が楽なので、思いっきり猫なで声にしてみた。ぶりっ子ポーズも決めちゃおうかと思ったけど、その勇気は持ち合わせてなかった私。
―――猫なで声にも…無理があったかも…。
『さっきのガキか?』
『俺たちに…たてつこうってのか?』
すっごい凄まれた。心情的には怖いけど、バグステータスのおかげで今のところ大丈夫。さも当たり前のことを言ってる感を崩さず、そのまま言葉を重ねる私。
「だから、お金払わないとダメですって。」
『うるせーんだよガキがぁぁぁあいたたたたたたたたたたっ!?』
暴言とともに襟をつかまれかけたので、そのまま腕を持ってグイっと。バグステータスにまかせた結果、あらぬ方向に180度くらいひねっちゃった気がするけど…魔王軍相手なので気にしない。このままつかんでても仕方ないので、そのまま地面にドスン。のたうち回ってるひとりを見て、残りふたりが慌てだした。
『てめぇ!何しやがるっ!』
連続で振り下ろされた漆黒の大剣。人間を相手するには過剰すぎる勢いだけど…特に回避もせず、笑顔のまま素手で受け止めた私。回避は…しようと考えたけど、心を折るにはこっちのがはやいと知ってる。ぐへへ。
『はっ…?』
やっぱり砕けた。もちろん大剣の方が。
『ば…ばけもの…。』
魔王軍にだけは言われたくな言葉ランキング、堂々の1位が再来。こんなかわいらしい乙女をつかまえて、ばけものとは…失礼しちゃう…。やっぱり悲しい…悲しすぎて…親指と中指がくっついちゃう。てへ。
「えいっ!もう一丁!」
逃げようとするふたりを左手で順に押さえつけ、右手でビシッ。上からズドンと連撃デコピンを決めた私。華麗すぎるコンボ。力こそパワーによって、地面にめりこんだふたり。
―――カンペキ!
アーホルンさんに教えてもらったんだけど、魔王軍の人たちには「魔王への忠誠」という魔法がかけられているらしい。フリルさまの加護みたいな感じで、魔王の護りみたいなのが働いているそう。簡単に言うと、見えない鎧を着てるような状態で、ダメージなどが軽減されているらしい。
というわけで、本気でバシバシできる。私にとってはちょっぴりありがたい存在。ぐへへ。
「さてと…。」
デコピンの素振りをしつつ、全力の作り笑いを浮かべる私。ぐへへ。ユイ・ハラグロモードがトップギアに入る。
『うぎゃぁぁぁっ!?や、やめろ…やめてくれ…。』
『うわぁぁぁぁぁ…すぴー、すぴー…。』
状態異常魔法、覚えておいてよかった。大の男3人がスヤスヤ寝てる…なんとも言えない状況をつくり出しちゃったけど、これで一安心。デコピンで押し切ってもよかったんだけど、捕まえて連れて行かなきゃいけないことを考慮した。
―――前みたいに塀とかにめり込んじゃうと…取り出すの大変だし…。
えっへん。同じ轍は踏まないのだ。
■
―――裏口で待つガーネット姫
―――…。
いつもユイに頼ってばかりの私ですが…今回ばかりは、ちゃんとしなければなりません。私は冒険者です。責任をもって、自分の仕事を全うしなければなりません。ギルドの職員さんを救出して、安全を確保する。これが私の精一杯です。
―――魔王軍の相手は…まだできません…。
私が出ていっても、足手まといになってしまいます。わかっているからこそ、私は私のできることを全力で。
『ぴよぴよ』―――ガーネットちゃん、開いたよ。
「はい。」
そーっとそーっと…音をたてないように、ドアを開けます。この先には、ギルドの事務室があるはずです。フリルさまの偵察によれば、そこに皆さんが捕まっているとのことでした。
「…。」
ドアが開きました。見える範囲に敵はいません。ギルドの職員さんも…全員無事のようです。ロープで両腕を縛られているようですが、魔法を使えばなんとかなります。
「あっ!助けっ…。」
私と目が合った職員さん…思わず声を上げてしまわれました。これは想定外です。焦ってはいけません。ゆっくり、ゆっくり。
『なんだ?』
声に気づかれてしまいました。…これはピンチです。
『ぴよ』―――ガーネットちゃん、一旦ひこう。
「…。」
ドアをゆっくりと閉めて、聞き耳をたてます。
『どうした?』
「い、いえ。ちょっと足がしびれちゃって…。」
『何か隠してるわけじゃないだろうな…?』
「そんなことはありません。ギルドの職員は7人…ここに全員おります。」
『…静かにしてろよ。』
ドタドタと乱暴な足音が遠ざかっていきました。一呼吸おいて、もう一度ドアに手をかけます。
「…。」
ドアを開き、そのままギルドマスターに視線を送ります。ログさんとは面識があるので、私だと気づいてくれるでしょう。
「…!」
どうやら気づいてもらえたようです。あとは…。
「風の悪戯…。」
風魔法でロープを切断。手のひらを上下して、落ち着いてゆっくりのジェスチャーを。
「フリルさま…。」
『ぴよ』―――おっけー!ユイちゃんに、知らせてくる!
やりました、全員救出完了です。




