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081 唯、りんごを握りしめる。

「うーん…人、いないね。」


商業の町、そのど真ん中だと言うのに、悲しい風音だけが響いてる。お店は営業してるみたいだけど、閑古鳥(かんこどり)が鳴いてた。いや、失礼だけど…かっこうすらいない感じ…。


「ゴタゴタ…ですから、モンスターでも暴れまわっているのかと思いましたが、そんな様子でもなさそうです。…もしかして、またオバケ騒ぎでしょうか?」

「…!?」

「冗談ですよ。」


心臓に悪い。逃げ出す準備しちゃったじゃん。


「お話を伺ってみましょうか。」

「だね。えーっと…あそこの八百屋(やおや)さんに聞いてみよっか。」


店先には大量のりんごが積まれ、特売のポップが(かか)げられている。お店のなかを(のぞ)くと、玉ねぎにじゃがいも、人参、ピーマン、長ネギにしいたけ。色鮮やかな野菜たちが並べられてた。


―――でも…お客さん、いないよね…。


陳列(ちんれつ)を見る感じ、売れた形跡(けいせき)もない。


「あの…すみませーん。」

「は…はい…。」


奥のドアが開き、うつむき加減のおじさんが出てきてくれた。なんだか元気のない様子だし、何かに(おび)えてるような感じもする。


「どうか…されましたか?」

「え…?あ、これはお客さんでしたか。いや、すみません。てっきり連中がまた来たかと…。いらっしゃい。」


おじさんは安堵(あんど)の表情を浮かべたけど、声にはまだ元気がない気がする。やっぱりお店が荒されているって(うわさ)は本当だったみたい。


「あの…連中というのは?」

「お客さん、この町は初めてで?」

「そのような感じでして…。」

「そうですか。愚痴(ぐち)になってしまいますが…。」


おいしそうなりんごを握りしめ、店主さんの話に耳を(かたむ)ける私たち。…りんごは、ちゃんと買います。


邪魔(じゃま)するぞー。』


ドスのきいた重低音ボイスに、身体がビクッとした。若干の恐怖を感じつつ、振り返ってみると。


―――全身真っ黒コーデ…魔王軍(まおうぐん)!?なんでこんな街中に…?


「…。」


無言の店主さん。私たちのことなど眼中にない、そんな様子で商品を物色しだした魔王軍。麻袋(あさぶくろ)のようなものに、野菜や果物を、無言で片っ端からつっこんでいった。時間にして数十秒ほどの出来事。あっけにとられるガーネット姫と私。


『じゃあな。』


なんとそのまま出ていこうとした。慌てて店主さんに目線を向けたものの、うつむいたままの店主さん。…なんとなく事情はわかった。


「ちょっと!」

「お金払ってください!」


魔王軍なんて怖くない私たち。困っている人を助けるのが冒険者だもん。


『あぁっ!?』


ものすごく(にら)まれた。目線は()らさず、じっくりと顔を見てやる。


―――石っぽいのは…ない。幹部(かんぶ)じゃないなら、下っ端かな?


自分のことを()めてあげたいほどの冷静な思考をもって、敵の正体を見破った私。偉そうにしてるけど、きっと親玉にあごで使われてるんだと想像する。


「いえ…良いんです…。」

「でも…。」

「大丈夫ですから。」

「…。」


困った…。店主さんにそう言われてしまうと、引き下がらざるを得ない。釈然(しゃくぜん)としない気持ちはあるけど、ここはぐっとこらえて…。


『ふんっ!また邪魔しにくるからな。』


そんなに格好良くない捨て台詞(ぜりふ)を残して、魔王軍の連中はお店を出ていった。むかーっ!





「すみません…出過ぎた真似をしました…。」


頭を下げたガーネット姫。やっぱり大人なガーネット姫。悪いのはあいつらだけど、店主さんには迷惑をかけちゃったかもしれない。そこは謝らないと…。


「ご…ごめんなさい…。」

「…いえ、私どもが悪いんです。あいつらに荒されるのを恐れて…ずっと黙っていたのが…。いつしかお客さんも怖がって近づかなくなってしまい…このありさまで…。」


商業の町、その中心街だというのに…風音だけがしんみりと響いている。


「ギルドには…ギルドには相談なさったのでしょうか?」

「この町には…冒険者の方がほとんどいらっしゃいません。モンスターの出現エリアからは離れておりますから…。なので、ギルドも名ばかりと言いますか…ええ。」

「そんな…。」

「王都へ願い出ることも考えたのですが…あいつらが魔法(まほう)で目を光らせており、なかなか。少し前に、王都から調査にみえたときも、(おど)されて…。お客さん方もお気をつけください。そば街道(かいどう)ならば、王都の目が行き届く場所です。安全なはずですので、ぜひそちらへ。」

「…。」


とりあえずりんごの代金を払った私。あいつらの分もと思ったけど、店主さんに固辞(こじ)された。これは…なんとかしないと…。

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