080 唯、おなかが鳴る。
「いらっしゃーい!安いよやすいよーっ!」
「カエデ名物『二八そば』、本家はこっち!本家カエデそばですよー!」
「お兄さん!いやー、そばを食べたそうな顔をしていらっしゃる!そんなお兄さんに出血大サービス、いつもなら50ゴールド、今なら48ゴールド!さぁさぁいらっしゃい!」
価格がそんなに変わってない気がする問題はさておいて、活気あふれる街並みが広がってた。ここはカエデの町。商業の町として有名で、この町で買えないものはないとまで言われてるらしい。王都からのアクセスが良いこともあいまって、商売繁盛一直線の様相。
右を向けばおそば屋さん、おそば屋さん、そのまた先にもおそば屋さん。おそば屋さんがエンドレス。左を向いてもやっぱりおそば屋さん、おそば屋さん。とんかつ屋さんをはさんでの、再びおそば屋さん。リバーシの要領でおそば屋さんに染まるのも近い気がする。
「すごいとこだね。おそば屋さんがいっぱい…。」
「はい。そば街道と呼ばれているほどでして、40店以上はあると言われていますが…正確な数までは私も…。」
「お客さんの数もすごいもんね。」
今がお昼どきというのもあるけど、王都以上に人がたくさん。ほとんどのお店に行列ができてて、出前のお兄さんも大忙し。
―――おいしそうな匂い…。
おそばの香りにつられた私。ガーネット姫の手をとって、おそば屋さんの行列へ。…っと、その前に。
「ガーちゃん、おそば食べる?」
「はい。そろそろ良い時間ですし。」
というわけで、私の直感で一番おいしそうなお店をチョイス。10人くらいの列、その最後尾へ。それから待つこと20分くらい。途中からおなかがぐーぐー鳴って、ちょっぴり恥ずかしかった私。
「お待ちのお客さまー、奥のテーブルへどうそー。」
「はーい。」
気もそぞろといった感じで、案内されたテーブルへ。メニューはざるそばオンリー。当たり前のように大盛りを注文した私。フリルさまにはジト目を向けられたけど、今回は笑顔でスルーした。
「それにしても…本当にすごい人ですね。昔からにぎやかな街道とは言われていましたが、ここまでの賑わいは初めてみました。」
「そなの?」
「えぇ。私もこのあたり、よくお邪魔していたのですが、並んでも数人程度だったかと。そもそもこれだけお店がありますし…。」
そう言われると気になっちゃうけど、繁盛してるなら良いことだと思う。閑古鳥が鳴いてお店がつぶれていっちゃうなら問題だけど…そういうわけじゃないし。
「お姉ちゃんたち、この町は久しぶりなのかい?」
隣のテーブルでおそばを待っていたお兄さんに、声をかけられた。すっごいイケイケオーラがあふれてるんだけど…ナンパかな?
「え?あ、はい。私は…数か月ぶりでしょうか。」
「私はじめてで。」
偏見100パーセントの疑いはさておいて、ちゃんとコミュニケーションを。
「そうかい。実は1か月ほど前から、中心街の方でゴタゴタが起きてるみたいでさ…。もし買い物とかに行くんなら、気をつけた方が良いぜ。」
「ゴタゴタ…ですか?」
「あぁ。店を荒しまわってる連中がいるらしくてさ。俺はこの町の人間じゃないからあれだけど、困ったもんだよな。」
「そんなことが…。すみません、わざわざありがとうございます。」
「良いってことよ。おっ!来たきた。ありがと。いただきまーす!」
割りばしをペキッと割って、おそばをひとくちぶんキャッチしたお兄さん。そのままつゆにちょびっとつけて、ズゾゾゾゾゾッと。店内に充満しているおそばの香りに、ほのかにアクセントを添えているわさびの匂い。
―――あわわわわ…おなか空いた…。
まだ注文して1分も経ってないというのに…。お茶を流し込んで、空腹を紛らわした私。やっぱりフリルさまにはジト目を向けられたけど、笑顔を返しておいた。今回はウインク付きで。
■
おそばは…とーーーってもおいしかった。私の食欲センサー…もとい、おいしいものセンサーは健在。
「ユイ!また来ましょう!ここのお店…えっと…『そば屋もみじ』さん。メモを…。」
「うん!絶対来よっ!」
テンションマックスのふたり。かわいらしいピンクの手帳にメモをとるガーネット姫。最初は「並盛りで…。」なんて言ってたガーネット姫だったけど、普通におかわりしてた。え、私?そりゃもちろんしましたとも。…3回。
「ところでさ、さっきのお兄さんのはなし…。」
「気になりますよね…。タンクからは特に何も聞いていないのですが…。」
「お店が荒らされてるって言ってたけど、モンスターが出たとかかな?」
「カエデの町にもギルドはありますが…近くに王都があるという立地もあって、冒険者の数は少ないのです。もしかすると、手に余るような事態になっているのかもしれません。」
もしそうなら、とっても怖い。王都は目と鼻の先だし、応援を頼めば良いんじゃないのと思ったけど、それはいろいろと難しいみたい。
―――ギルドのメンツ…か。
ガーネット姫はなんとも言えない表情で、そう教えてくれた。大人の世界、いろいろと大変。…私も大人だけど。
「とりあえず行ってみましょう。カエデの町は、貿易の要衝でもあります。そこがモンスターの巣窟になるなんてことがあれば、王国全体の危機です。場合によっては、お父さまにも御報告せねばなりませんし…。」
「そうだね。様子…見に行ってみよう。」
こうして私たちは、カエデの町の中心街へと歩を進めた。たしかに歩くにつれて、すれ違う人の数が減ってきた気がする。途中で「魔王軍が」なんて言葉も聞こえてきたので、嫌な予感が重なっていった。




