079 唯、威力を知る。
眩しい朝陽に目を細めつつ、駆け出して3歩。
「ユイ、どこか行きたいところありますか?」
「うーん…そだね…。」
考えてなかった。意気揚々と出発したは良いものの、行くあてがない。王都はここ数日たっぷり満喫したし。ヒマワリの町に帰りたいところだけど、せっかく王都まで出て来てそのまま帰ると言うのも…。
「良ければ、カエデの町に行きませんか?」
「カエデの町?」
「はい。商業の町として有名でして、貿易の窓口でもあります。王都で買えないような物も売ってたりしますよ。」
「いいね!そこ行こうよ。」
「おそばも有名なんですよ!」
「おそば…おそばー!」
行きましょう、行きましょう。全速前進、なんなら氷のコースを作って…。
―――…ん?
「ガーちゃん。そういえば、ジェットコースターは作らなくて良いの?ここ王都だけど。」
「あぁ、えっとですね…。」
「?」
「歩く方が目立たないと気づきまして…。ごめんなさい…。」
「あっ…。」
コホン。徒歩で。
■
王都を出て街道へ入った私たち。旅立の街道とは違って、石畳の舗装がしてあった。行き交う人もいっぱいだし、やっぱり都会だなって感じがする。
「わぁ…大きな川だね!」
目の前には大きな橋。その下には悠然とした流れを感じる川面。幅は…どうだろ、50メートルくらいはありそうな感じ。小舟がゆらゆらと浮かんでて、その上でおじさんが釣り竿片手に居眠りしてる。
「ハナミズキ・タウンの方までのびてまして、そのまま海にそそいでいます。釣りの有名スポットらしいですよ。」
「へー。お魚いっぱいなんだ…。」
―――あぶなっ…よだれが…。コホン…。
「ユイのいた世界でも、釣りはあったんですか?」
「うん。川もあるし、海もあるし。おさしみって言って、なまのお魚を食べたりもするんだよ。」
あいかわらず話題が食にすっ飛んでいく私。流れるような話題転換。私じゃなきゃ聞き逃しちゃう。
「なまですか…?」
「うん。お醤油とわさびをつけて…懐かしいな。」
『ぴよよ』―――なまのお魚、おいしいよ!
「…うん、そだね…。」
早速、川からお魚…もとい、モンスターを捕まえてきたフリルさま。そのまま丸のみ。
―――おぅ…ワイルド…。
『ぴよ?』―――どうかした?
「ううん。何でもない。あ、そうだ。ガーちゃんに聞きたかったことがあってさ。」
「なんでしょう?」
「『魔王石』って知ってる?ギルドの人と話してたときに出てきた単語なんだけど…。」
「魔法…ではなく、魔王ですか?」
「うん。ほら、ハゼンさんのことで。」
「あぁ、なるほどです。魔王石ですね。魔王石は、魔王が使う魔法のことです。『魔王の水晶』とも呼ばれていますね。魔王への忠誠を誓わせるためのものでして、おでこのあたりに黒い石があらわれるため、魔王石…と呼ばれています。魔王軍の幹部クラスには、ほとんどつけられてますね。」
「それがハゼンさんにはなかったんだって。だから、ヒマワリの町へ行くのも許可がおりたみたい。」
アーホルンさんの口ぶりでは、魔王石がなかったので安心…みたいな感じだったと思う。たしかに魔王に忠誠を誓ってるなら、そりゃヤバいよね。
「それは…ある意味ラッキーだったのかもしれません。魔王石をつけられていると、魔王に絶対服従と言われてますからね。ハゼン…さんについてなかったということは、裏切ったりする心配もないとの判断でしょう。…そもそも、ユイを裏切ったらどうなることか…。」
「あ、あはは…。」
「でも不思議ですね。魔王軍の幹部であることは間違いないのに、石をつけられていないなんて…。よほど忠誠心が強かったのでしょうか?」
「うーん。」
確かにそんな感じ、しないでもない。怖い思いさせまくったとはいえ、いきなり私のことを「ユイ様」なんて呼びだしたり、果ては町の門番までしちゃってるし…。やっぱり根は良い人だったのかな。
―――でも…それなら、余計に石つけられるよね。魔王的には、悪いことさせなきゃいけないんだから。
「前お会いしたときも、おでこのあたりにそれらしいものはありませんでしたよね。やはりユイの力を前に、魔王への忠誠心など吹き飛んだということでしょう。さすがユイです!」
「いや、そんな…えへへ。」
思いっきりデコピンしたのと、即席ジェットコースターで振り回したくらいだけどね…。
「あっ!」
「どうしたんですか?」
「その魔王石ってさ…壊れたりする?」
「壊れ…るのでしょうか?わかりませんが、普通は壊れないと思いますよ。魔法でできたものというのは、物理に強いですから。」
バグステータス、またやらかしてしまった予感。
「…私さ、ハゼンさんを捕まえるとき、デコピンしたんだよね…2回。」
「2回…。」
「うん。特に2回目は…思いっきりおでこに…。」
「…。」
気にしない、気にしない。たしかに何かが砕けるような感触あったけど、そんなこと知らなかったし…魔王の支配から解放されたなら、結果オーライ。
『ぴよよ…』―――ユイちゃん…悪い人だけにしてね、デコピンするの。命にかかわるから…。
「…はい…。」




