077 唯、再び大きな声を出す。
「間違いありません!これが『とこしえの杖』です!」
アーホルンさんが指差した先には、この世界に来てすぐに拾ったゴミ…と思っていた木の棒だった。朽ち果てかけていて、今にも折れちゃいそうな枝。
「え…これが…杖なんですか?」
「そうです!ユイ様、これをどこで!?」
「ヒマワリの町のそばです。たしか…地面に突き刺さっていて、それを抜いて…。」
こんなところに捨てるなんて…みたいな気持ちで拾ったと思う。古びた布とか変な色のヒモとかもあったし…てっきりゴミだとばっかり…。
「抜いたのですか!?」
「ひゃいっ!まずかった…ですか?」
あまりの勢いに、ソファにぴったりと背中をつけた私。助け舟を求めたけど、ここにガーネット姫はいない。
「グランドマスター、落ち着いてください。ユイ様が…。」
「あ、これは失礼しました。驚きのあまり…。」
「いえ…あの、それで…?」
「この杖、とこしえの杖は、賢者の素質を持つ者のみが発見できる…伝説級のアイテムです。そして、賢者にふさわしい力を有する者のみが手にすることができます。」
「それは…つまり…。」
「ユイ様は…賢者…。」
わかってはいた。バグステータスだったし、フリルさまにも賢者さまに似てるとか言われてたし…。でも、しっかりと正面から言われると…。
すみません、大きな声を出します。
「えぇーーーーっ!?わ、わたしが…賢者!?」
『ぴよっ!?ぴよよ』―――うわっ!?…だからそう言ったじゃん。
大声のせいで飛び起きちゃったフリルさま。ごめんだけど、さすがに今回だけは許して…。
「そのお姿…まさか…!?」
『ぴよぴよ』―――プリンチペッサ・フリルだよ!
「「フリル様っ!?」」
すごい勢いで控えたおふたり。勢いに押されて私まで控える。
『ぴよよ』―――ユイちゃんにお仕えしてるんだ。
「左様でございましたか。」
『ぴよぴよ』―――だから、ユイちゃんが杖持ってても大丈夫だよね?
「もちろんでございます。」
『ぴよ』―――よかったね、ユイちゃん。じゃあ、ボクはおねむするねー。
「…うん。ありが…と?」
よくわかんないけど、話がまとまったみたい。頭上を飛び回ってるクエスチョンマークは、バグステータスの力でもって吹き飛ばしといた。
「フリル様がお認めになったということは、ユイ様は『賢者』ということになります。そして、『とこしえの杖』は賢者のみに所有が許されているものですので…問題はすべて解決されました。」
「なるほど…?」
「いえ、こちらの話で…。アプリコットさん、本部にも報告をお願いします。」
「わかりました。すみません、少し離席します。」
「はい。」
やっぱりよくわからなかったけど、問題は何もないみたい。よかった。
「あとですね…別件なのですが、魔王軍元幹部の件について一応お知らせを。」
「あ、ハゼンさんですよね。会いましたよ。」
「そうでしたか。まずはお礼申し上げます。ユイ様の迅速かつ的確な対処により、ヒマワリの町への被害はわずかでした。歴史にのこる大偉業です。そしてハゼンの取り扱いですが…さまざまな事情を考慮した結果、ヒマワリの町のギルド預かり…という判断になりまして。ご存知かと思いますが…。」
なんとも言えない表情を浮かべたアーホルンさん。なりゆきをクロックさんから聞いてる私、理由はなんとなく察しがつく。
「…というのは建前でして…。壊した塀を修復しなければならないと騒ぎまして…我々としても対処に困ったというのが本音です…。魔王軍の幹部が、町をなおすなど…考えられない事態でして。しかも報告によれば、門番になり、モンスターと戦っているとか…。」
困惑の度合いを増した表情のアーホルンさん。
―――私も同じ気持ちです…。
いくらデコピン一発で吹き飛ばしたり、即席ジェットコースターに乗せたりしたとはいえ、ハゼンさんは魔王軍の幹部。何がどうしてああなったのか、私もよくわかんない。
「でも、よかったんですか?…ないとは思いますけど、ハゼンさんが裏切ったりしたら…。」
私の前だとへへーって感じだけど、魔王軍の元幹部ということは…結構な大物。町を襲ってくるような魔王軍だし、だましうちみたいなのもやりかねない。クロックさんたちはもちろん強いけど、戦うとなれば分が悪いと思う。
―――まぁ、あの様子なら…大丈夫だとは思うけど。
あの時、クロックさんに全力の謝罪をしてたハゼンさん。それに氷のような視線を向けてたクロックさん。立場は歴然というか…なんというか。そもそもクロックさんは、抜け目のない人だし。
「本部としては、その可能性はないと判断しました。『魔王石』も見つかりませんでしたし。」
「魔王石って…あ、いえ。そうですか。良かったです。」
何ですかって聞きたかったけど、変な疑われ方しちゃっても困るし…。頼りのガーネット姫も今は王城。今度聞いとこ。
「お伝えしなければならないことは以上ですが…何かご質問等ございますか?」
「いえ、大丈夫です。」
「わかりました。何かありましたら、ギルドへご相談ください。」
「ありがとうございます。」
「では、失礼します。」
アーホルンさんが帰られて、会議室にひとりの私。いろいろと衝撃があったけど、謎がちょっとだけ解けた。
―――杖、持ってたんだ。私。
杖っていうくらいだから、てっきり構えるもんだと思ってたけど…。「とこしえの杖」とやらをじっくりと眺める私。杖に失礼かもしれないけど、やっぱりただの枝にしか見えない。バキッとかやっちゃうとヤバいので、丁寧に丁寧に収納。
「失礼します。お待たせしました。連絡しておき…あれ?」
「ど、どうも。」
「ユイ様、すみません…アーホルンさんは…?」
「さきほど…帰られましたけど…。」
「また私を置いて…ん…もうっ!グランドマスターなのに、いっつも勝手に行っちゃうんです!子どもじゃないんだから…。あっ…すみません…失礼しました…。」
「いえ…。」
顔を赤らめて、そのままプンスカしながら駆け出したアプリコットさん。…何も言えないです…はい。




