076 唯、節約を考える。
ノスタルジーな夕陽に目を細めつつ、優しい風を肌で感じてる。門前には横づけされたレトロな馬車が待ってくれてる。お高いドレスも着てるし、お姫さま気分を満喫中の私。
「ユイ様、こちらへどうぞ。」
「すみません…お願いします。」
お待たせしまくりの申し訳なさで、ペコペコしながら馬車に乗り込んだ私。出口まで数メートルというところで、トイレに行ったのが運の尽きだった。ものの見事に迷子になり、あっちへこっちへの大冒険が始まっちゃった。結果3分もかからない道のりに、30分以上かかった私。ごめんなさい…。
ゆっくりと動き出した馬車。気を取り直して、髪飾りのあたりに左手をかざす。
『ぴよ』―――よいしょっと!
私のふとももに乗って、ぽよんと大きさを取り戻したフリルさま。理由はわかんないけど…どうやら王城は苦手みたいで、髪飾りのあたりにずーっと隠れてた。
「夕陽、きれいだよ。」
『ぴよよ』―――ほんとだー!ユイちゃんって、意外とロマンチックだよね。
「意外とは余計だよ…。」
『ぴよ?』―――そなの?景色よりも食欲派だと思ってた。
「うぐっ…。」
邪気のない一言にメンタルを攻撃された私。当たってるから余計にダメージがおおきい…。
『ぴよぴよ』―――でも良かったね。また一緒に冒険できるようになって。
「うん。やっぱりガーちゃんと一緒のが楽しいもん。」
『ぴよ』―――ボクもお友だちに会いたいなー。
「フリルちゃんのお友だち?」
『ぴよよ』―――王都のそばにいるんだけど、なかなか会えないんだよねー。
「そうなんだ…。」
『ぴよぴよ』―――あ、気にしないで!ボクは転移魔法だって使えるから、どうしても会いたいときはすぐに行けるし。
「…無理してない?」
『ぴ、ぴよ』―――して…ないよ。
そう言って静かになっちゃったフリルさま。やっぱり寂しいよね。ずーっと禁足地の祠にいたんだし、会えてもタケノコの村長さんくらい。
―――お友だちに…会えると良いね。
優しくフリルさまのアホ毛に手をかざした私。安心したように目を閉じたフリルさま。センチメンタルな雰囲気…だったけど、迎賓館に着くころには「ごはんだー」ってピヨピヨ飛び回ってた。元気そうでなにより。えへへ。
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「到着でございます。」
「ありがとうございました。よいしょっと…。」
馬車はちょっと高さがあるので、御者さんに手を貸してもらった。ダンディなおじさまで、ちょっぴりドキっとしたのは内緒。
「ユイ様、おかえりなさいませ。」
「ただいまです。ユミさん。」
『ぴよよー』―――ただいまーっ!
すっかりいつもの調子なフリルさま。ユミさんにはただの鳴き声として聞こえているみたいで、愛でるような優しい笑顔が返ってきた。
「ユイ様、ギルドの方々がおみえになっております。お会いになりますか?」
「ギルドの…?あ、はい。お願いします。」
私のスキルのこと、聞いてもらってたんだった。ドレス姿のままだけど、そのまま会議室へと直行。迷子の影響がこんなところにまで…ごめんなさい。
「すみません…お待たせしました。」
ユミさんに開けてもらったドアから、頭を下げつつ部屋の中へ。相変わらず内面までは伴わなかった私。スタスタならともかく、ドタドタバタバタという効果音とともに…。
「…あ、いえ。はじめまして、王都ギルドのアーホルン=スタンプと申します。」
クロックさんとはまた違った威厳ある白髪の男性。青地に銀色の線が入った制服に身を包み、右胸には燦然と輝く勲章がたくさん。ひしひしと伝わる偉い人オーラに圧倒される私。
「ギルド本部で事務局長をしております。アプリコットです。」
アーホルンさんの隣でペコリと会釈した女性。雰囲気はとても似ている制服だけど、金色の紋章が右肩のあたりに輝いてる。王都ギルドとギルド本部、違いはよくわからないけど、きっとすごい組織なんだと思う。
―――なんだか…すごい…。
いろいろと語彙力が崩壊した私。とりあえず自己紹介を。
「はじめまして。冒険者のユイです。」
「魔法会議より要請のありました件について、調査結果をお持ちしました。ご確認のほど、よろしくお願いします。」
「ありがとうございます。」
アプリコットさんから手渡された「スキルに関する報告書」と題された資料。ペラペラとめくりながら頭をひねってたところ、アーホルンさんが説明してくれた。
―――
ギルド本部情報調査局は、魔法会議より要請を受けた別紙の件につき、次のように報告する。
・慈悲深き天恵・真
・炎夏の宴と極光の白夜
・燻る覇・纏う覇
・自壊する才賢
・目途なき岐路・大地の調べ
・目途なき岐路・天空の調べ
上記6個のスキルについては、記録が存在しない。よって、現在未発見のスキルと判断する。
・才媛の護り手
Aクラス以上の敵から、仲間を救った者が獲得できる。パーティーメンバーのダメージを肩代わりすることができる。肩代わりできる割合については、スキルのランクにより異なる。
・とこしえの魔導書
管理指定装備「とこしえの杖」を所持している者が獲得できる。魔法の力の許す限り、すべての魔法を使うことができる。
以上、報告する。
―――
「結論から申し上げますと…ユイ様のスキル、そのほとんどがギルドが保有する記録にも存在しませんでした。存在が確認できたものは2つです。『才媛の護り手』については、ユイ様がガーネット姫殿下をオオイノシシから救出された旨の報告を受けておりますので、おそらくはその時に。」
「あの時に…。」
「オオイノシシはエリアボスに指定されているモンスターでして、当然ながらAランクのモンスターです。問題はですね…『とこしえの魔導書』の方でして…。」
難しい表情に変わったアーホルンさん。少し間がおとずれたので、報告書に視線を落としてみる。
―――とこしえの杖を所持って…。私、が持ってるのは、さっきもらった杖だけのはずだし…。
「ユイ様、とこしえの杖…お持ちなのでしょうか?」
「えっと…私の杖は、さっき国王さまからいただいた、この杖だけだと思うんですが…。」
「拝見します。」
両手で杖を支え、ジッと見つめているアーホルンさん。
「うむ…これは素晴らしい杖ですね。…しかし、これはとこしえの杖ではありません。他に、何かお持ちのものはありませんか?」
「そうですね…とりあえず全部出してみます。」
さすがに食べ物とかプライベートなものまでは出さなかったけど、片っ端からテーブルに並べてみた。そして並べてみてびっくり。服買いすぎ問題。
―――節約しないと…。
金銭感覚までバグってしまっては困る。バグはステータスだけで十分というもの。
「失礼します。私が。」
さすがに女の子の服ということで、アプリコットさんが調べてくれた。確認が済んだものから、ポンポンと収納していく私。テーブルに空白地帯が目立ってきたその時。
「こ、これはっ!?」




