074 唯、フラグをへし折る。
『ぴよよ』―――…というわけで、魔王にもダメージが与えられるんだって。
「なるほどです…。フリル様、ありがとうございました。」
『ぴよ』―――いいよー。いつでも聞いてね。
ハトじゃないけど鳩胸になったフリルさま。右の羽で器用に胸をポンっと叩く。かわいい。ちなみに私、ちんぷんかんぷん…開始3秒くらいで無理を悟った。真剣な表情だけ維持して、フリルさまのアホ毛を見つめてた。
―――絶対フリルちゃんの方が頭良いよね…私より…。
辛すぎる現実…。それは善処するとして。
「それじゃあ…力押しでもなんとかなるんだね。」
『ぴよよ…』―――ユイちゃんの力ならね。普通は無理だよ…。
「あ…やっぱり…。」
バグステータスはやっぱり常識を超えてた。
「私はこのことを、お父さまに知らせてきますね。この部屋は大丈夫なので、ゆっくりしていってください。」
「うん。ありがと。」
ドレス姿でペコっと会釈してくれたガーネット姫。同い年の友だちなのに、なんだかとっても大人に見えた。…いつものことだけど…。
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「フリルちゃん…私、魔王やっつけようかな…?」
ポロっと考えていたことがこぼれちゃった。慌てて取り繕おうとしたけど、間髪を入れず、フリルさまの反応が続いた。
『ぴよぴよ』―――ユイちゃんならできるけど…放っておいてもなんとかなるかもよ?
「ふえ?」
『ぴよよ』―――この前さ、元魔王軍のひと来たじゃん。ハゼンさん。
「うん。」
『ぴよぴよ』―――ユイちゃんの強さが広まったら、魔王軍を辞めるひとたち続出すると思うよ。ユイちゃんと戦うってなったら、ボクでも逃げ出すもん。
「そなの…かな?」
『ぴよよ』―――ユイちゃんは、魔王軍なんて許さないぞー、って顔してたら大丈夫だと思うよ!そもそも勇者さまのお仕事だしね…。
「そっか。そだよね。」
『ぴよ』―――もちろんユイちゃんが魔王をやっつけるー、って言ったら、ボクは全力でサポートするからね!
「えへへ、ありがと。すっごく心強い。」
またまた鳩胸のフリルさま。かわいい。…コホン。最近は立ち位置が妹になりつつあります。ガーネットお姉ちゃんにフリルお姉ちゃん…どうも、末っ子ポジション全速前進。22歳のユイです。
「あの…ユイさん。」
「タンクさん。どうかされましたか?…あ、移動した方が良かったですか?」
「いえっ!ユイさんには、王城内を自由に移動して良いとのお達しがでておりますので、ご安心ください。」
「はい。ありがとうございます…?」
「あの…これは衛兵としての私ではなく、タンクという個人からの言葉として、受け取っていただきたいのですが…。」
―――…!?
こ、これは…!フラグだよね。告白…?嘘、そんな感じぜんぜんなかったのに。あ、でも…お手紙のすみっこでやりとりはしたっけ。落ち着け私、タンクさんってパパくらいの年だよ。いや、でもそういうのに年齢は関係ないって言うし…。
「私…。」
「わ、わたし…?」
「私に魔法を教えていただけないでしょうか!」
「…あ、えっと…その…。」
ですよねー。はい、フラグはちゃんとへし折って片付けました。掃除機もあとでかけときます。
「私…姫様を守るべく、鍛錬を積み重ねて参りました。しかし…恥ずかしながら、今では姫様にレベルを越えられてしまい…このままでは、どちらが守っているのか…。」
ガーネット姫のレベル、たしかにたくさん上がってると思う。底なしの池への道中、モンスターをなぎ倒し続けるという…強引なレベル上げみたいなことしちゃったし…。あんまりそういう話しないからわかんないけど、私のレベルが今39。それを考えると…35くらいかな。
「でも…レベルじゃないと思いますよ。タンクさんは衛兵さんだし、レベル以上の強さがあるじゃないですか!」
「それは…そうなのですが…。」
基本書パラパラしてて知ったんだけど、レベルはモンスターを倒すことでしか上げられないそう。ゲームみたく、モンスターを倒す、経験値を得る、レベルアップ…という流れ。
衛兵さん…特にタンクさんのように、要人警護にあたっている人は、モンスターと接触する機会が少ない。暴漢や刺客からガーネット姫を守らなきゃいけないから、対人制圧術とかに重きを置いていると思う。結果、レベルアップはゆっくりにならざるを得ない。
―――レベルが攻撃力に直結してるわけでもないし…。
バグステータスの私はよくわかってなかったけど、攻撃力や防御力は、それに応じた訓練をしないとうまく上がらないらしい。魔法使いであるガーちゃんが、たまに剣を使ってるのは、ステータスのバランスをとるためだったりする。
そうは言ってもレベルの恩恵は凄まじいものがあって、レベル差が10くらい離れると…基本的には勝負にならない。
―――そう思うと、私の冒険者試験…。
当時レベル60だったクロックさん。対する私、レベル1…。
「お願いします。あのオオイノシシ…再びあらわれたとしたら、今の私でも止めることができません。ユイさんの魔法は、魔法会議の方々が驚きの声をあげられるほどと聞いております。私に…魔法を教えていただけないでしょうか!」
「タンクさん…。」
今回ばかりは、クロックさんを頼るわけにもいかない。タンクさんは衛兵さん。国王さまのそばを離れるというのは…難しい。あーでもないこーでもないと考えていると、部屋の扉がゆっくりと開いた。
「タンク。」
「ひ、姫様…申し訳ありません。立場をわきまえず…このようなことを…。ユイさん、申し訳ありませんでした。」
「怒っているわけではありませんよ。」
「いや、しかし…姫様の大切なご友人、ユイさんに不躾なお願いを…。」
「では…罰として…月に数回、ヒマワリの町にて冒険者として活動することを命じます。」
「ははっ!…え?」
ガーネット姫が下した「罰」という名の…えへへ。さすがガーネット姫。ただ…肝心のタンクさん、意図をつかめないみたいで、ぽかんとしてる。にぶにぶさんなんだからー。
「わー大変だー。ヒマワリの町の周りにはたーくさんモンスターが出ますからね…冒険者としてモンスターと戦わなきゃいけないですよ…。望まなくても経験値たくさん、レベルもたくさん上がっちゃいますよー。」
棒読みにとっておきのウインクを添えて、説明という名のアシストを。
「姫様…!タンク、姫様が下された『罰』、謹んで…全力でやり遂げますっ!」
「えぇ、『罰』ですから当たり前です。この王国を…しっかり守ってもらわなければなりませんからね。」
「ガーちゃん…ふふふっ。」
「コホン。お父さまには私からお願いしておきます。ヒマワリへの地下通路も使って良いですから。あと、もし余裕があれば…他の衛兵さんも連れて行ってあげなさい。」
「ははっ!」
そのまま駆け出して行ったタンクさん。また少しヒマワリの町がにぎやかになると思う。えっと…クロックさんに足を向けて寝れなくなりそう…。いや、もうなってるよね…ごめんなさい。




