073 唯、常識を知る。
「皆さま、落ち着いてください。魔王は『勇者の剣』でなければ倒せないとされています。」
ガーネット姫が助け船を出してくれた。てか、そうなんだ。私てっきり…力押しでなんとかなるもんだと思ってた。力こそパワー。
「そうでございました…。すみません、何度も取り乱しまして…。」
「ユイ様、大変失礼いたしました…。」
「いえ…。なんだかすみません。」
がっかりした雰囲気に、ちょっぴり気をつかう私。大人な対応、絶賛勉強中。22歳のユイです。
「いえいえ、そんなことはありません。ユイさんの魔法は、それだけでも素晴らしいものですから。」
「その通りです。学会でもそんな魔法はだれも使えない…などと言われてきましたが、私の研究もついに日の目を見そうです。後ほどリストにまとめてお届けいたしますので、もしよろしければお試しください。」
「すみません。ありがとうございます。」
どうやら魔法を教えてもらえるみたい。これは素直にうれしい。大災害にならないよう、力加減は気をつけないとね…。
そんなこんなで魔法会議は散会。私のスキルについても伺ってみたんだけど、調査が必要とのことだった。ここ数十年の記録にはないスキルらしくて、ギルドにも問い合わせてもらえることにはなってる。
―――やっぱりバグの影響だよね…。
魔法の力を自分で設定したことはない。逆に言うと、設定しなかったから無限なんていう…大変なことになっちゃったのかもしれない…。スキルも設定した記憶ないし…。
異世界に来るときは、しっかり設定画面を確認しよう。絶対に使わないであろう、そんな教訓を得た午後だった。
■
「ユイ、大丈夫でしたか?お疲れですよね。」
「大丈夫…じゃないかも…。ちょっと疲れちゃった…。」
「ですよね。普段は冷静沈着な先生方なのですが…。さすがにユイの衝撃は強すぎましたね…。」
ガーネット姫のお部屋で休ませてもらってる私。横でフリルさまがよしよししてくれてる。羽先がひんやりしてて、とっても気持ちいい。
「でも…ユイがちゃんと『疲れた』って言ってくれて…うれしいです。」
「ふぇ?」
「大丈夫、大丈夫って…無理しちゃだめですよ。」
「ガーちゃん…うん。ありがと。」
とっても優しい「お姉ちゃん」です。
『ぴよ』―――でも、魔力が無限はさすがに驚いたよー。―――
「私もです。とんでもない数値が出るとは思っていましたけど、想像の斜め上でした…。」
『ぴよよ?』―――なにがどうしてそうなったの?―――
「うーん…わかんない。」
『ぴよ』―――うーん、そうだよねー。―――
「ところでさ…フリルちゃん、お城の人たち苦手なの?」
お城に着いてからついさっきまで、ずっと姿を消していたフリルさま。何か事情があると思って声はかけてなかったけど…。
『ぴよ』―――いろいろと事情があるんだー。―――
「そっか。フリルちゃんも大変だね…。」―――
『ぴよ』―――うん…。―――
やっぱり事情があったみたい。無理して聞き出すようなことじゃないし、王城に来る機会もそんなにないだろうし…誰だって言いたくないことのひとつやふたつ、あるもんね。
「ユイ、魔王の件ですが…気にしないでくださいね。」
「うん。大丈夫。あ、今回は本当に大丈夫なやつね。それに知らなかったよ…魔王って『勇者の剣』じゃないと倒せないなんて。」
そういえばゲームとかで、そんな感じの設定みたことある。特定のアイテムを使わないと倒せなかったりとか。スマホ片手に攻略サイトで調べたり…ついこの前のことなのに、なんだか懐かしく感じちゃう…。
―――スマホ…未読たまってるよな…。
もとの世界の私、今どうなってるんだろ。できるだけ気にしないようにはしてたけど、やっぱり気になる。パラレルワールドみたいな感じで、普通に生きててくれたらうれしいんだけど…。
『ぴよ?』―――勇者の剣?―――
「はい。勇者の証を持つ者に授けられる、この世界における秘宝のひとつです。魔王を倒すために必要なものとされていて、今は勇者様が持っておられます。」
「それがないと倒せないんだって。厄介だよね。」
勇者さまも大変だよね。魔王を倒せるかどうか、たったひとりの手に委ねられてるなんて…。
『ぴよ』―――そんなことないよ。―――
「…ふえっ!?あわわぁぁ…。」
想定外の言葉にびっくりして飛び起きちゃった私。あららら…たちくらみが…。
『ぴよよ』―――多分、勇気の剣のことだと思うんだけど…。あれは攻撃力倍化の特性を持ってるだけで、特別な魔法がかかってるとかじゃないし。―――
「そ、そうなのですか!?」
ガーネット姫もびっくり。無意識ながらこの世界の常識をひっくり返したフリルさま。これはまた大騒ぎになっちゃいそうな予感。
『ぴよ』―――だって、その剣を使わないと対抗できないんだったら、ボクの力じゃ防げないことになっちゃうじゃん。魔王の攻撃。―――
「た、たしかに…。」
『ぴよよ』―――だから、ユイちゃんなら普通に倒せるよ。そもそもボクの加護だって、ユイちゃんなら破れるし。―――
「そなの!?」
『ぴよよ…』―――ボクの氷、壊してくれたじゃん…。―――
そういえばそうだった。でも…これ、まずくない?知られちゃったら、私…。
「ユイ…。」
真剣なまなざしを向けたガーネット姫。ほらほら、そうなっちゃうよね。
「安心してください。ユイの自由は、私が守ります。国王家に名を連ねるものとしては…間違っているかもしれませんが…。それ以前に、私、ユイの友だちですからね。」
「ガーちゃん…。」
いつもの優しい微笑みに戻ったガーネット姫。うれしい。とってもうれしいんだけど…ちっぽけな勇気が湧いてきた私。まだ、宣言とかはできないけど…もし、ちゃちゃっとできることなら…友だちのために、みんなのために…この力を使いたい。
―――魔王との戦いってのも…小説に入れたいもんね。
せっかくの異世界、小説のアイデア探しが当面の目的だったし。無理せずがんばってみよ。
「フリル様、そのお話、もう少し詳しくお伺いしたいのですが…。」
『ぴよ』―――いいよー!昔の賢者さまからの受け売りだけどね。―――
「よろしくお願いします。」
フリルさまの話を真剣に聞く私たち。傍から見ると、ぴよぴよ鳴いてる鳥さんを真剣なまなざしで見つめるふたり…という構図。タンクさんには何も言われなかったけど…きっと怖かったと思う…。




