072 唯、後ろに隠れる。
それからしばらくして。
「す、すみません。取り乱しました。いえ、あまりに非現実的な事態に…心が追いつかず…。大変に失礼しました。」
「いえ…。私の魔法がおかしいせいですよね。ごめんなさい。」
「しかし…これほどの魔法を使われるとなれば…モンスターの大侵攻など敵ではありませんな。魔王軍の幹部など、魔法で右から左といったところでしょう。」
「えっと…。」
右から左というか、デコピン一発。
「どうですか、皆さん。これがユイの力なのです!」
えっへんと鼻高々のガーネット姫。申し訳なさで小さくなってる私。
「はい…恐れ入りました…。あの、ユイさん。一体、どれほどの魔法の力をお持ちなので?これほどの氷魔法など、歴史書にも出てこないレベルでございます。」
「魔法の力…ですか?」
「えぇ。史上最強と名高い2世代前の賢者が、およそ1000と記録されております。おそらくはそれに匹敵するクラスかと。」
「あの…実はわからなくて…。」
魔法の力…いわゆるMP、マジックポイントが存在することは知ってたけど、私のステータスに表示されない。クロックさんやガーネット姫にも聞いてみたけど、普通はステータス画面で確認できるみたい。あいかわらず普通じゃない認定されまくりのバグステータス。
「…?」
案の定、どういうことですか?みたいな顔をされちゃった私。ガーネット姫、《《出航》》をお願いします。
「実は、ユイのステータス画面にはMPが表示されていないのです。不思議なことですが…。」
「そのようなことが…。わかりました。たしか魔法器具の倉庫に、ステータスを計測する機械があったと思いますので…そちらをご用意いたします。」
そんなこんなで屋内へ。迷惑だと思ったので氷塊は消したんだけど、それはそれで驚かれてしまった昼下がり。
■
「失礼します。計測器、お持ちしました。」
タンクさんが重たそうな機械を運んできてくれた。衛兵さんなのに大変だなと思ったけど、それだけ信頼されてるんだなとも思った。だって、宝物庫に出入りできるなんて…普通無理だもんね。
「ありがとうございます。では、ユイさん。こちらに手をかざしていただいて…。」
「はい。」
緊張の瞬間。アイン先生に促されるままに、右手をかざす。計測器と呼ばれている道具は、琥珀色をした石板のようなものだった。
―――な、なんだかくすぐったい…。
石板が光を放ったと思ったら、右手がソワソワした。すぐにおさまったけど、変な声が出ちゃいそう…。
「計測結果がでました。読み上げてもよろしいですかな?」
「はい、お願いします。」
「ではツヴァイ。よろしく頼むぞ。」
「先生、かしこまりました。」
再びおとずれた緊張の瞬間。ちらっと見た感じ、攻撃力とかも表示されてた。驚かれるよね、絶対。
「攻撃力…9999!?」
「「「きゅーせんきゅーひゃくきゅーじゅーきゅうーっ!?」」」
―――はい…。
「防御力…9999…。」
「「「きゅーせんきゅーひゃくきゅーじゅーきゅうーっ!?」」」
―――すみません…。
「魔法の力…。」
「ま、まさか魔法の力も…?」
この流れだと、たぶん9999だよね。さっき賢者さまが1000くらいって言われてたから…うん。また驚かれちゃうよね。
「すみません…これ、なんと読むのでしょうか?」
「え?」
「どれどれ…これは…?0がふたつ…いや、くっついておりますな。数字の8を横に傾けたような…?」
―――そ、それって…。
■
行く末を察し、小さくなっている私。ガーネット姫も察するところがあったみたいで、私の隣で優しい微笑みを浮かべてる。あの、後ろに隠れてても良いですか…?
「お待たせしました!算学の大系書です。王立図書館より借りて参りました。」
「おぉ、さすがコート先生。この書物ならば、この数字の意味もわかるでしょう。」
―――あぁ…時間の問題だ…。
世の中には謎のままにしておいた方が良い…そんなこともあると思う。主に心拍数安定のために…。
「むむっ?これではありませんかな?…どうやら記号のようですな。えっと…329頁…。」
「どれどれ…?」
「この記号は無限、すなわち限りのないことをあらわすものである。算学の世界では…?…これは…つまり…。」
「つまり…?」
「ユイさんは…あらゆる魔法を何度でも使うことができるということですっ!」
「「「あらゆる魔法をっ!?」」」
「はいっ!」
「「「何度でもっ!?」」」
一瞬の静寂がおとずれた後、上を下への大騒ぎが始まっちゃった。さらに小さくなって、そっとガーネット姫の後ろに隠れた私。もちろんすぐに見つかって、ご丁寧に会議の真ん中へと連れていかれましたとさ。はぁ…。
「ユイさん!あなたは素晴らしい!」
「いかなる魔法でも使えるとは…これは魔法学における大発見でございますぞっ!」
「もはや魔王など恐れるに足らず!」
困った。このままだと、魔王とやっつけてください…とか言われちゃう。バグステータスである以上、それは仕方ないのかもだけど…私、できればガーネット姫と楽しく冒険してたいんです…。
「ユイさん…いえ、ユイ様。どうか、魔法学発展のため、そのお力を!」
「いや…魔法学よりもまず、魔王を討伐していただくことが何より。ユイ様、お願いいたします!」
「あの…私は…。」
どうしよう…。




