071 唯、実演してみる。
これまたサッカーができそうな大きさのお部屋。巨大すぎるテーブルと十数脚の椅子、アニメで見た景色とデジャヴする。ガーネット姫の前には、片膝をついて控える十数名の先生方。深い青色のローブが威厳を放っていた。…私はというと、ひとまずガーネット姫の後ろに隠れて小さくなってる。
「ガーネット姫殿下。本日も御機嫌麗しく、恐悦至極に存じ上げます。重ねまして、当会議への御臨席…衷心より御礼申し上げます。」
「アイン先生、ご無沙汰しております。本日はよろしくお願いいたします。皆さまにご紹介します。私の友人、魔法使いのユイです。」
「は、はじめまして。冒険者のユイです。本日はお日柄も…じゃなくて、本日は、よろしくお願いします。」
盛大に噛んだ私。いや、噛んだんじゃなくて間違えちゃった…。迎賓館のスタッフさんにお願いして、あんなに練習したのに…とほほ…。
「…ユイさん…ユイさん!?あの、ヒマワリの町を救った英雄でございますか!?」
「なんとっ!モンスターの大侵攻をものの数分でおさめたという…あの。」
「世界最強の魔法使い!当会議へご参加いただけるとは…光栄の極み!」
「我が故郷、タケノコの村も救ってくださったとか…。お礼申し上げます。」
少し慣れたとはいえ、むずがゆい気持ちが心を覆っちゃう。自分の努力を称えられるならまだあれなんだけど…バグのおかげであって、私、何もしてないし。
「それにしても…英雄ユイさんが、ガーネット姫殿下のご友人であられたとは…。さすがガーネット姫殿下、ご交友関係も超一流でございますな。」
「冒険者となり魔法を学ばれ、町の防衛にご尽力され…いやはや、やはり素晴らしいお方。陛下もさぞ御喜びのことと。」
その後も歯の浮きそうなセリフが続いた。これはこれで大変だと思うんだけど、ガーネット姫は優しい微笑みで返してる。大人な対応、さすが…。
「皆さま、本日はユイの魔法について、ご意見をお伺いしたく…どうぞよろしくお願いします。」
「よろしくお願いしましゅ。」
―――うわっ、やっぱり噛んだ…。ば、ばれてないかな…ぎりぎり…いけた…?
「もちろんでございます。魔法会議としても、英雄ユイさんのお話は傾聴すべきものでございますので。」
そのまま案内された椅子に座った私。ちょっとひんやりと感じる背もたれに、ふと現実感を取り戻した。まだ緊張はしてるけど、地に足はついてる感じ。大丈夫。ガーネット姫もいるし。
「お話の前に、まずはユイさんの魔法を見せていただきたいのですが…よろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです。」
「ありがとうございます。では、あちらの的に向かってお願いします。」
指示された先には、ダーツボードくらいの的があった。でも…ひとつ問題が…。
「あの…ここ、室内ですけど…大丈夫なんでしょうか?」
「ご心配なく。防御魔法も展開してありますので。」
いや、絶対危険だと思う。力加減、少しできるようになってはいるけど、大雑把な調整しかできない。学者先生に怪我でもさせちゃったら一大事だし…。
―――ガーちゃん…助け船を…。
出航依頼しっぱなしの私。
「皆さま。せっかくの機会、より強大な魔法の方が良いかと存じます。外の訓練場があいておりますので、そこでというのはいかがでしょうか?」
「なるほど…さすがガーネット姫殿下。それがよろしいですな。では皆さん、移動しましょうか。」
というわけで場所を移動することが決まったみたい。助かった…。
「ガーちゃん…ありがと…。」
「いえ…王城が吹き飛ぶのは避けなければなりませんので…。」
「そ、そだね…。」
そうそう、安全第一。なんだろ…目から汗が…。
■
屋外訓練場はとっても広かった。野球場くらいの広さがあって、改めて異世界のサイズ感に驚かされる私。
「この広さならば大丈夫ですな。ユイさん、全力の魔法をお願いします。」
「は、はい。あの…もう少し下がっていただけると…。」
広いとはいえ、何が起きるかわかんない。最近はモンスターと戦ってないし、手もとが狂っちゃったら大惨事。全力は絶対にやめよう。
「わかりました。…この辺りならよろしいでしょうか?」
「あの…えっと…。」
「皆さま、もう少し後ろの方がよろしいかと。」
「100メートルもあれば十分だと思いますが…姫殿下がおっしゃるのであれば…。」
陸上競技が開催できそうな距離ができた。これで大丈夫なはず。とりあえず、規模感がわかっている魔法をということで。
『孤高の氷結界…極光と白夜の物語ッ!』
―――あっ…。
発動した瞬間、やらかしたと悟った私。禁足地で見た氷塊の数十倍、メートルで表現するならば…300メートルくらいかな…。魔法の氷は訓練場のほとんどを覆いつくした。かなり力を加減したんだけど、それなりの魔法をと見栄をはったのが良くなかった。
「ご…ごめんなさいっ!大丈夫…ですか?」
とりあえず謝って、先生方のほうを確認する。氷塊は当たってないみたいで一安心。何か話されてる様子だけど、この距離だと聞き取れない…。50メートル走10秒フラットのユイ、走ります。
「アイン先生…どうやら寝不足がたたったようです。何やら巨大な氷の幻影が…。」
「奇遇ですな。私も氷の幻覚が見えておりまして…。病院に行きましょうか…。」
「あの…皆さま、これ、現実です。氷、ちゃんとあります。」
「…?ガーネット様、ご冗談を…。」
「いえ、冗談ではなくてですね…。」
頑張って走った私。バグステータスに助けられて、世界記録なみのスピードで。
「はぁ、はぁ…。どうでしたか…?」
「ユイさん、どうやら私たち体調が優れないようでして…。氷の幻影が見えまして…申し訳ありませんが、日を改めてということで…。」
「えっと…この氷、私の魔法なんです…。」
「ユイさんまでご冗談を。触れれば冷たい。まさに本物の氷…!?本物っ!?」
「な、なんと!?冷たい。幻影ではない…。現実!?」
大変な騒ぎになってしまいました。ちょびっと見栄をはったことを後悔しています。どうも、バグステータスの22歳、ユイです。




