069 唯、叫ぶ。
「ユイ様、お城より通知がございました。ご確認くださいませ。」
「ありがとうございます。」
―――ガーちゃんからかな?
封蝋…だったっけ?招待状とかの封に使われてる、赤い印鑑みたいなのがついてる。高級感に緊張感が高まる私。封筒のなかには、お手紙が入ってた。
「えっと…今日の午後、王城へ…か。」
謎に落ち着きはらっている私。実は昨日のショッピングで、フォーマルな服を入手したのだ。淡い黄色のアフタヌーンドレス。これでどこにお呼ばれしても大丈夫なはず。
―――やっぱり形から入るのも大事だもんね。うん。
実が伴っていないことこの上ないんだけど、そこはおいおいということで…。
■
時はあっという間に過ぎて、その日の午後。王城へと馬車で向かった私。歩いて行けるんだけど、そういうわけにもいかないみたい。
案内されたのは、いかにもなお部屋だった。きらびやかな装飾もたくさんあって、サッカーができそうなほどのサイズ感。右手と右足を同時に動かしつつ、指定された場所まで進んだ私。ガクガクブルブル。教えてもらった通り、頭を下げた姿勢を維持してる。ドアの開く音に続いて、コツコツという足音が響いてきた。と、とりあえずご挨拶を…。
「…冒険者のユイと申します。本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。」
ガチガチに緊張している私。友だち相手とはいえ、ガーネット姫はお姫さま。そしてここは王城。私のことを知らない人もいるはずだし…失礼のないようにしないと。
「ユイ?あの…いつも通りで大丈夫ですよ?」
「そうです。ユイ様。」
「はい。…へ?」
今、ユイ様って呼ばれなかったっけ?びっくりそのままに顔をあげちゃった私。そこには。
「…ジャ、ジャイアントさん!?」
「ユイ様!驚かせてしまったようで…申し訳ありません。」
「い、いえ…でも、どうして?」
「実は私…ガンバラント公爵家の人間なのです。」
「ガンバラント…こうしゃくけ…?公爵…公爵!?」
公爵って、たしかすっごい偉い人だよね。そのジャイアントさんが今、膝をおって傅いてる…。驚きの連続に、大きな声を上げ続けちゃった私。ガーネット姫の苦笑いに気づく。えっと…ごめんなさい。
「はい。次男でして、今回はガーネット姫殿下とのお見合いのため、こちらに。」
「え…?ガーちゃんのお見合い相手って、ジャイアントさん!?」
衝撃が大きすぎて、やっぱり大きな声で叫んじゃった私。世の中せまいというか、なんというか。
「はい。それでですね…ユイにお願いがありまして…。」
「なんなりと。」
「これからも私と…一緒に冒険していただきたいのです!…足手まといだと思いますが…私、ユイと一緒に…冒険者として生きたいのです!…ダメ…でしょうか…?」
「足手まといだなんて…そんなこと全然ないよ。ガーちゃんとの冒険、私も続けたい!おっちょこちょいの私だけだと…何やらかしちゃうかわかんないし…あはは。」
ガーネット姫が冒険を続けたくて悩んでたの、実は知ってた。タケノコの村で皆さんにお礼を言われたとき、照れ隠しの謙遜をしつつも、とっても嬉しそうだったガーネット姫。王城が近づくにつれて、ちょっとずつ元気がなくなっていったガーネット姫。緊張してるだけ…なんて言ってたけど、さすがにわかるよ。友だちだもん…えへへ。
「本当ですか!よかった…これからも、よろしくお願いします!」
「うん、こちらこそ!…あれ…?」
新婚さんを連れ出しちゃって良いのかな。ジャイアントさんに視線を送る。
「…?あ、私のことはご心配なく。ヒマワリの町にて新居を構えるお許しもいただきましたし…。冒険者は自由ですから!もちろん、町のことは不肖ジャイアントにお任せください!」
「ジャイアントさん…!」
ガーネット姫の表情もほころんでる。よかった。政略結婚だなんて…心配してたけど、どうやら未来は明るかったみたい。
■
すっかりいつもの調子を取り戻した私。周りに控えているお役人さんは目を丸くしてるけど…気にしない、気にしない。気にしたら負け。うん。
「どうやら話はまとまったようだな。」
奥の扉が開き、気品あふれるおじさまがおふたり。前を歩く方の頭上には、金色に輝く王冠が。
―――ん…?王冠…。
「お父さま。」
「陛下、父上。」
壇上から降りて、こちらに控えたガーネット姫とジャイアントさん。えっと…ガーネット姫のお父さんということは…。
「お、王様!?はっ!す、すみません!」
またしても叫んでしまった私。すぐに頭を下げる。
「そなたがユイか。」
「ひゃ、ひゃい!」
「そうかたくならんでもよろしい。ガーネットの父、ブリリアント=ローズノーベルだ。」
「ぼ、冒険者のユイです。」
「まずは礼をせねばならぬな。ヒマワリの町の件、そしてタケノコの村の件…その奮迅たる活躍ぶり、王都にも響いておる。」
「ありがとうございます。あの…町の皆さんのおかげでして…。」
「謙遜することはないぞ。そなたの力、娘からも聞いておる。そして何より…。」
国王さまがこちらに近づいて…緊張のあまり、身体が固まっちゃった私。次の瞬間、国王さまが頭を下げられた。なんとびっくり私に。
「あの…えっと…。」
周囲もざわついている。力自慢大会のときみたく、上を下への大騒ぎ。そりゃ一大事だもんね。国王さまが一冒険者の私なんかに頭を下げるなんて…。
「娘を助けてくれて、ありがとう。そなたがいなければ、娘は無事では済まなかっただろう…。ガーネット、父が愚かであった。怖い思いをさせてしまった…すまない。」
「お父さま…。」
「これからも…娘と仲良くしてやってくれ。このとおり。」
「も、もちろんです。私、ガーちゃんの友だちですし!あっ…。」
「ガーちゃん…?はははっ、ガーちゃんと呼ばれておるのか。友情とは、良いものだな。」
「はい、お父さま!」
そんなこんなでド緊張の波を受け続けた私。冷や汗ダラダラ。でも…なんだかとっても幸せな時間だった。




