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066 ガーネット、憂鬱なお見合い。【サブストーリー】

王城にてお見合いを待つガーネット姫。どうやらユウウツが心を覆っているようで…。

―――憂鬱(ゆううつ)なガーネット姫



「はぁ…。」


 とうとうお見合い当日になってしまいました。気持ちの整理がつきません。政略結婚(せいりゃくけっこん)…受け入れたくはありませんけれど、その必要性は理解しているつもりです。

 もちろん…というと語弊(ごへい)がありますが、お相手の方にはお会いしたこともありませんし、お名前すら存じません。それでも…政治のためです。


―――冒険者になりたいのです!なんて…。


 あの時は気心知れたタンク相手でしたから言えました。ユイに打ち明けるときには勇気をふりしぼりましたけれど、憧れの気持ちが私の背中を押してくれました。そして短い間でしたが、私は自らの夢をおいかけることができました。


 でも、今回は違います。幼いころからずっとアヤメ王国の第2息女(そくじょ)として生きて参りました。まだ年齢が片手におさまるようなころから、品格を身に着けるためのお勉強も。あまり良い評価はいただけませんでしたけれど、私なりにがんばってきたつもりでおります。今回も…その延長に過ぎません。そう必死に言い聞かせているのですが…。


「姫さま、そろそろ刻限(こくげん)でございます。」

「はい…。」


 だめです。こんな表情のままでは失礼にあたります。お父さまの…いえ、王国の顔に(どろ)を塗るようなことはできません。


―――ユイ…私、どうしたら良いのでしょうか…。


 ユイに無用な責任を背負わせてしまう…そう思って口には出しませんでしたけれど、きっと「ガーちゃんの思うようにした方が良いよ!」と、明るくこたえてくれるのでしょうね。


 自由に生きるユイに…本当に少しだけ、大海の(あくた)程度ですが…嫉妬(しっと)の情を感じたことがあります。「ユイは良いですよね。自由に生きることができて。」と、今思えば失礼すぎることを口にしかけたこともあります。

 ユイは…あの明るさで隠しておられますが、ひとりぼっちのとても辛い状況におられます。私には想像もできないほどに。自由とはほど遠い…自由に生きるしかないという人生。


 それに気がついたとき、私は自分が情けなくなりました。


 ユイにはヒマワリの町を守る義務も、たったひとりで指揮者(コンダクター)のもとへ乗り込む義務も、何もなかったはずです。もちろん冒険者としての義務はあったでしょうけれども、あそこまで自分の身を危険にさらす必要はなかったと思います。

 そんなユイに憧れて冒険者を目指す…今思えば、とんでもないことを言ってしまいました。必死に生きようと、理不尽に負けないように、涙を(こら)えて歩いているユイに、あなたのようになりたい…そんなひどいことを…。


―――謝らなければ…なりませんね…。


 きっと「そんなこと言われたっけ?ぜんぜん気にしてないよ!」と、かわいらしい笑顔で許してくれるのでしょうね。

 でも、ユイが真夜中に散歩していること、知っています。ある日の夜、急にあらわれてびっくりさせちゃおうと、いたずら心満載であとをおいました。ユイは丘の端っこに身をかがめて…。


「姫さま…?」

「…は、はい!あ、いえ…すみません。」


 タンクに心配をかけてしまいました。そうです。私は自らの責任を全うしなければなりません。でも…ほんの少しだけ…わがままを言わせていただけるのならば…。


―――冒険者として…生きてみたいのです。





「よいか。いつも通りにしておれば大丈夫だ。不安も大きいと思うが、ガンバラント公爵(こうしゃく)家は武勇はもちろん大変に素晴らしい家柄(いえがら)だ。今まで通り、不自由ない生活が送れるはずだ。」

「はい…お父さま。」


 どうしても暗い表情になってしまいます。できる限り下を向いておきましょう。恥ずかしいということで、お許しいただけないでしょうか。


 ガンバラント公爵家は、お父さまの仰る通りのお家柄です。公爵領が王都より距離があることもあり、王城でお顔をあわせたことはほぼありません。そもそも私が政治向きな舞台に立つことは…ほぼありません。ほとんどお兄さまのお役目となっております。


「いやー、ガンバラント公爵。突然の話ですまなかったな。」

「何をおっしゃいますか陛下。才媛(さいえん)と名高いガーネット姫殿下とのお話をいただけますとは…まさに望外(ぼうがい)のこと。家族一同、喜び勇んでおります。そうであろう?」

「は、はい。」


 お相手の方も緊張されているようです。そして…始まってしまいました。心のなかはごちゃごちゃです。どうしたら良いのか、もうわかりません。お話はお父さまが進めてくださるそうですので…お任せします。私は…そう、いつも通り姫としての理想を演じるだけです。





(せがれ)には、まだ幼少のころから冒険のイロハをたたき込みまして。剣士の道に進ませようと思っておりましたが、今では格闘家の冒険者として武勇をはせております。つい数日前も…モンスターの襲来から町を防衛しまして。」

「いえ…私はただ、一心不乱に戦っただけのことでして…。町の皆さん、冒険者の皆さんと力をあわせての勝利でした。」

「おぉ…すばらしい。町の防衛に力を尽くしたうえ、民とも親交を深めるとは。素晴らしい人物。そう思うだろう?」

「え、えぇ。大変すばらしいことと存じます。はい。」


 すみません、お話をよく聞いていませんでした。お父さまの問いかけに、当たり障りのない言葉で返します。

 町の防衛…そういえヒマワリの町でも。もう思い出のひきだしに入っておりますが、あの時は必死でした。それこそユイがいなかったら、どうなっていたことか。国王家に名を連ねるひとりとして、無力を痛感した瞬間でした。


「素晴らしいだなんて…恐縮です。」

「そうそう、前にも話したと思うが、娘にも多少の心得をと思ってな。冒険者としてしばらく遠方へ行かせておった。」

「なんと…僭越(せんえつ)ながら、姫殿下ほど我がガンバラント家にふさわしいお方はおられません。重ねて御礼申し上げます。」

「わははっ!そうであろうて。」

「さすがでございます。えぇ、そろそろ若いふたりで…ということで。」

「おぉ、そうだな。では年寄りは退散するとしよう。わはははっ!」


 お話がまとまりました。さすがに顔を上げないと失礼にあたります。まずは深呼吸です。落ち着いて、いつも通りに。…やっぱり無理です、困りました。


「あの!陛下、父上…お話しておきたいことがございまして…。」

「どうした?」

「私、公爵領ではなく、この地にて生活の拠点を築きたいと。その…お許しをいただきたく!」


 突然のご発言でしたので、とても驚きました。私としては慣れ親しんだ場所ですので、大変にうれしいご提案ではあるのですが…。


「な…何を言っている!?いかに次男とは申せ、兄を支え、公爵領を守り抜くことこそつとめ。それを…。」

「私、約束したのです。大切な町を守りぬくと。そのために…何があってもヒマワリの町を離れるわけには参りません!」


 とても強いお気持ちをお持ちなのですね。私、政略結婚に幸せは…と思っておりましたが、どうやら思いの先が少し違っていたようです。そうです、ヒマワリの町を守るという大切な…。


―――え…?ヒマワリの…町?


「約束!?なんだそれは!ヒマワリの町は(おそ)れおおくも陛下が治めておられる地、その防備に不足があると申すか!」

「いえ、そのようなことは…。しかし、しかし約束したのです!私を全うな冒険者にしてくださった大恩人と!その方がヒマワリの町にお戻りになるまで…町を離れるわけには参りません!今、こうしている間にも町が襲われていたのならば、私は…私は…。」

「誰がそのようなことをっ!」



「私の大恩人にして師でもある…ユイ様ですっ!」



「…ふえっ!?」


 反射的に顔を上げてしまいました。しかし、ユイのことをユイ様とお呼びになるお方は…。


「ジャ、ジャイアントさん!?」

「あぁ、ガーネットさ…ガーネットさん!?なぜガーネットさんが…えっ!?ガーネットさんがガーネット姫殿下!?」


 衝撃的な再会でした。お互い「冒険者」としてヒマワリの町におりましたが、まさかジャイアントさんがガンバラント公爵家の…。世の中せまいものです。


「ふふふわはははははっ!そのようなことがあったのか。ヒマワリの地で。よかろう。ヒマワリの町に住むことを許可する。」

「へ、陛下!?」

「公爵。話に出てきたユイなる冒険者は、ヒマワリの町を救った英雄なのだ。指揮者(コンダクター)をたったひとりで制圧し、モンスターの大侵攻をものの数分でおさえこんだ…勇者にも近い存在なのだ。」

「なんと…大侵攻を…。」

「そうなのです、父上。ユイ様の魔法はすさまじく、我が渾身(こんしん)の蹴りをもってして、微動だにされないという…師に失礼ながら、人間とは思えぬお方なのです。」

「そう。報告にも人間とは思えないと書かれていた。」

「お、お父さま…。」


 ユイが人ではない認定されてしまいます。それはだめです。ユイは私の大切な友人であり、憧れの存在なのです。


「しかし…。」

「公爵。たしかにヒマワリの地と公爵領は離れている。しかし、それは解決できる問題だ。もし必要とあらば、ヒマワリの町と公爵領をつなぐ街道を整備しよう。若者が人生をなげうつ覚悟でした大勝負…見届けるが親のつとめであろう。」

「陛下…。」

「お父さま…。」

「それに…ガーネットも何か言いたいことがあるのだろう?不甲斐ない父ではあるが、それくらいのことはわかる。」


 お父さまの言葉に、私は思いの全てをぶつけました。

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