063 唯、願いを込めて。
「…あの…ユイ様、こんな感じでよろしかったでしょうか?」
「もちろんです!ありがとうございました。でも…ハゼンさんて、意外と良い人なんですね。」
魔王軍に入ってたくらいだから、血も涙もないような人だと思ってた。魔王に命令されたとはいえ、新人冒険者ばっかりの町を襲撃したくらいだし。ところがどっこい、別人みたく良い人になっちゃったハゼンさん。ストップ安からのストップ高、ギャップ萌え…まではいってない。
「なんと…ユイ様からお褒めのお言葉を頂戴できる日が来ようとは…。身に余る光栄。ハゼン、身を粉にして働きます!」
―――ありがたいんですけど…あの、『様』はやめていただけると…。
「えっと…ユイ、どういうことなのでしょう?」
さすがのガーネット姫をもってしても、ちんぷんかんぷんな状況だったみたい。町を襲ってた魔王軍の幹部がやってきたと思ったら、雇い主の魔王をボロボロにこき下ろし、私のことを「最強の存在」と形容した。そりゃ、誰だって混乱しちゃう。宿屋のご夫妻にも説明をしないと…。
「えっと…かくかくしかじか…でして。なのでカイルくんは、ヒマワリの町で冒険者を目指すことになると思います。」
「そうだったんですか。さすがユイですね!」
「いや…しかし、ユイさんってすっごい冒険者さんだったんですね。魔法に包まれてたときは、慌てましたよ…。」
へへん、褒められた。
「でも…妹さんのことはどうしましょうか?王都にいらっしゃるんですよね。」
「あ…そっか…。」
王都とヒマワリの町、行き来できない距離ではないけど、離ればなれになってしまう。幼いきょうだいが離れて暮らすというのも…。どうしよう、せっかく丸くおさまったと思ったのに…。あいかわらず詰めが甘かった私。…しゅん。
「あの…ユイ様、ご提案があるのですが…。」
「ハゼンさん、どうぞ。」
別に私が許可するようなことじゃないけど、怖がらせてしまった責任はある。優しい微笑みを添えて返事してみた。
「ひぃっ!?あ…すみません。ヒマワリの町で一緒に暮らす…というのはどうでしょうか。王都の医療レベルは存じませんが、ヒマワリの町のそれは、私の目から見てもかなり高いと思います。それに、タケノコの村にも近いですから、もしものときでも安全かと…。」
「ユイ、私も賛成です。カイルくんの言葉通りならば、魔法が原因ということでしょうし…それならば、フリルさまの加護があるタケノコの村に行けば…あら?フリルさま、ここにいらっしゃるんですから…お願いすれば良いのでは…?」
「えっ!?あのにっくきフリル…ではなく、魔王を凌駕するフリル様がここにっ!?」
びっくりしているハゼンさん。そっか、たしかに魔王軍にとってはうれしくない存在だもんね。その言葉を聞いて、待ってましたとばかりに飛び出した水色のもふもふ…じゃなかった、フリルさま。
『ぴよよー』―――そだよー!あ、魔王軍だった人だね。ボク、プリンチペッサ・フリルだよ。―――
「ま…まさかと思いますが…ユイ様とフリル様が手を結ばれたのですか…?」
「えっと…手を結んだというか…。」
『ぴよ、ぴよよ』―――お仕えすることにしたんだよ、ボクが。―――
「よかった…魔王軍など早く抜けて本当によかった…。ユイ様にフリル様の力までつくとなれば…もはや魔王軍など…誇張なく小指でポンっ…。」
「あの…?」
ハゼンさんが何か呟いてたみたいだけど、よく聞こえなかった。
「あ…いえ、こちらの話で。それでフリル様、なんとかなるものなのでしょうか?」
『ぴよ…ぴよよぴよ』―――うーん…こればっかりは難しいんだよ…。ボクの力の基軸は、邪悪な力の侵入を防ぐことにあるんだ。かけられてしまった魔法を解くのは…。―――
「そうですか…。」
『ぴよぴよ』―――でも、悪くなっちゃうのは防げると思うよ。さすがにヒマワリの町にまで、加護の雪を降らせるわけにはいかないから、ボクの羽をあげることになるけどね。―――
「フリルちゃんの羽?」
『ぴよ、ぴよぴよぴぴよ』―――うん。雪ほどの力はないけど、邪悪な魔法ひとつくらいなら、十二分な力を発揮するはず。はい、ユイちゃん。―――
あたたかみを感じる光につつまれた、真っ白な羽。ゆりかごのように揺れながら、私のてのひらへとおさまった。
「これを持たせてれば良いの?」
『ぴよ』―――うん。お部屋に置いておくくらいで大丈夫だと思うよ。ちょっと寒くなるかもだから、お部屋はあったかくしてあげてね!―――
「ありがと、フリルちゃん。」
『ぴよよー』―――えへへー、褒められた!―――
くるくると飛び回って私の頭上に着地したフリルさま。かわいい。そしてオバケ騒動から始まった今回の一件も、そんなこんなで落着しそう。とってもよかった。
■
「ユイ殿。このままヒマワリの町へと戻ります。カイルくんの妹さんの件は、ギルド本部と調整します。何かありましたら、またお知らせください。いつでもどこでも駆けつけますので。」
クロックさんは魔法馬を呼び出し、驚異的なジャンプ力をもって、ひょいとまたがった。すご…。
「…ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「皆さん、本当にありがとうございました。俺、ヒマワリの町で頑張ります!」
「うん!頑張ってね。」
「妹さんにもよろしくねー!」
ゆっくりとスピードを上げる魔法馬。ギルドマスター、元魔王軍幹部、冒険者を目指す少年という…とってもユニークなパーティーは、ヒマワリの町へと旅立っていった。カイルくんの未来が明るいことを願って。
「さてと…ガーちゃん、そろそろ私たちも。」
「えぇ、そうですね。お世話になりました。」
ペコリと頭を下げる私たち。
「いえ、こちらこそありがとうございました。ユイさんやガーネットさんのおかげで、いろいろと解決しましたし。」
「そんなそんな…冒険者として当然のことをしただけで…。」
「また何かあったら呼んでください。…オバケ以外だったら、なんとか頑張りますので…。」
そう、オバケ以外だったらなんとかする。それが冒険者としてのモットーになりました。どうも、夜に出歩くのが怖くなった22歳、ユイです。
「あの実は…そのことなんですが…ここの宿、閉じようかと思っているんです。」
「え…?オバケ騒動も解決しましたし、アクドーイの宿も、もうすぐ無くなると思いますけど…。」
ガーネット姫、やっぱり更地にするつもりだったんだ…。怖い。
「夫婦ふたりの宿屋…なかなか体力的にも難しいと思っていたところなんです。ここは街道沿いの宿屋、お食事の材料を買いに行くだけでも…結構大変だったりするんです…。」
「そうでしたか…。」
言われてみればたしかに。最寄りの町は、王都かハナミズキ・タウン。移動手段が限られているこの世界では、買い出しだけでも一苦労だと思う。
「でも、ここを閉じるだけですよ。」
「え?」
「実は…昨日、旦那と話し合って…ヒマワリの町へ行くことを決めたんです。」
「ヒマワリの町へ?」
「はい。そこでまた一から宿屋を始めようかと…。カイルくんきょうだいのことも…気がかりですし…。」
「女将さん…。」
宿屋のおふたり、とっても優しい。クロックさんたちがフォローしてくれているとはいえ、まだ5歳のカイルくん。妹さんとのふたい暮らし、大変なことも多いと思う。女将さんたちが近くにいてくれるなら、とっても助かる。
「かなり前から考えていたんですがね…カイルくんの件でふんぎりがつきましたよ。さて、明日から片付けだな。ミチ、忙しくなるが…よろしくな。」
「あなた、一緒にがんばりましょ。」
あらま、幸せオーラでいっぱい。どうやら、ふたりの世界に入っちゃったみたいで。邪魔者は退散しましょう、ね、ガーネット姫。
ラブラブなおふたりに見送られて、私たちは王都へと歩を進めるのだった。




