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062 唯、演技してみる。

「連れてきたよ!」


ドアを開け、カイルくんを呼ぶ私。隣にはさっきとはうってかわって、威圧感(いあつかん)ましましのハゼンさん。ガーネット姫にはアイコンタクトをしておいた。察してもらえたようで、女将(おかみ)さんたちに耳打ちしてくれてる。さすが。


「えっ?…わぁーっ!魔王軍の紋章(もんしょう)…本物だー!」


服装に興味津々(しんしん)のカイルくん。


「キミか。魔王軍に入りたいなどとほざい…ではなかった、言っている少年は。」

「はい!おじさん、俺、魔王軍に入りたいんだ。魔王さまを紹介してください!」

「おじ…エホンッ…魔王を紹介しろと?」


唐突(とうとつ)な咳払い。たしかに見た目、お兄さんとおじさんの中間くらいだもんね…。ちょっと何かにひびが入ったような音が聞こえたけど…気のせいかな。


「うん。俺、強くなりたいんだ。魔王さまって、勇者が何十年かけても倒せてないんでしょ?じゃあ…魔王さまが最強じゃん!」


カイルくんが、ぐうの音も出ない正論を振りかざした。素直すぎる言葉…勇者さんが聞いたら、泣いちゃうと思う。


「ふははっ!確かに魔王は強い。しかし…時代遅れだな。」

「時代遅れ…?」

「そうだ。魔王など…もはや過去の遺物にすぎん。ただの雑魚だ。」

「魔王さまが…雑魚!?」

「時代は常に変わる。この世界で最強の存在は魔王ではない。もちろん勇者でもない。」

「でも…でも、魔王軍はそこらじゅうにはびこってるよ。強いからでしょ?」

「違う。あまりの弱さに見過ごされているだけだ。」


なぜか視線を送られた私。これ、私が見過ごしてることになってるのかな…?


「世界最強の存在…ユイ様によって!」

「へ?」


突然の指名に、間の抜けた声が響いた。





「え…?お姉ちゃんが…最強?」


そりゃその表情になるよね。ドアノブの修理にあんな手間取ってた私を見たら。


「信じておらん顔だな。ユイ様のお力がわからんとは…。良いだろう。ユイ様の強さ、とくと思い知るが良い。いきますよ、ユイ様。」

「へ?あ…はい。」


―――何も聞いてないんですけど…。


「ジャイアント・ヘル・フレイム!」


ハゼンさんの魔法陣(まほうじん)から炎が轟々(ごうごう)と噴出した。それこそ木の1本や2本、灰になって飛んでいきそうな雰囲気。でも…ちっとも熱くなかった。私のバグステータスのおかげ…というわけじゃなくて、普通に熱くもなんともなかった。迫力は凄まじいけど、威力はほぼない魔法なんだと思う。見掛け倒しだけど、見栄えは最高。


「…熱くなーいっ!」


ハゼンさんの台本をなんとなく察したので、あえて大袈裟なリアクションをしてみた。


「す…すげー!お姉ちゃん、本当に大丈夫なの?」

「もちろん!」


全力でブイサイン。ハゼンさんには目線でめちゃくちゃ謝られた。ごめんなさいをあらわすテンプレみたいな表情をもって。


「これでわかったであろう。この世界最強の存在は、間違いなくユイ様だ。魔王程度の雑魚、ユイ様にかかれば…小指でポンだ。」

「小指で…。」


小指を見つめるカイルくん。


「ポンだ。」

「ポンッ!?」


目をキラキラさせて、はしゃぎまくっているカイルくん。でも、この話の流れ…まずくないかな?


「少年、強くなりたいと言ったな。強くなりたければ、最強を学ぶべきであろう。」

「たしかに…。おじさん、ありがと!」

「おじ…まぁ、良い。」

「ユイお姉さん!俺を、弟子にしてください!」


そうなっちゃうよね。そうだよね。どうするんですかハゼンさん。


「少年、待て。ユイ様は世界最強。魔王軍の最強幹部と呼ばれたこの私でさえ、足元にも及ばぬ存在。いきなり最強のそばにつき、過酷な修行に耐えられると思うか?」

「…それは…。」

「まずは鍛錬(たんれん)を積むことだ。ユイ様の故郷にして、ユイ様の加護を受ける里。ヒマワリの町にて!」

「ヒマワリの…町?」

「そうだ。私はもちろん、ユイ様にお仕えせんとする者は、みなヒマワリの町にて修行を積む。どうだ少年。ヒマワリの町に来る…その覚悟はあるか?」

「…あります!おじさん、よろしくお願いします。」

「おじ…私の名は、ホン=ト=ハゼンだ。ハゼン様と呼べ。」

「わかったよ、ハゼンおじさん!」

「…もう良い。おい、そこの男!」

「…俺か?」


突然の指名を受けたクロックさん。苦虫をかみつぶしたような表情で、ハゼンさんに近づく。


「そうだ。この少年、今日よりヒマワリの町にて修行を積むこととなった。良いですか…ではなかった、良いか?」

「…構いませんよ。」


ぎこちなさすぎる笑顔を作っているクロックさん。これ、あとから大変なんじゃ…。


「では、決まりだな。細かいことは、その男から聞くんだ。良いな。」

「はい!」


カイルくんは、満面の笑みで駆けだした。全力でクロックさんに謝罪するハゼンさんを背に…。

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